10月に公開する
超次元トリッパー☆イシュタールの
物語を公開していきます
第二話:蒼樹の祈り
イリスがTOMAの元にやってきた。
「おぉ!イリス・カーディア、
どうしたの?
カイラ・ルミナまで、
いらっしゃーい!」
ルミナは他者の感情を癒し
光のオーラを放つ能力を持ち
イシュタール号から
各惑星のサポートを行う部署に
所属している。
今日は地球に潜む
異次元的危険を感知し
未然に防ぐという防衛部署の
イリスと一緒にTOMAの元にやってきた。
「TOMA、遠隔ではサポートが
届かない星があるの。
とても小さい星で
かなり昔に人類は減って
ほぼ機械で星の役割が
担われているのだけど
どういうわけか
生命反応が薄いのよね。
人としての認識が薄いため
こちらとの交信が取れないわ」
とルミナが言う。
「ルミナに言われて
小さな星を確認してみたの。
だけど、少し前に3人いたうちの
1人の命が尽きたのに
届出がなかった。
それに
2人残っているはずなのに
人物としては1名しか反応が
残っていないわ。
しかも
その1名は同じ座標から
まったく移動した形跡がないのよね」
イリスは困ったという
表情でTOMAを見る。
「それで、行ってこいってことかー。
OK!水と自然豊かな星だよね!
行ってみよう」
古城の最上階。
そこには水を司る王女が住んでいた。
名は「アリエス・ヴォランティス」
植物や動物と意思疎通を
図る能力を持つ王女。
彼女の最重要な役割は
「体の内側で水を生み出すこと」。
この星では水を持つ者は
彼女だけであり
彼女の存在そのものが
世界を保つ礎となっていた。
彼女は年を取らず
ずっと若い姿で
以前は宇宙議会に
父王と参加していた。
くったくなく笑う笑顔が
印象的だったのだが
今は笑顔も忘れ
塔から降りる必要もなく
AIによって管理された機械の侍女と
共に暮らしていた。
彼女に対して
お節介を入れるような
余計なことをする人は存在せず
すべてが効率的に整えられた
静かな世界だった。
ー 何も感じない日々 ー
私の役割はただ
生きて水を生み出すこと
だけだと思って
日々を過ごしていた。
でも
ある晩から歌声が
聞こえるようになってきた。
「この風が運んでくるような歌はなに?
懐かしい気もするけど、
聞くのが怖い気もする」
そういって、彼女は
音が聞こえてくると
窓の扉を閉めて眠りについた。
彼女は
彼女が本来持っていた能力である
異次元の植物や動物とも
意思疎通を図る能力があったことを
忘れてしまっていた。
昔なら、怖がることもなく
興味を抱いて向かっていく
ほどだったのに…。
ある日のこと
日差しが心地の良い日に
一羽の鷹が青白く
透き通る石を運んできた。
初めて見る鷹に
初めて見る石だった。
彼女はそれを手に取り
光に当ててみると
光にかざすたび
幾重にも変化する輝きがあり
何時間でも見ていられた。
それは彼女にとって
「日々の変化」を与えてくれる
ものとなった。
数ヶ月した、ある日の夜
夢の中に青白い石と同じ輝きを
放つゲートが現れた。
「これは夢かしら?」
アリエスは
そう独り言を言いながら
鷹が先導するゲートをくぐった。
そこにあったのは
永遠に続く蒼白い光の湖の中だった。
耳に届くのは
AIの無機質な声ではなく
あたたかさを帯びた音。
それはやがて歌声に変わり
無数の人々の響きとなった。
「わぁ!初めまして!」
誰かがアリエスに語りかけた。
みたこともない服装だ。
どこの惑星の人だろうか。
「あなたが種を受け取った人?」
(私が受け取ったもの?
もしかしてこの青白い石のこと?
この人は何を知っていて、
私から何を聞き出したいと
思っているの?)
問いかけに
彼女ははっとし
また『怖い』という感覚を覚えた。
しかし、向こうの世界の人たちが
あまりにも楽しそうに歌うので
戸惑いながらも
再びその声に導かれ
彼女は答える。
「…私が受け取ったのは、この青白い石よ」
「わぁ!受け取ってくれてありがとう。
それは私たちの歌の結晶であり、
未来へ繋ぐ“種”なんだよ。
私は今、地球でね!
TOMA LIVEで盛り上がって…」
と、彼女が興奮しながら
話し続ける中
『―ねぇ、塔の外に出てこない?』
と、耳元でそっと鷹が囁いた。
「鷹が喋っている!?」
怖い反面
昔に聞いたことがあるような声に
彼女は従ってみることにした。
塔の螺旋階段を降りていく。
しかし
何万年も使用していなかったからか
途中で途切れ
地上まであともう少しというところで
階段が欠けていた。
「私、いったい今まで
何をしていたのかしら
どれだけ時が経っていたの?」
「昔は、動物や多次元とも
話を交わしていたわ…!」
「私、何か大事なことを忘れて
思い出そうとしている気がする。
あぁ、どうしたらいいの?
塔を出ても良いのかしら?」
混乱する彼女の耳元で再び
鷹が囁いた。
『大丈夫、あなたは飛べるよ』
恐る恐る跳んだ彼女の身体は
初めて柔らかな大地に触れた。
息を吸うと胸が震える。
空気を美味しいと思ったのも
初めてのような感覚だった。
大地に寝転ぶと
命の温もりが全身に広がり
涙があふれた。
遠い昔の記憶が蘇ってくる。
「自分はいつから
抜け殻のように
生きていたんだろう。」
彼女の心が動き始めた。
再び耳元でささやく声が聞こえた。
『ねぇ、こっちにおいでよ』
すると鷹が彼女の頭上を
旋回するのが見えた。
彼女がそれに
気づいて体を起こすと
鷹が先導するように
森の奥に入っていた。
彼女が辿り着いたのは森の湖だった。
「私が自分を忘れている間に
こんなにも美しい湖が生まれていたのね」
水面を覗くと
数えきれない人々が歌っている
映像が浮かんだ。
《これは“地球の音楽”だよ》
その瞬間、声の主が姿を現した。
「はじめまして!
イシュタール号のTOMAだよ。
やっと会えたね。
あなたが持っている
その青白い石はね
この湖が必要としている
希望の種なんだ。
その種をこの湖に
投げてくれないかな?」
彼女が手にした青白い石は、種。
それを湖に投げ入れれば
世界樹が生まれ
彼女の世界と地球が
繋がるのだという。
彼女は迷った。
感覚を取り戻す
きっかけになった
大切な石を手放すのは
寂しく、怖かった。
だが、TOMAの声が
静かに語りかける。
「その種を湖に託せば
貴方が一人じゃないことが分かるよ。
繋がりたいなら
祈って投げてみて」
彼女は目を閉じ、願う。
もう一度、私の世界と
繋がりたい、心を通わせたい。
石を湖に託した瞬間
眩い光が立ち昇り
湖畔に世界樹の芽が生まれた。
すると、彼女はハッとしたと
同時に溢れる涙を抑えながら
「あの夜中に聴こえてくる音楽は
私に語りかけてくれていたのね。
ずっと私に届くように歌を
歌ってくれていた人がいたのね。
私、1人じゃなかったんだ。
誰かが見つけてくれていたし
誰かが祈ってくれていたのね」
「そう地球のみんなが
世界と、宇宙と、自然と、存在と
繋がりたいと願った
そして
その願いはあなたの元にも
届いたんだよ」
とTOMAが言う
その光のそばで
長く彼女の傍らにいた
鷹の姿が揺らめき
やがて人の姿へと変わっていく。
「え…!?そんな」
目の前に現れたその人影を見て
彼女の心は激しく揺れた。
知っている。この姿を。
そうだ、かつて彼女は
彼と共に暮らしていた。
けれどある日、彼は突然消えたのだ。
父が亡くなった時に
同時に彼も消えてしまったことで
彼に捨てられたと思い込み
心を閉ざし、長い年月の中で
やがてその痛みも記憶も
捨て去ってしまっていたのだ。
込み上げる涙と共に
忘れていた温もりが胸を満たしていく。
「あなた、ダリウス・フェイザルなの?」
彼は静かに言った。
「ごめんね。僕はずっと
鷹の姿に変えられて
しまっていたんだ。
そして君のことも
思い出せなくなっていた。
でもある日、TOMAがやってきて
君のことを思い出させてくれたんだよ。
だから今
こうして君に再び会えて
本当に嬉しい」
彼女は嗚咽をこらえながら頷き
二人は強く抱き合った。
閉ざされていた心が解け
再び彼と繋がったことを
魂で確かに感じた。
世界樹の光を見上げながら
頃合いを見て
TOMAが口を開いた。
「これで世界樹は芽吹いた。
この世界樹を通じて
私たちはいつでも繋がれるし
想いを送り合えるよ。
どう?時々はイシュタール号に
乗って一緒に宇宙に
仕事しにいかない?」
TOMAは優しく微笑む。
「さぁ、種は同時に多次元宇宙へと
放たれたからね
他の世界にも探しに行かなくちゃ。
じゃ、またね!」
湖畔に風が吹き抜け
世界樹の若葉が揺れる。
彼女は隣に戻った魂のパートナーと
手を取り合い、その光景を見守った。
こうして
一つの世界に芽吹いた世界樹は
やがて数多の次元を
結ぶ始まりとなった。
この物語から生まれた楽曲は
10月11日
お楽しみいただけます