10月に公開する

超次元トリッパー☆イシュタールの

物語を公開していきます

 

 

    

第3話:光の宿り木

 

 

 

王太子であるエリオン・スティールは

戦争の国に生まれ落ちた。

 

 

国王は

強き軍を築くことこそ繁栄と信じ

国民すべてを戦士として育てていた。

 

 

十三歳を迎えると

誰もが「鬼」と呼ばれる存在と契約し

戦場へ赴く。

 

それが当然の世界だった。

 

 

だが王太子は剣よりも歌を

怒号よりも絵を愛していた。

 

 

 

庭で花を描き

小鳥と共に歌う時間だけが

心を安らげてくれた。

 

 

自分はここに

生まれるべきではなかったのではないか。

 

 

そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

契約の儀の日。

 

 

彼の前に現れた《鬼》は

鋭い眼光と獰猛な気配を放っていた。

 

 

「俺が力を貸す。お前は戦え」

 

 

王太子は勇気を持って

鬼を迎えるが

力は体を蝕み

衰弱していった。

 

 

彼は幼い頃から幾度も毒に狙われ

城に味方はほとんどいない。

 

 

孤独は深く

逃げ場も見つからなかった。

 

そんなある日

見かねた《鬼》が低い声で告げた。

 

 

「我らは戦うためだけに

存在しているわけではない。

 

お前が苦しいなら

契約を終わらせてもいいぞ」

 

 

 

その言葉に驚いたが

暗闇に差す光のようだった。

 

 

だが

それに気づいた王妃が

王太子を呼び出した。

 

 

「契約を解けば

鬼は滅ぶのですよ。

 

優しいあなたは

彼の役割を全うさせずに

死を望むのですか?」

 

 

王太子は答えられなかった。

自らの未来と

鬼の命。

 

その間で心は裂かれた。

 

 

王妃の冷たく響く言葉。

だが、彼女の指先は震えていた。

 

瞳の奥には

息子を失うことへの恐怖が

隠されていたのだ

 

もし契約を終えれば

鬼が滅び、王太子の体は健やかになる。

 

だが契約を続けなければ

国が危うくなる。

 

 

息子も国民も誰一人

見捨てるわけにいかない。

 

王妃もまた板挟みだった。

王太子はその矛盾に気づき

胸を痛める。

 

 

―その時

天空から光の船〈イシュタール号〉が

舞い降りた。

 

 

今回

この国への大使として選ばれたのは

フィリス・アークだった。

 

 

彼は多次元世界での

文化や言語に精通し

外交官として、王太子に告げた。

 

 

「あなたの中には

新しい時代の種が宿っています。

 

この国に合わぬのは、罪ではない。

なぜなら、あなたは新しい世界を

導く者だからです」

 

 

王太子は悟った。

違うことは恥ではなく

使命の証だったのだ。

 

 

彼は歩みを始め

同じ想いを抱く人々と出会い

対話を重ねた。

 

戦いを求める者との議論は苦しく

何度も心は折れそうになった。

 

 

だが《鬼》が囁いた。

 

 

「お前はいつも歌を歌っても

人に聞かせなかった。

 

絵を描いても誰にも見せなかったな。

今回も同じように

心を閉ざして終わるのか?」

 

その挑発に、王太子は笑った。

 

 

「君は口が悪いな。

でも、ありがとう。

今度は一人で満足するのではなく

皆に伝えていくよ」

 

 

年月をかけ

王太子は根気強く人々と語り合った。

 

戦が再燃しそうになるたびに

歩みは遅れたが

それでも国には少しずつ笑顔が戻り始めた。

 

 

 

やがて《鬼》は言った。

 

 

「そろそろ我々との契約を終わらせろ」

 

 

 

王太子は叫んだ。

「契約を解けば君は滅ぶ!

それはできない!」

 

 

 

だが《鬼》は静かに微笑んだ。

 

 

「お前を通して世界を見た。

生命は果てぬものだと知った。

またどこかで会える。

その時は―友にならぬか?」

 

 

「…君はもう、僕の友達だったよ。

また会おう」

 

 

 

契約が解かれると

鬼は光となって消え

一粒の種を残した。

 

 

王太子はそれを庭に植えた。

瞬く間に世界樹が芽吹き

強烈な光が城を包んだ。

 

 

人々はその下に集まり

胸の奥に隠していた

願いを口にし始める。

 

 

「本当は戦いたくない」

「笑って暮らしたい」

 

父王も母妃も

誰もが心の奥で平和を望んでいた。

王太子は宣言した。

 

 

「皆で新しい世界を育てていこう」

 

 

王太子は再びイシュタール号の

船員フェリスに聞いた。

 

「あの鬼は、どうなったのですか?」

 

 

「彼もまた、新しい旅へと出ましたよ」

 

 

「それはよかった。…では、この世界樹は?」

 

 

船員フェリスは答える。

 

 

「多次元世界で同時に

芽吹きが始まりました。

 

すべての樹が育つ時

エネルギーはひとつとなり

新世界を守護する神々の宿木と

なるでしょう」

 

 

 

王太子は人々と共に

この樹を守り育てると誓った。

 

 

そして、光の船は静かに

天空へ帰っていった。

 

 

 

 

宝石赤

 

 

フェリスがイシュタール号に戻ると

TOMAとリアムが迎えてくれた。

 

 

「上手くいかない場合は

鬼たちをどうするかという会議が

始まる直前だったよ

よくまとめてくれました。」

 

 

とリアムが言う。

 

 

「鬼と呼ばれる一族

彼らは元々他の星にいたのだけど

秀でた身体能力と頭脳の高さで

囚われの身になってしまったんだよね」

 

 

とTOMAが誰かに

説明するかのように話す。

フェリスがすかざず

 

「TOMA、

誰に向かって説明するんですか?

 

私は全て把握の上で

仕事してきたんですよ。

 

まぁ、でも、

ギリギリセーフでしたね。

 

私もどのくらい時間がかかるか

ヒヤッとしました。

正直にいうとね(笑)」

 

 

 

「契約させられたとはいえ、

捕食者となっていることでも

あるからね」

 

とリアムが言う。

 

 

 

 

「リアム!仕事は終わったの?

終わったのなら

次に私たちが次元間の

エネルギーの流れを止めに入るので

ちゃんと教えてくれないと!」

 

と、ゼフィアがやってきた。

「今、行くところだったんだ!

ごめんごめん!」

 

 

TOMAは一人呟く

「こうして鬼との契約を終えたからね

彼らたちのエネルギーが

行き来しないように

再契約されないようにエネルギーの

流れを止める仕事をする人もいるんだよ」

 

 

 

「ちょっと、TOMA、誰に話しているの?」

とゼフィアが聞くと

 

 

 

「あはは、なんだろうね(笑)?

さっきから

誰かがこの多次元を覗いて

物語のように聞いている子がいるんだよ」

 

 

 

「え!?多次元の介入!?

それはゼフィアの管轄なのでは?」

とフェリスが言うと

 

 

 

「まぁ、多次元世界って

そういうものだからね。

 

 

誰かが夢に見ているのかもよ?

宇宙がこの物語を

語り継がせたいのかもしれないしね」

 

 

 

 

とTOMAが笑って答えた。

 

 

 

この物語から生まれた楽曲は

10月11日

お楽しみいただけます