「響新共命」に収録された
楽曲にまつわる物語を
お届けしていきます✨

 

    

双生の丘

 

 

星は息を止めていた。


 

風は砂を運ばず

海もまた眠っていた。

 

すべての音が消えたその中心で

ひとりの人物が立っていた。


 

彼女の名前は―TOMA

 

荒廃した世界を

再生するための音を紡ぎ出す仕事を

任されていた。

 

枯れた大地の割れ目から

かすかに光が漏れている。

 

彼女はその光に手をかざし

静かに歌を紡いだ。

 

「そろそろどうかな?」


 

 

 

まるで大地に語りかけるように呟くと

空間そのものが震えた。

 

沈黙していた大地から

“生命の記憶”と呼ばれる光が溢れ出す。

 

TOMAの足元に

光の紋が広がる。

 

それはまるで

世界そのものが彼女に

応えたように見えた。

 

「そっか、待っててくれてありがとう。

もう一度、息を取り戻そうか。

まだ、この星は終わっていないよね」

 

 

その言葉は祈りでもあり

大地への命令でもあった。


 

枯れた大地の下で

微弱な鼓動が再び打ち始める。

 

「さぁ、それじゃ

あの人たちも呼び寄せようかな」

 

 

宝石赤

 

 

TOMAは光を生み出し

宇宙へと放つ。


光は4つの異なる方向へ分かれた。

 

ひとつは大地を再生させる

フェリシア・アースライトのもとへ。


 

ひとつは灰から新たな生命を生む

カーラ・フェニックスのもとへ。


 

ひとつは風を操り、エネルギーを生成する

セリク・ウィンドウのもとへ。


 

ひとつは水を操り海洋を安定させる

マリナ・サイレンヴェールのもとへ。

 

それは彼らを呼ぶための、“印”だった。

 

 

 

TOMAが瞼を閉じると

空間が揺れ、4人の姿が浮かび上がる。

 

枯れた大地から吹き出す黒い霧が

彼女の足元に広がった。

 

「大丈夫……私があなたの夢を繋ぐよ」

 

TOMAの言葉を言い終えた瞬間、

TOMAの姿は光に溶け

4人からは消えた。


 

だが歌は止まっていなかった。

 

大地の奥で、海の底で、炎の中心で

風の流れの中でTOMAの旋律が

響き続ける。

 

4人は即座に手を取り合い

円を作り、TOMAの旋律に合わせて

歌を重ねた。


 

それは、目覚めの合図。


失われたもう一つの地球が

ゆっくりと呼吸を始めようとしていた。

 

 

宝石赤

 

 

 

フェリシアは大地の上に立ち

両手を土に当てる。


「……これかしら?」

 

TOMAの旋律が地の底から響き

彼女の心臓の鼓動と共鳴した。

 

その音が、赦しのように優しく彼女を包む。
涙が頬を伝い、芽が息をした。

 

「もう一度、根を芽吹かせるわね」

 

 

宝石赤

 

 

カーラは灰を掬い、耳を澄ませた。


“TOMAの旋律”の一節が微かに重なる。


 

『灰の中に、命が眠っている』


 

その音が彼女の記憶の奥を震わせた。


燃え残った灰が金の花となり

土の上に散っていく。


「ここからまた始まる」

 

 

宝石赤

 

 

 

セリクは風の洞窟に行き

手を掲げた。


 

「TOMAの歌か…久しぶりだな」


 

音の粒が空気を震わせ

洞窟から聞こえる音は、

 

まるでこの星が歌い始めたかのような

響きとなった。

 

そして、洞窟を抜けた風が

再び世界を巡り循環が始まった。


 

 

宝石赤

 

 

マリナは深い海で目を閉じた。


静寂の中に、旋律が波のように届く。

それは赦しの歌。


「流れよ、再び巡れ」


 

海流が蘇り、生命が光の泡となって

踊り出す。

 

 

宝石赤

 

 

 

4人は再び集い、TOMAの名を呼ぶ。

「また、あなたに呼ばれたのね」

「終わってなんかいないよ」

 

TOMAは軽やかに答えた。

姿は見えないが声は続いた。

 

 

「この星は、ただ眠っていただけ。


再生には“影”が必要なんだ。

あなたたちが抱えているもの

それが種になる」

 

 

「影……自分の?」

とフェリシアが聞くと

 

 

「そう。赦すこと

それが最後の鍵。

 

責めないでね。

大事なのは、赦すこと。


あなたたちなら、きっとできる。」

と、TOMAの声が4人を包んだ。

 

 

宝石赤

 

 

 

4人の意識が過去の

記憶に引き戻される。


 

同時に、それぞれの胸に

“TOMAの旋律”が重なった。


痛みの底で、音が優しく寄り添う。

 

 

 

汚染された大地に

家族が苦しめられる様子に

フェリシアは、

自分の力が足りないと泣きながら

大地の再生と向き合う姿を見た。

 

 

セリクはそれまで

自然の中で過ごし

当たり前に聞こえていた風の声たちが

聞こえなくなり共に憔悴し

風が消えて音が失われていくという

恐怖に飲まれていく体験を再び味わった。

 

 

カーラは、自分の能力を周りに

伝えることが出来ないまま

過ごしていたため

有事の時に何も手が出せないまま

戦火に飲まれてしまった

記憶を取り戻した。

 

 

 

マリナは大好きな海が汚されていき

生物たちに影響が出ていたが

当時は獣医として従事していたため

本来の能力を開花できず

視点が狭かったことを憂いていた。


 

 

4人とも、初めはその記憶が

今経験しているホンモノと勘違いし

それぞれが苦しみ悶えた。

自分を責め続けた。

 

その時

カーラが思い出した言葉があった。

それはTOMAの旋律であり

彼女がよく話していた言葉を思い出した。

 

『あなたは、どこに目をつけるか?』

 

 

「そうだ!この世界の何が見たいのか。

今なら変えられる!」

 

カーラの叫びと共に音が弾け


パーン、と光が割れた。

 

 

宝石赤

 

 

 

目を開けると

TOMAが微笑んでいた。


 

「おかえり」

 

 

 

「そうだったよ

もう色んなことを忘れていた」

セリクが呟く。


 

 

「これが記憶の種であり

私たちの影か」

マリナが水の結晶を見つめる。

 

 

「この星を再生させる最後の

仕事だったのか」

4人がそれぞれの種を植えると

大地は光を放った。


 

「影があるから、光もある」

セリクが語り

 

「私たちが呼ばれた意味は

これもあったんだね」

フェリシアが涙を流した。

 

 

カーラが微笑む。

「そういえばTOMA

イシュタルが探してるって聞いたよ」


 

 

「そうなの?ふふ、次の仕事かな。

ここが再生したから

双生した大地に呼ばれるのかもね」

 

 

「また会おうね」


「うん、すぐにね」

 

 

TOMAが告げると4人が去り

TOMAは再びひとり

森の奥へ消えていった。

 

 

静寂の中に、微かな旋律が残る。

それは星そのものが

歌っているようだった。

 

 

TOMAの声が、風に溶けて響いた。

 

 

「みんな、ありがとう。

星はきっと、また歌い始める。

 

 

ねぇ、知ってる?

音は消えないんだよ。

誰かが聴いている限り、ね」

 

 

そして、光に包まれた。


音は永遠に次元を超えて

生き続ける。

 

 

 

「双生の丘」は

こちらで視聴いただけます

 

CDはこちら

 

こちらの楽曲は

10月11日に

お楽しみいただけます

 

https://pienipisara2.thebase.in/items/116795775