10月に公開する
超次元トリッパー☆イシュタールの
物語を公開していきます
第5話:星結ぶ言の葉
地底深く
黒装束に身を包んだ
一族が住んでいた。
彼らは「光」を内に持つ者たちであり
強い光を持つからこそ
黒装束に身を包んで暗躍する
部隊であった。
地上の聖域が侵されたとき
彼らは戦いに参戦する役目。
その決断を下すのは一族の長。
「光は強すぎれば世界を裂き
弱すぎれば誰も救えない。
それを知るがゆえに
地上の人たちがまだ
自分たちの光を信じていないがため
今は手が出せない」
ライミナはその一族の末に
生まれた少女だった。
彼女の光は誰よりも小さく
いつも「役立たず」と嘲られてきた。
そのため、地上の人が
人ごとには思えなかったのだ。
地上から祈りが届く。
無垢で純粋な声。
「助けてください、光よ」
と。だが長は首を振り
「まだ動くな、時期ではない」
と命じた。
一族の者たちは冷ややかだった。
「助けとはいうが、
自分たちで蒔いた種であることを
知るべきだ。
どうして
弱いふりをしたままの人たちを
自分たちは命をかけて
守らなくてはならないのだ?」
「自ら進もうとしない。
まだ人は
学ぶべきことがあるのだ。
光が手を貸して良い合図というものが
長にだけ口伝で伝えられている。
しかし
まだその兆候がないのだ。
つまり
宇宙はまだ手を出してはならないと
言っているのだ。
ならば、私たちは手を出せない」
それを聞くたびに
ライミナの胸は締めつけられた。
「でも、あの声を放っておけない…
ならば
私たちが
教えてあげたら良いんだよ。」
「いや、彼らがそれを望まない限り
教えることも出来ない。
理解しなさい、ライミナ」
彼女は小さな光を両手に抱き
葛藤していた。
その夜
聖域に光の船
イシュタール号が降り立った。
「あなたはどこの家の子?」
ライミナは質問したが、
「君は、地上へ行きたいと思っているね」
紺碧の衣をまとった人物が答えた。
ライミナは
その見透かされたような質問に
はっとして警戒を強めた。
「心配しないで
私の名前はミレナ・サフィールで
こちらはTOMA。
二人ともイシュタール号のクルーで
あなたに協力しに来たの」
ミレナ・サフィールは
異次元の知識を集め
人類の進化を支える仕事を担っていて
今回の地上の戦争に関与する
任務が与えられたと言っていた。
ライミナが事情を把握して
安心したところで
「地上に行くなら、手助けしようか?」
とTOMAが言った。
ライミナは俯きながらつぶやく。
「…でも、私の光は小さすぎて」
「小さい光だからこそ
見えるものがあるよ」
そうTOMAは言った。
「君の光が示す場所に“種”がある。
それを見つけて持ち帰ってほしい。
それは君にしか見えないんだ」
ライミナは一瞬迷った。
光が小さいのに、私にしか見えない種?
そんな話、信じて良いのだろうか?
でも、何故かその言葉が
心の奥で震えるように響いた。
掟を破り
ライミナは地上に出た。
出た瞬間
地上の人に気づかれるのは
直ぐのことだった。
祈る人々は涙を流し
彼女に縋った。
「助けて、光の子よ!」
TOMAの言葉を思い出し
自分を信じれば…もしかして…
と思って助けに入ったが
ライミナの光は小さく、力は及ばなかった。
敵に押され、人々を守れず
逆に『あなたの光は弱すぎる!』と
責められた。
ライミナは膝をつき
涙が頬を伝う。
「やっぱり私は……
小さな光のままなんだ」
そのとき
ひとりの子どもが
彼女に駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん…泣かないで
僕は守られたよ。
守ってくれてありがとう。」
その言葉に
胸の奥が震えた。
この行動は
意味のないことでは
なかったのかもしれない。
その瞬間
彼女の視界に淡い光が浮かんだ。
あれが“種”?
乳白色の虹色に光る
卵のような種が見える。
「お姉ちゃん
あの種を取りに行かなきゃいけないの」
子供にも
大人にも地上の人には見えなかった。
「種?そんなもの見えないよ。」
TOMAはこれを言っていたのか。
確かに、彼女にしか見えなかった。
ライミナはその種を抱きしめ
地下の世界の聖域に戻った。
大地に植えると
光の奔流が溢れ
瞬く間に一本の樹が天へと伸びた。
その枝葉は星々を結び
根は地底に広がり
宇宙をひとつに繋いでいく。
「これは…!?」
ライミナは息を呑んだ。
TOMAが再び現れ、静かに告げた。
「それは新しい宇宙の均衡を
保つ柱(世界樹)だよ。
そして、君はその守護者として選ばれた」
ふと振り返ると
涙を流す一族の長と
驚いた一族のみんなの顔が並んでいた。
「これだ。これを待ってのだ。
小さき光が、地上に勇気を届けたときに
それが現れると口伝で残されていたが
まさか
そう言うことだったのか」
ライミナの光も
小さくはなかった。
世界樹の成長と共に
彼女自身も強く輝いていたのだ。
開花したのである。
ライミナは長に告げた。
「私はただ守るためだけには生きません」
黒装束の胸に手を当て
まっすぐに言葉を紡ぐ。
「光は、誰かと話し
分かち合うことで広がると
世界樹が伝えてくれています。
だから私は
地上と地底の架け橋になります。
光で傷つけるのではなく
言葉で理解を深めていきたい。
そのために、一緒に活動してください」
TOMAとミレナ・サフィールは
静かに微笑んだ。
「…その誓いこそが
新しい宇宙の始まりだ」
ミレナ・サフィールは長に
1冊の本を渡した。
「この世界樹の種ですが
地球で歌を歌い続けた人たちが
蒔いた種です。
その種が
この星と場所を選びました。
種は宇宙の意志によって
いくつか散らばってまかれ
それぞれの世界樹という
光の柱が立つことで
新しい宇宙が始まるとされています。
これまでの詳細とこれからの繋がりは
この本に表示されますので
一緒に連携を取ってください」
イシュタール号は
光の中へと溶けていく。
別れを見届けながら
ライミナの胸には確かな決意が灯っていた。
世界樹が風に揺れ
その葉は光を反射して
地上と地底を照らす。
ライミナは空を仰ぎ、誓った。
《私は架け橋となる。
言葉で、心で、世界を結びつける。
いつか地球に行って
この種を届けてくれた人たちと
出会えることを信じて。》
その光はもう
彼女一人のものではなかった。
未来を結ぶすべての者と
共にある光だった。
この物語から生まれた楽曲は
10月11日
お楽しみいただけます