10月に公開する

超次元トリッパー☆イシュタールの

物語を公開していきます

 

 

    

 

第4話:硝子の籠舎

 

 

TOMAとオフィーリア・ネブラが

一つのガラス細工を

抱えてやってきた。

 

 

ガラスの中では

白い粒子が淡く舞い

 

 

時折、光の線のように

絡み合っていたが

少し黒いオーラを

纏っているようにも見えた。

 

 

「…あれ?TOMA

それ、私のですよね?」

 

 

セリナ・ノヴァは

驚きの声を上げた。

 

 

TOMAは眉をひそめ

静かに問いかける。

 

 

「セリナ・ノヴァ

これ…いつから持っているの?」

 

 

「母方の祖母から受け継ぎました。

代々、女の子に手渡されてきたんです」

 

 

TOMAは短く頷いた。

 

 

「やはり…ずっと移動を

続けていたんだね」

 

 

オフィーリア・ネブラが

吐息をもらし目を細めた。

 

 

「どうりで何万年も

見つからなかったはずね。

 

 

リストに載ったまま

行方不明だったのよ。

 

 

それが同じ船の中に

眠っていたなんて…

ほんと、皮肉だわ」

 

 

セリナは小さく身をすくめた。

 

 

「でも…この中、怖いんです。

昼間は美しいガラス細工なのに

夜中になると砂の世界が現れるんです。

 

 

そして疲れ果てた女の人が現れて

砂で絵を描くんですよ。

 

 

涙をこぼしながら…。

 

 

最後の涙が砂に落ちると

絵も彼女も消えてしまうんです。

 

 

見ている私まで

胸が締めつけられるようで…」

 

 

「ほー。それは興味深いね」

 

 

TOMAは穏やかにうなずいた。

 

 

「怖いと言いながらも

大事に持ち続けていた。

 

 

貴方は強いよ。

よし―これ、私に預けてくれる?」

 

 

「…ええ。でも、

呪いがあるかもしれませんからね

大事に扱ってくださいね」

 

 

「うん、わかってる。ありがとう!」

 

 

TOMAが明るく返事をする。

と、そのとき、

 

 

「えい!」

 

 

TOMAは思い切り床に叩きつけた。

 

 

パリーンッ!

というガラスが砕け散る音。

 

 

「ちょ、ちょっと!TOMA!

大事にするって言ったじゃないですか!

ギャーどうしてくれるんですか!」

 

 

「見てごらん、セリナ」

 

 

ガラスの破片に囲われて

眩しい砂の世界がに広がっていた。

 

 

そしてガラス細工の奥に

隠されていた“砂の家”が姿を現した。

 

 

 

TOMAの声に促され

一行は砂の中へと足を踏み入れた。

 

 

すると―気がつけば

自分たちの体は小さくなり

家の前に立っていた。

 

 

宝石赤

 

 

「ララ・フロスティア…

ここがあなたの家かな?」

 

 

TOMAが声をかけた先の砂の壁が揺らぎ

そこから一人の少女が現れた。

か細い声が響く。

 

 

「誰?どうして…ここが分かったの?」

 

 

彼女は、永遠に生きる魔女と

呼ばれた存在。

 

 

けれども目の前の姿は

まだ幼さを残した少女だった。

 

 

疲れ果てて見えた“女性”の像は

誰かに植え付けられた

幻影にすぎなかった。

 

 

ララは目を伏せた。

 

 

「…私は、宇宙に生まれる悲しみを

美しい美術品に変える仕事を

してきました。

 

 

でも…ある日

間違えてしまったんです。

 

 

悲しみそのものではなく

悲しみに沈む人たちを見てしまった。

 

 

いじめられている少女を

守ろうとして…

 

 

いじめていた者を

美術品に閉じ込めてしまったんです」

 

 

声は震えていた。

 

 

「彼らは当時

敵の星の者たちでした。

 

 

…その報復で、私の夫と子供が

異空間に囚われてしまいました。

 

 

私のせいで。

私のせいで…私が、全部、壊したんです」

 

 

彼女の肩は小さく震えていた。

 

 

罪悪感が重くのしかかり

長い年月を孤独の中で

過ごした影が見えた。

 

 

「それ以来…私は全てが怖くなりました。

彼らを助ける術もなく

自分の作品も

存在そのものも信じられなくなった。

 

 

だから…自分ごと

このガラスの中に隠れたんです。

 

でも、忘れることはできなくて…毎晩

次元の裂け目を探し

砂に夫と子供の姿を描き続けた。

 

 

涙で消えるのが分かっていても

描かずにはいられなかった」

 

 

セリナは思わず声をあげた。

 

 

「え?でも…ララ

あなたはまだ少女じゃないですか?

 

どうして“疲れ果てた女性”に

見えたんです?」

 

 

TOMAが答える。

 

 

「それが相手の仕掛けた罠なんだ。

ララに幻想を見せ

罪悪感と絶望に閉じ込めていたんだね」

 

 

ララは小さく首を振った。

 

 

「でも、私は…私が悪いんです。

ここにいれば罪を償える

と思っていました…

 

悲しみの中に沈んでいる方が

楽だったから…」

 

 

その言葉に

TOMAが一歩近づき

真剣な眼差しを向ける。

 

 

「ララ。貴方は償いのために

生きる存在じゃない。

 

宇宙にとって必要な

役目を持っているんだよ。

 

ひとりで問題を抱えて

呑み込まれてしまったね。

 

これからは、オフィーリアと

共に歩けばいい」

 

 

オフィーリアも頷く。
 

 

「あなたが創り出すものは

宇宙全体の美の一部になる。

怖がらなくていいの」

 

 

ララの目に涙が浮かぶ。
 

 

「…私は、この自分で

自分を閉じ込めた牢獄から

出ていいんですか?」

 

 

「出ていいんだよ。

 

 

それにね

貴方が描き続けていた夫と子供の姿は

相手が仕掛けた報復の仕打ちでもあるけど

実在しないわけじゃないんだよ。

 

 

彼らは貴方が見た未来の伴侶と

子供なんだよ。

 

 

ややこしいけど

彼らはあなたにリアルに感じるように

未来から伴侶と子供の姿を持ち込んで

罠を仕掛けてしまったんだ」

 

 

ララも、ついてきた船員たちも

少々困惑した表情だったが

TOMAは続けた。

 

 

「貴方に報復してきた

存在たちから受けた呪いも確かにあった。

 

それは永遠を失った貴方が

老いていく姿となる幻想を見ること。

 

 

それから大事なものが

失われたという幻想を

みせられることだよ。

 

 

そして、貴方もまた罪悪感に

飲み込まれたので

 

 

貴方の未来に連れそうパートナーと

子供を描き始めて

 

 

この呪いがリアルであるように

共鳴してしまったの。

 

 

あなたのパートナーと

子供は未来に現れる存在で

大丈夫、必ず会えるよ」

 

 

TOMAの声は柔らかかった。

 

 

「しかも、その子供は

特別な“種”を宿して生まれる。

 

実は、その種こそ

私たちが探しているものなんだよね」

 

 

ララは目を見開き

そして胸に手を当てた。

 

 

「…私、見捨てられていなかったのね。

宇宙からも…誰からも」

 

 

TOMAは優しく微笑む。

 

 

「どんな存在も、宇宙の子供だよ。

見捨てられることなんてない」

 

 

その瞬間

ララの頬を一筋の涙が伝った。

 

 

けれどその涙は

絶望の涙ではなかった。

 

長い孤独の果てに

初めて未来に繋がる光を

見出した涙だった。

 

 

こうしてイシュタール号は

新たな仲間ララ・フロスティアを迎え入れ

 

 

再び広大な宇宙を進んでいった。

 

 

 

この物語から生まれた楽曲は

10月11日

お楽しみいただけます