シェークスピアの史劇「ヘンリー六世」と「リチャード三世」を原案に描く、菅野文の漫画「薔薇王の葬列」を一気読みしましたので、感想をメモしておきたいと思います。
アニメ化が決定し、最新コミックス14巻も発売されるということで、既刊の1~13巻が無料で読めたのでした。

※以下、ネタバレを含みます※




舞台は中世イングランド。白薔薇・ヨーク家と赤薔薇・ランカスター家の王位を巡る戦い「薔薇戦争」の真っただ中です。
主人公のリチャードは、美しく強く正しかったヨーク公リチャードの三男。父ヨーク公が王となることを強く望んでいましたが叶わず、父の無念を晴らすべく戦い、奔走し、ついには王の座を……と書くと、なんだかものすごいマッチョ感がありますが、同作におけるリチャードは女性と見紛うような容姿をしています。
というのも、彼は両性具有だから。物語を読んだ感じでは肉体的にも性的指向もいわゆる「女性」のほうが強そうなのですが、男として育てられたので本人の意識としては「男たるものかくあるべし」という思いが強固にあり、そのジレンマが彼を長いこと苦しめ続けます。
加えて、当時(というかこの世界)では「両性具有=悪魔」という考えが一般的であり、リチャードは実の母親から常に激しい憎悪の対象となっており、それゆえに彼は自分のことを呪われた存在として認識しており、誰からも愛されることはないのだと絶望を抱えて生きています。

でも、実際はめっちゃモテモテなんですよwいや、モブとか敵キャラとかからは嫌われますけれどもね。それはそういうものですから。大事なのは!周囲のイケメンが!!リチャードにメロメロなこと!!!じゃないですかーーーーー!!!!
なのに本人だけ「俺は悪魔だ」とか「呪われた存在…」とか悩み続けているので、生い立ちを考えれば致し方ないと理解しつつも、軽くイラっとすることも正直ありましたw


個人的にはもうひとりの主人公と思っている人物がいまして、それはランカスター家のヘンリー六世。リチャードにとっては父ヨーク公を殺害した不俱戴天の仇です。(ヨーク公を実際に作中で嬲り殺しにしたのは王妃マーガレットですが。)
全般的に無能で王の素質ももちろんなく、なのに物心がつく前から王位につかされて、他人に利用され続けてきた人物。生い立ちから、誰かを愛することすなわち誰かに性的な欲望を抱くことを悪だと思い込んでいます。ちなみに、王妃との間にひとりの子どもをもうけてはいますが、それも「いやだやめて」と泣いて懇願するところを衆人環視のなか紐で縛り上げられて無理やり射精させられています。
たびたび精神を患うようにもなった彼の夢は「羊飼いになりたい」。たまらず城を抜け出したところ偶然リチャードに出会い、二人は強く惹かれあうようになります。


お互いの名前しか知らぬまま偶然の出会いを重ね、ますます思いを強くしていく二人がついに"真実"に気づき、残酷な現実に対峙するのが第一部のクライマックスです。

リチャードとヘンリーにとってはお互いが、自分の人生に差し込んだ唯一の「光」でした。もちろん何も知らない"おままごとみたいな恋"かもしれませんが、だからこそ純粋に魂が惹かれあったとも言えます。平時であればそこから少しずつ相手のことを知っていき、愛を確かなものに育て上げていくことができたかもしれませんが、ときは戦国。それは許されませんでした。
愛されたいと思った相手が実は親の仇だったとか、トラウマを乗り越えて愛したいと思った相手が両性具有だったとか、そりゃちょっとハードル高いよね。まして、一方は塔に幽閉されていてさらに精神が不安定になっていて、もう一方は殺害を命じられて塔に足を運んでいるわけでして、心の余裕も時間的猶予もどちらもない。ちょっとどころかムリゲーじゃねえか……と同情を禁じえません。

このクライマックスでリチャードは、己が両性具有であることをヘンリーに初めて打ち明けますが、「悪魔」という言葉とともに拒否されてしまい、長らく心を閉ざしてしまいます。
リチャードも気の毒ですがヘンリーも本当に気の毒で。というのも、リチャードが訪れる前にリチャードの母親がやってきて、リチャードは悪魔だのなんだのと吹き込んでいたからです。精神が不安定だったヘンリーは簡単にその呪いの言葉に取り込まれてしまいました。
ヘンリーによる「悪魔」という言葉は、リチャードへというよりは「情欲=悪」というヘンリー自身の呪いに対してであり、混乱した意識の中で「具現化した目の前の欲望」に発せられた言葉だと思うのですが、リチャードにしてみたら「自分は悪魔と言われ拒絶された、以上」ですもんね…この二人はこういうボタンの掛け違いというか、運命のいたずらというか、そういうのが多くてつい心を寄せてしまいます。

第二部ではバッキンガムという"半身"を得て、(束の間かもしれませんが)愛し愛される喜びを享受しているリチャード。それはそれで良いことなのかもしれませんが、やはり私としてはヘンリーにワンチャンねえかな…と思ってしまうところがあります。だって気の毒なんだもん。とはいえ、「やっぱりおまえでなきゃ!」みたいなハッピーエンドを求めているのかといわれると、そういうわけでもなく……ただちょっと、救われてほしいだけなのです。


てなところで、「薔薇王の葬列」感想でした。
薔薇戦争を題材にしたダークファンタジー、、、というかラブロマンス……?乙女ゲー感ありますね!
主要キャラ2人についてしか書いていませんが、ほかにも魅力的なキャラはたくさんいます。なんだかんだで続きが楽しみです!

 


ところで、ヘンリーって何歳設定なんでしょうね?史実ではリチャードと30歳くらい年が離れているようですが、この作品ではもうすこし年は近そうです。(でなきゃ、あんなに動けないはず……)

 

 

 

余談:

最近ドはまりして一気読みしたダークファンタジー漫画は「狼の口 〜ヴォルフスムント〜」。スイス独立戦争を題材にした作品です。読み終えた後、久しぶりに走り出したくなりました。

連載終了してから数年経つので、Twitterとかでもほとんどつぶやかれてなくて、ちょっと寂しかったです。

感情のシェアってほんと、麻薬みたいなもんですね。