遡ってみてみると、なんと半年も糖尿病の話を書いていません。

 

 

いくら自由気ままなブログとはいえ、職務放棄と取られかねない。ですか?汗

 

 

ということで、今回は久しぶりに糖尿病薬の話題です。

 

 

とはいいましても、すでに以前にも少しだけ触れた、GLP1製剤に絡んだ内容となります。

 

 

この薬・・・少しアンタッチャブルな時期なので、書くか迷いましたが、

ええい、だからこそ、書いてみようではないか!

 

 

 

さて、1年以上前に、糖尿病薬の紹介⑩で書いております、GLP1受容体作動薬。

 

 

その進化形として、GIP/GLP1作動薬が2023年4月に登場しました。

 

 

血糖改善や食欲低下をはじめとする多面的な効果を持つGLP1受容体に作用するだけでなく、GIP受容体にも作用。

 

 

このGIPはインスリンだけでなく、血糖を上昇させるグルカゴンの分泌や、食欲の低下にも関与するようですが、臨床試験では血糖降下作用に加え、強烈な体重減少効果を示しました。

 

 

 

マンジャロという商品名ですでに使用可能となっておりますが、

その体重減少効果により肥満改善目的の非糖尿病症例でもバズってしまい、

現在在庫供給が追いつかない、手に入らない状態となってしまいました。

 

 

ちなみにその名前、キリマンジャロのように孤高の山のような、高見を目指した薬として命名。

だっけ?全然違うかもしれません。

 

 

 

 

糖尿病の学会等でも、非糖尿病症例への使用が危惧され、

在庫供給に懸念をもたれていた中で起こってしまった騒動であるが故、

大変残念ではありましたが、この原稿を書いている段階では、

本当に必要としている糖尿病症例でマンジャロが使用できない状況が続いております。

 

それどころか、使用しはじめた患者さんが、急遽使用中止というカオス状態です。

 

・・・。

 

 

 

さて、そのマンジャロ、

注射製剤で週1回、自身のお腹に注射を打つ、という薬です。

 

 

アテオスというデバイスを用いてお腹に注射するのですが、かなり簡便で痛みも少ないため、

注射製剤というハードルを下げたデバイスですね。

その名のとおり、当てて、押すだけ。

 

 

トルリシティというGLP1製剤でも用いられているため、その使用感はここ数年の実績があります。

 

 

マンジャロ自体は6つの用量・規格があり。

2.5mgから開始して、1ヶ月毎に5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、そして最大量の15mgまで増量可能です。

 

 

2024年の4月までは新薬扱いですから、2週間毎の診察が必要となります。

 

 

 

まだたくさん使用されている訳ではないため、現時点でのコメントとなりますが、

本格的に体重が減り始めるのは7.5mgを越えたあたりからでしょうか。

 

 

もちろん、2.5mgや5mgで体重が減る方も見えます。

 

 

 

2.5mgから増量しながら使ってゆくと、一気に体重が減るというよりは、ひと月に1kgずつ減っていくイメージの方が妥当な印象です。

 

 

一気に体重が減るのは危険が伴いますし、リバウンド。明らかに体内バランスを崩してしまう可能性があります。

 

 

その面でも、急激な高容量使用はデンジャラス。

 

 

何につけても、急激な変化は、その後の崩壊を招くことが多いことは周知の事実でしょう。

 

 

最大量の15mgを使用すると使用前から比べて体重が10~15kgも減る、というデータもありますが、

 

 

一方で、人間それだけ体重が減っても大丈夫なのか、という懸念も当然あります。

 

 

 

従いまして、専門医の指導のもと、バランスを崩していないかを確認しながら、増量、使用が肝要となります。

 

 

 

肥満症への適応も日本では正式には通っていないため、まずは糖尿病患者さんに限定した使用が妥当でしょう。

 

 

その段階を経て、安全性等を確認したのち、肥満症に使用できるかを協議してゆく形となるかと思います。

 

 

欧米に比して、高度肥満が少ない日本では、その効能やデータ蓄積に時間がかかるという側面もあるでしょう。

 

 

しかし、マンジャロ15mgまで到達できる日本人はどれくらいいるのかな・・・。

 

 

食欲不振や嘔気などの副作用で、10mgくらいでギブアップという例が多いのではなかろうか。

 

 

こればかりは使用経験が増えてこないとわかりません。

 

 

 

そして、やめたら体重が戻ってしまうのかどうかも問題です。

半一生、注射を打ち続けるの?

 

 

 

もちろん、一旦体重が下がった後にモチベーションがアップして、体重を維持できることもあるかとは思います。

代謝も一旦体重が下がるだけで良い流れに乗ることもあるでしょう。

いわゆるリセッターとしての役割。

 

 

 

そんな、肥満に対する強烈なゲームチェンジャー要素を含んだマンジャロ、ですが。

 

 

果たして、体重の意味とは。ということを深く考えさせられる一因にもなりました。

 

 

 

本来、食事が手に入りにくい環境であれば、脂肪として溜め込むことが得意であることは、利となります。

 

 

けれども、これだけ食事へのアクセスが簡便で、簡単にカロリーオーバーを達成できる世の中では、逆にカロリー制限との戦いになることがしばしばです。

 

 

「余剰な」脂肪が身体に害をもたらすことは基礎研究でもいくつか示されていますし、身体が重くなればなるほど、動物としての自由度は下がる。

 

 

その身体を維持する、骨、筋肉、皮膚、心臓をはじめとした内臓、そして脳にも負担がかかるからです。

 

 

 

果たして、自然を超越した(?)、科学の力を用いて体重を減らすと、どのような事が起こるのか・・・

 

 

 

もちろん、すでに人類は血圧、糖尿病、コレステロールなど、科学の力を用いて数値を下げることが、健康に対してポジティブな場合があるという側面は見て参りました。

 

 

 

進行した糖尿病や、高度の肥満に対してこの科学の力を用いることは、そのまま放置するよりもよい結果となる可能性は高いように思います。

 

 

 

そうでないレベルの糖尿病や肥満(あるいは肥満でもないケース?)に対して、これらの力に頼りすぎると、どのような結果となるか・・・

それは、神のみぞ知るところなのかもしれません。

 

 

 

飽食の時代、例えば10年先の未来で、科学の力を利用したダイエットが当たり前になるのか、そうでないのか、果たして…

 

 

そして、GIP/GLP1受容体作動薬、あるいはGLP1受容体作動薬の適正利用、とは・・・。

 

 

 

2023年8月時点ではこの薬剤を巡る問題は非常にナイーブでありますが、あえてツラツラ述べました。

 

 

えらく無責任な内容でしたが、わからないこと、それでもこれから知見をつみあげなくてはならないことの分別は、大切です。

 

 

コロナ診療も同じですが、瞬間瞬間で変わる局面、その時点での真実を見極めることはいかに難しいことか。

 

 

 

当然、当院では糖尿病専門医として、必要と判断される糖尿病症例でのみのマンジャロ処方となります。

 

 

今後、海外のように適応が拡大した場合、肥満症に対しての使用を検討するという流れも、前述のとおり。

 

 

 

人間が切り開いたゲームチェンジャーとなりうる新たな薬の未来を、一臨床医としてしっかり向き合いながら、見届けようと思います。

 

 

 

富永 隆史