優勝者は各地で作品再現講習をしてまわる事になる。
毎週のように休みの日に講習してまわった。
そんな中サロンでは1月の社員旅行の計画で持ちきりだった。候補がいくつかあって多数決で決まる。支店スタッフ含め十数名。本店のBeaut Hairは1番スタッフが多い。
韓国、国内、プーケット。
俺は釣りとサーフィンが好き。海が好き。当然プーケットに行きたい。
そこで1人1人面接。「プーケット行こうぜ。プーケットに一票入れてくれよ。多分俺にとって最後の社員旅行なんだよ。頼む。」

そして投票。数で勝る本店のチカラでプーケットに決まった。ネットでプーケット情報を毎日チェックした。

忘れもしない12月29日。ジョージ先生に呼び出された。
「友部君はこれから独立するからねぇ。海外旅行でお金使って遊んでる場合じゃないからさぁ。うん。1月17日で卒業ね。」

「え⁈…分かりました…」
師匠の言う事は絶対である。卒業の日がいきなり決まった。その日の終礼でみんなに伝えた。「えーそんな訳で僕はプーケットに行けなくなりました。」 「えー⁈((((;゚Д゚)))))))」

1月17日はすぐにやって来た。営業後の終礼。最後の終礼。皆は明日からプーケットでバカンス。俺は今日で13年間楽しく働いたお店を卒業。
なんだかどうしていいのか分からない状況。とりあえず、「明日から楽しんできて下さい( ´ ▽ ` )ノまた近いうち遊びに来るから。」

いつもは裏階段から帰るけど、正面入口から出た。

最後に膝をつき、一礼した。

13年間の長いようで短かったような、幸せな修行期間が終わった。
ラストミッション。

岩楯先生に手紙を書いた。

敬意の念を込めて、あえて書かせて頂く。後でお叱りを受けるかも知れないが、あえて書かせて頂く。

「岩楯先生がずっと苦しんでいた、ツラいと、終わっていないと言っていらした事は、終わったのでしょうか。僕はそれを終わらせる事はできたのでしょうか。それだけが気になります。」

しばらくして携帯にメールがきた。

「丁寧なメールありがとうな。今思えば練習してる時が1番楽しかった。肩を触った時、細かったぞ。ちゃんと飯食えよ。楽しかったぞ。ありがとうな」

答えは書いてなかった。だけど何となく、「これで終わったんだ」と思った。
数日後、やっぱり会いたくなって、毎日通った学大のサロンに挨拶に行った。
お弟子さんから、先生は極真の道場に行かれていて不在と聞いて、何となく先生の笑顔が浮かんだ。

約一年後の最近聞いた話だけど、岩楯先生はもうコンテストに興味がないらしい。

俺の任務は、これで全て完了した。

表彰が終わり、席に戻った。
みんな笑顔で待っててくれた。

工藤さんが「やっててよかったろ、なあ、やっててよかったろ!!」と抱き締めてくれた。
はい。やっててよかったです。兄貴のお陰です。そしてジョージ先生と岩楯先生の座る席の前に行き、膝をつき頭を下げた。
「世話になりました」
言ったらもうダメだった。
とめどなく涙が溢れてきた。
ジョージ先生はまた「よくやった。よくここまでやった」と言ってくれた。俺の生涯の師匠である。先生の弟子になれた事、神様に感謝している。
岩楯先生はガキみたいにワンワン泣いている俺の背中を叩いて、「本当の男を見たよ。」と言った。

本当の男って、勝った男って事じゃないと今は思う。結果は本当に大事。
だけど、本当の男ってやりきった男。自分に一切の言い訳を許さなかった男。人に感謝し、人を感動させる男。
岩楯先生はどんな気持ちで言ってくれたのかな。とにかく嬉しかった。

数えきれないくらいの賞状、トロフィー、副賞をかたずけなきゃと客席の端に移動した。
移動して待っていた。


客席の間から、陽さんとマナワが近づいて来た。2人とも笑っていた。
マナワを抱き上げた。「パパ勝ったぞ。」マナワが「勝ったどー!」と言った。
陽さんが「お疲れ!おめでとう!」と言った。全くいつも男前な俺の自慢の奥さんだ。肩に手を置いて「ありがとう」と言った。
「愛しています」とは言わなかった。周りにたくさん人がいたから。

あの日何回おめでとうと言って頂き、ありがとうございますと答えただろう。その回数は、あの日に限って言えば間違いなく日本一だったと思う。

ホテルに戻り、陽さんの家族と一杯やってから、岩楯先生と工藤さんと三人で飲んだ。ビールが半端なくうまかった。たまたま同じお店にいらした向原先生からシャンパンを頂いた。オーラが凄かった。

さっさんに見せたかった。

店を出た。まだ会えてない人がいる。会わなきゃ気が済まない人がいる。何で会場で声かけてくれなかったのか。
今ではその理由が分かるような気がする。

丸山一樹さんに電話した。

「あ、友部君?今どこ?」
「丸山さん!飲んでるし、ここ初めて来たし、どこなんて分からないっすよ!」
初めて来た香川県高松市の繁華街の細い路地。

顔を上げたら前から丸山さんが携帯で話しながら歩いてきた。「あー、いたいた」
映画のシーンみたいにスローモーションに見えた。

一緒に闘い、先に頂点に行き、その後ずっとずっと応援してくれた丸山さん。走って行って握手してお礼した。「まあ分かってたけどさ、おめでとう」
信じてくれてたんだなあと思った。
それからたくさんの人と合流して飲んだ。

終わってから思う事。
競技人生を通してたくさんの人に出会い成長する事ができた。結果が出るずっと前から支えてくれた人達がいて、自分にとって何が大切か、誰が大切か分かった。

全国チャンピオンのタイトルより、ずっと大切な事。それは心からの感謝。言葉にするのは簡単。誰でも言ってる。その本質。それが2010年の10月18日に分かった。

新しくて凄い何かの為じゃなくて、
大切な忘れ物を取りに行った香川県での全国大会だった。

そしてあと1つだけ、俺には気になる事があった。
それが解決しなければ、俺の任務は完了した事にならないと考えていた。