1月のこと、弊社宛の電話は日本産業衛生学会の企業展示ブースへの出展依頼でした。開催地は私の地元の広島、平和公園の一角にある国際会議場です。私が会社をはじめて8年、学会への出展はしたことが無かったのですが、こういった電話がかかってきたのも初めてのこと、縁というものはあるものです。先週開催され、平和公園で自分が仕事をしていることに少し感慨めいたものを感じていたら、ふと隣のブースの関東の人同士の会話が耳に入りました。

 前日の晩、居酒屋で広島名物のお好み焼を食べたけど、キャベツがべしゃべしゃで水っぽくて、これは本当に美味しいものなのか、疑問に思ったとのことです。そんなもの美味しいわけがありません。…小麦粉を水で溶いた生地にキャベツ(やもやし)、豚肉などを乗せ、さらに焼きそば麺(もしくはうどん)を炒めて乗せ、最後に目玉焼きの上にそれらをひっくり返して乗せ、押さえつけて平たくして、ソースとマヨネーズをかけてカツオ節と青のりを振りかけたら…お好み焼になるものではありません。広島のお好み焼は美味しく作るのは至難の技です。かねがね思うのですが、下手くそな人がお好み焼きを作ることは罪です。ああ広島の名物ってこんなものかと思われるので、お好み焼を気軽に作ってはならない、これは広島の鉄則です。水っぽいお好み焼を食べてしまった彼に、美味しいお好み焼を食べてほしいと心から思ったのでした。…そして私も関東人の彼と同じ頃にお好み焼を食べていました。

 平和公園から西に向かって土橋(どばし)という広島電鉄の駅を目指して歩いていた私、企業展示後で腹ペコでしたので、実家に帰る前にお好み焼を食べようと思いました。店のあてがあったわけではなく、広島の町中ならお好み焼屋の一つや二つあるだろうと歩いていたらやはりありました、広島のプロ野球球団そのままの名前の店の暖簾をくぐりました。カウンターの席に通された私、肉玉そばを注文、豚肉とそば入りのお好み焼という意味です。広島のお好み焼にはそば玉かうどん玉のどちらかが入り、豚肉に加えてエビとかイカとか、冬ならカキを入れたりもしますが、私は豚肉だけで良い派です。…その店は高齢の夫婦が2人で切り盛り、美味しい店は老舗であることが多いので、期待が持てました(若い店主の店は修行不足のことが多い)。お好み焼は年の功、私はそう思います。

 …お好み焼が私の目の前の鉄板に出てきました。箸はなく、コテ(フライ返しの小さめのもの)が添えられています。実は私、コテのみで食べるのは初めて、ここは広島の地元の人間らしく、コテを駆使して食べることにしました。私の隣に座った女性の1人客には皿に乗せて割り箸を出していたので、地元客っぽくない(注文時の振る舞いで分かる)か女性や子供には皿、地元のオッさん客には鉄板&コテなんでしょうか。初体験ながら、コテで食べ切りました。右利きの人なら右から順番に、一口サイズに切れば案外たしかにコテだけで食べられます。テレビでやっていた広島カープの試合を見ながら、まさに広島のオッさんになりきって食べました。…さて肝心の味ですが、素晴らしく美味しいお好み焼でした。キャベツの水気はしっかり飛ばされて、ふっくらした本物の広島のお好み焼でした。広島でお好み焼屋を選ぶ際のポイントは、観光客がさまようような繁華街ではない場所にある店を選ぶこと、でも郊外でない方が良さそう、これは私の経験上ですが案外的を射ていると思います。

 ところで今、広島県は人口流出が多くて困っているらしいです。でも私は広島に戻りたいとは思わない、故郷とお好み焼は遠くにありて思うものですね。