ある日のことでした。
母 「腕時計が動かないよ・・」
私 「何言ってんの。電池切れだよ!」
母 「電池、入れておくれよ。」
私 「俺じゃ無理だよ、時計屋さんに頼んでくるよ。」
母 「仕事の退職祝いに、職場のみんなが買ってくれたんだよ。」
私 「そうか、じゃ大事にしないとね。」
母 「これも動かないね。」
私 「何が?」
母 「これだよ。これも電池かね?」
私 「何これ!こんな小さな腕時計電池はいらないよ!」
母 「じゃ、だめだね。」
私 「待って、これゼンマイだよ。ゼンマイ式の時計だよ。」
母 「じゃ、切れてるね。」
私 「かなり古い時計だね。おもちゃかと思ったよ。」
母 「中学卒業の時に、おばあさん(母)が買ってくれたんだ・・」
私 「・・・そうなの。じゃ時計屋さんに見てもらおうよ。」
母 「無理だよ、古いもの。」
私 「古い人間だって元気なんだから大丈夫だよ。」
母 「高いだろうしね。」
私 「そりゃそうだね。昭和の初期だしね。部品もあるかどうかわからないからね。」
母 「やっぱり、やめとくよ。」
私 「やめるの・・」
母 「おばあさんが買ってくれたんだけどね・・・」
私 「じゃ、一応預かってくよ。」
母 「高けりゃいいんだよ。」
私 「はいはい。」
私 「すいません、電池交換お願いします。」
匠 「はいよ、じゃ明日までに交換しておきますよ。」
私 「よろしくお願いします、あっそれと。」
匠 「・・・」
私 「これなんですけど・・」
匠 「随分と古いものだね。」
私 「動かないんですよ。」
匠 「ありゃ、ゼンマイがいっぱいで廻らないね!文字盤もだいぶ汚れちまってるな。」
私 「動きますかね。」
匠 「分解して、確認してみるかい。」
私 「できますか・・」
匠 「どうしたのこれ?」
私 「私の母が、就職祝いに母親に買ってもらったそうなんです。」
匠 「・・・そうかい、やってみるよ。まかせてよ!」
一週間後
私 「母ちゃん、これ」
母 「おや、電池交換できたんだね。」
私 「これもだよ」
母 「・・・・・」
私 「どうしたの、直ったんだよ。」
母 「これ、無理して買ってくれたんだよね・・・」
私 「良かったじゃない。」
母 「カチカチ聞こえるよ、手ばなさなくて良かったよ・・・」
私 「匠に感謝しないとね。」
母 「高かったんだろうね。」
私 「そんなこたぁないよ、やがては俺がもらうからね。」
母 「そうだね。そうするよ・・」
※驚いたことに、メーカーでは古い時計はすべて製品番号で管理されており
母の時計も、リストにはありました。しかしながら、それは修理不能とされていました。
あとは、時計屋さんの技術に頼るしかない状況でした。
かなり細かな作業でしたが、匠はその願いをかなえてくれました。
しかも、修理の値段も抑えながら・・
なんとなくうれしくて、文章に記してみました。
匠に感謝!
親に感謝!