2回目はαグルコシダーゼ阻害薬。通称、α-GIについてです。

商品名はベイスン、ボグリボース、セイブル、ミグリトール、グルコバイ、アカルボースと、配合剤グルベスが該当します。

その働きを一言で申し上げますと、「糖分の吸収を遅らせる薬」。血糖を減らすのではなく、上昇を抑える薬効です。健康食品でも謳われていそうな文言ですが、α-GIはきちんとした薬ですから、血糖上昇抑制の力はしっかりしたものです。

将棋の駒に例えると歩。効果が確実で、序盤から使用される事が多い薬剤ですが、血糖を下げる薬ではないため、HbA1cなどの検査数値を下げる力は弱いです。

しっかり実績もあり有用な薬剤ですが、自分は多用するかと言われると、あまり使用しないと言わざるを得ません。

理由は毎食直前に内服が必要であり、自身が最も嫌う、残薬を生む点が大きいです。

食事前に薬を飲むということはやはり日常的にはデメリットです。お腹ペコペコ、できたてのご飯を食べようと思ったときに、そうだ!薬・・・。

ご飯はなるべくできたての温かいものを食べるからこそおいしいし、元気が出るのだ!と信じている筆者に取って、この仕打ちはあまりにもつらい・・・。

OD錠といって水なしで飲めるタイプもありますが、絶対にお口の中が大変な状態になってからご飯を食べることになり、なんだかもうご飯が嫌いになりそうです(涙)

 

一方、そこが効能で、中にはこれを食前に服用する度に自分が糖尿病であることを自覚できます!という前向きな意見を下さる方もおられますし、食前に食欲をある程度下げる効果を狙ってという部分もあるとは思いますが・・・、いくら糖尿病でも食べる楽しみを奪われてしまうとなると、なんだかなあ・・・、と思ったりしてしまいます。

 

少々脱線してしまいましたが、実績としては十数年前に糖尿病予備軍、あるいは糖尿病初期の患者さんの食後高血糖を是正すると、心臓病を減らすという論文が注目され、市場を広げました。

特にCGMという、24時間血糖を測り続けてグラフ化した血糖推移を見ると、このα-GIを飲んでいる患者さんの血糖がかなり安定し、血糖の乱高下が是正されることが一目でわかる例がほとんどです。CGMで血糖推移を見える化すれば、α-GIはさながら「と金」クラスです。

このようにグラフ化すると一目瞭然でも、病院で測るHbA1c(1-2ヶ月の血糖状態を数値化したもの)ではわずかな改善にとどまることが多く、数字的な費用対効果が薄く感じられてしまうため、CGMなどを用いた効果の可視化、丁寧な指導と、内服に対する労い、モチベーション維持が不可欠です。

 

一方、ある程度進んでしまった糖尿病患者さんでα-GIを内服して頂き、食後高血糖を是正するメリットに関して。その効能を検証されている論文がどれくらいあるか把握していませんが、臨床医の感覚としてはやはり食後高血糖が高度な症例で、大血管障害(特に冠動脈疾患などの心疾患)を生じている割合は多いように感ぜられ、血糖変動を抑える事が重要である認識は確かだと思われます。

 

副作用は腸で働いて糖の吸収を抑える分、腹部にガスが増えてオナラの回数を増やしてしまったり、下痢、便秘、腹痛などを生じるケースもありますが、いずれも激烈というほどではないことが多いです。アカルボースが強い分、副作用が多くなるといった程度でしょうか。

腸管の壁にガスが大量に溜まって画像検査で医療者を驚かせる症例や、非代償性の肝硬変症例で、肝性脳症を引き起こしてしまった(腸内細菌の変化でアンモニアが上昇?)症例を数例経験しましたが、これらは専門医や、博識ドクターの預かり領域でよいかなというレベルです。

 

以上のようなメリットデメリットを考えながら、極論で言えば、主に服薬アドヒアランスの観点からα-GIを使用しなくても食後高血糖が是正できるのであればそれが一番だと思っています。

工夫した食事指導(野菜から先に手をつける、ドカ食いしない、液状の炭水化物を流し込まない)などを見直しながら、目に余る食後高血糖があれば介入、是正するというスタイル。

食後高血糖をあぶり出す目的で、患者さんにはあえて来院前に食事をしてお越し頂き、人体実験の如く、食事内容ごとの血糖上昇を経験することで、食事と血糖値の関係に向き合って頂いたりしながら、会話を楽しんでおります。

 

 

最後に、反応性低血糖とα-GIについて。

これは脱線ですが、食後に(インスリンが出過ぎて)低血糖になることを反応性低血糖と呼びます。病名というか、病態(状態を指す言葉)です。

この反応性低血糖にα-GIを用いる事ができる(理論的にも効果的と思われる)のですが、実際には胃を切除して生じるダンピング症候群の類いや、耐糖能障害の初期での反応性低血糖にはある程度効果があっても、特に何も既往歴のない、比較的若年の反応性低血糖には効かない(薬を一通りスイッチしても)事がしばしばです。

おそらく自律神経の失調(これも病態で、病気ではないと思っています)や、年齢、性別的に女性ホルモンなどが関係しているのでしょうが、気虚、気うつに対する漢方薬で治療して上手くいったり、そうでなかったり。経過を追ってゆくことで自然に改善していたり、改善せずにずっと抱えていたり。

様々なパターンがありますが、いずれにしても決定的解決策がないことに本人が困っていることが多く、気長に、けれどもなるだけ丁寧に治療を行う事を心がけています。

 

内服の難しさでやや苦言の多い記事となってしまいましたが、病態によって絶対不可欠なα-GIと思っておりますので、これからも頼りにしています。

・・・こんな忖度の一文を最後に添えるほど、治療薬達の事はそれぞれ愛おしく思っておりますので(^◇^;)

 

富永 隆史