本日より
10月に公開する
超次元トリッパー☆イシュタールの
物語を公開していきます
第一話:芽ぐむ歌
はるか古の時より
この地球を支える
大いなる樹があった。
その名は―世界樹。
枝葉は天空を覆い、
根は大地の奥深くに伸び、
数多の次元と結び合い、
神々と精霊の座を成す。
その傍らに立つのは、
創世の刻より地球を見守る存在
―精霊王。
ある日
精霊王は森に集う精霊たちに告げた。
声は大地に轟き、星々さえ震えた。
「新しき地球のために、
新しき世界樹が必要である。」
その言葉は静かに
しかし避けがたき運命の鐘のように
森に響いた。
精霊たちはざわめき
森は光と影を帯びる。
「いまここに立つ世界樹は、
創世とともに我が命を分かち持つ。
ゆえに、この樹の終焉とともに、
我もまた一度その命を閉じねばならぬ。
だが恐れるな。
新しき世界樹が芽吹くとき、
我は不死鳥のごとく若き姿で再び蘇る。
それこそが創世より
定められた循環である。」
精霊王はさらに語る。
「新しい地球と共に新しい世界樹は
再び生命を育む、そして新たな神が
この世界樹を宿木とするのだ。」
森に静寂が訪れ
光の粒子が舞い降り
葉は震え、泉は涙のように揺れた。
精霊たちは互いを見交わし
その宿命の重さを悟った。
この瞬間より―「新しき世界樹」を
生み出す旅が
始まろうとしていることを。
精霊たちは沈黙し
やがて小さな囁きが森を満たした。
「新しき世界樹…それを芽吹かせるには、
何をせねばならぬのか」
「ただ種を蒔くだけでは足りぬはず」
「王よ、われらに告げてください」
精霊王の双眸は
悠久の時を宿す湖のように
静かに輝き、
森の奥底まで響く声を放った。
「新しき樹が息吹くためには、
封じられし神々を救い出さねばならぬ。
人間の都合によって形を歪められ、
囚われた神々を―解き放つのだ」
その言葉に森はどよめき、
大地が揺れ、風が高く唸った。
「人間は、自分のことしか
考えてないと思っていた」
「人間は、われらたちとの
繋がりを忘れてしまったように思える」
精霊たちは自分が見てきた様子を
語り始めたが、
ひとりの若き精霊が
勇気を振り絞るように声を上げた。
「それならば…イシュタル様に
お願いするのはどうでしょうか」
その瞬間、森は黄金の光に包まれた。
愛を司る女神―その名は、イシュタル。
創世の時より地球に寄り添い、
光と影の狭間で祈りを
織り続けてきた存在であった。
だが精霊たちは知っている。
イシュタルの魂は完全ではないことを。
かつて彼女の一部が分かたれ
エシュタルと呼ばれる存在が
「悪神」として封じられたことを。
精霊王は厳かに頷いた。
「イシュタルこそ
この使命を担う者。
されど、彼女自身もまた、
己が失われた半身
―エシュタルを救い出し、
統合せねばならぬ運命にある。
それを成すことで初めて
新しき世界樹の種は芽吹くだろう。」
森は震え、同時に
希望の光を瞳に宿した。
こうして運命の
女神イシュタルの名が呼ばれ
物語の扉は大きく開かれた。
その時
風に乗ってひときわ柔らかな
響きが広がった。
それは歌のようであり
祈りのようでもあった。
光が降り注ぎ
森の奥にひとりの女性が歩み出る。
銀の糸を編んだような髪が揺れ
瞳は黎明の空を思わせる淡き蒼。
その姿を見ただけで
精霊たちの胸に張りつめていた
緊張はほどけ、柔らかな安堵が広がった。
「…私の名を呼びましたか?」
声は囁く風のように優しく、
森全体がその響きに耳を澄ませた。
それは女神イシュタル。
愛を司る存在にして、
幾千年の時を越え、
なお人々の心に
寄り添い続ける者であった。
精霊王は深く頷き、
その姿を静かに見つめる。
「イシュタルよ。
世界は新しき循環を迎えんとしている。
されど、そのためには汝の魂が
再びひとつとなり、
封じられた神々を解き放つ必要がある」
イシュタルは静かに目を閉じ、
やがて小さく息をもらした。
「…あの子のことですね。
私の、もうひとつの半身。
エシュタルを…取り戻す旅が
いよいよ始まるのですね」
その声には悲しみも恐れもなく、
ただ深い愛と覚悟があった。
森の葉々がざわめき
祝福の歌を奏でる。
イシュタルは微笑み
手を胸に当てながら静かに告げる。
「ひとりでは辿り着けない道となります。
どうか、導きを与えてください」
「そういうことであれば、
あの人を探そうではないか」
即日、イシュタルの司令を
受けた隊員たちが
再生中の惑星の中心に位置する
湖畔に着陸すると
木の葉から降りてきた人物は
飄々と言葉をかけてきた。
「あらら?訪問者とは珍しいねー」
隊員は、TOMAであることを
確認すると端的に伝えた。
「イシュタル様が
至急お会いしたいとのことです」
超長距離通信道具のコンパクトを
取り出して、TOMAに向けて開く。
ふぉんと、空間にイシュタルが
映像として浮かび上がった。
「TOMA、お久しぶりです。
テレパシーコードが届かなかったため、
直接チームを送りました。
まあ、あなたのことだから
仕事を終えて遊んでいる頃
とは思いますが…。
さて、今日依頼するのは、
金星次元コード3333に存在する
『地球』という惑星の件です。
私達は親星として『地球』
という子どもの星を生み出しました。
現在、地球は成長の過渡期を
迎えているのですが、
計画は難航しています。
それは、ここがまだ陰と陽が
並列している銀河のためです。
なお、地球には姉のエシュタルが
向かいましたが、現在連絡が
途絶えています。
銀河協議会は、この件に関して
意見が割れています。
地球の精神性発達レベルが、
銀河と関与できる域にまで
達していないからです。
TOMA、あなたは地球創生時に
何度か地球へ降り立っています。
その知見を活かして、
今回は地球人として任務を
遂行してもらえませんか?
今ちょうど、地球を新しい
次元層へ導くための人選が行われており、
間もなく出発するところです」
突然の話に、
TOMAは目を瞬かせ、
肩をすくめて笑った。
「そっかー、せっかく作ったこの場所を
もう少し満喫したかったのになー」
イシュタルは静かに微笑み
彼女の瞳を覗き込み
新世界樹の話も含めて
改めて経緯が伝えられた。
「TOMA、お願いします。
どうか一緒にミッションを
引き受けてください。
人の心の奥に眠る“ほんとうの声”を
呼び起こすことから始めましょう。」
TOMAは少し照れくさそうに頭をかき、
片目をつむった。
「…うーん。そう言われると、
断れないじゃん。
エシュタル探しに
新世界樹の種蒔きかぁ。
でもまあ、楽しそうだし
やってみるよ。
どうせそろそろこちらの仕事が
終わるから
暇を持て余していたし」
森の精霊たちがざわめき
笑うような風が駆け抜ける。
厳格な雰囲気の精霊王も豪快に笑い
深く頷いた。
「相変わらずやっておるな。
汝の軽き心は恐れを遠ざけ、
歌は闇を払う。ひとつ、頼んだぞ」
「いやー、人の体に入ったら、
そうも行かないかもしれないけどね。
よし、それじゃあ“愛を知るものたち”を
集めに行こうか。
地球に歌を響かせる準備も始めよう」
と、TOMAが宣言し
新しき地球のための旅は始まった。
宇宙にはイシュタルと
イシュタル号が待機し
TOMAは人となり地球へ降り立った。
ようやくコンタクトが取れ
いよいよ音を使ったミッションが始まる。
音は、イシュタルからの指示により
新しい地球の大事なポータルとなる場に
音を降ろすことから始まった。
このプロジェクトを
見つけた者の胸には
忘れられた記憶の光が眠っていて
それを次々と呼び覚ましていった。
TOMAは深く息を吸い込み
皆と共に歌い始めた
―次元を繋ぐ旗のような旋律。
声は大地に染み込み、遠い空まで届く。
少しずつ、人々の声が呼応する。
戸惑い、ためらい、やがて
誰もが自らの本当の声を取り戻す。
声は合わさり、波となり
光となり、都市の上空に渦巻く。
それを感じ取った精霊たちは
次々に覚醒した。
龍は再び空を舞い
麒麟は街路を駆け抜け
鳳凰は炎の羽で夜を彩り
ハクタクは風を纏い飛び回る。
森や街が
命の息吹で満ちていく。
だが、すべてが順調ではなかった。
多くの人々は
精霊や別次元の存在を忘れ
日常の雑音に埋もれていた。
「気のせいだ」
「幻覚だ」
「これが本当に必要なのか?」
「人の生活に必要なのか?」
その無知が
光の種の道を遮る壁となった。
TOMAは肩をすくめ、軽く笑う。
「まあ、仕方ないか。
忘れるのは人の得意技だしね」
イシュタルは優しく頷き
歌を微調整するように光を揺らす。
「焦らず、ひとつずつ
心に届けばよいのです。
人が、あらゆる存在と共存していた時の
記憶を取り戻したら
世界に光が灯ることでしょう」
少しずつ
歌と光は心の迷いを溶かし
人々の意識の壁を乗り越え始める。
共鳴の輪が広がるたびに
光の粒子は宇宙へと打ち上げられた。
そしてついに、すべての存在の声が
ひとつに重なる瞬間が訪れる。
空間を裂く光の波が広がり
新しい種が生まれた。
その種は次元を駆け巡り
遠い世界へと飛翔する。
みんなの歌声から生み出される
エネルギーは光となり
次元を超える旅路の力となった。
森の精霊たち、龍、麒麟、
鳳凰、ハクタク…
復活した神々たちも声を合わせ
祝福の旋律を奏でる。
その調べは世界樹のために
必要な命の糧を運び、芽吹きを促す。
いよいよ時が迫り
精霊王の命は尽きかけ
森の中心で祈りの儀式が始まる。
「どうか…私の命の尽きる前に
世界樹の種が各次元に
届き始めますように」
祈りに呼応して
TOMAと人々の歌が森を震わせ
光の種は再び次元を駆け巡る。
すべてがひとつに重なった瞬間
新しい世界樹は確かに芽吹き始めた。
TOMAは同時に
イシュタール号に乗り込み
各次元に種が届いたことを
確かめる旅が始まった。
船の甲板で
ラクシス・ヴァールが小さく呟く。
「ねぇ、ちょっと理解ができないところが
あるんですが、結局、地球に…悪神って、
本当にいるんですか?」
TOMAは空を見上げ
肩をすくめて笑った。
「全て源から生まれた存在だよ。
全てが、そもそも人が作った幻の世界。
そしてこれからも
私たちが新しい世界を創っていく。
私たちは奥底で、
そろそろ新しい世界が見たいんだよ。
すべてが神で、すべてに敬意が
払われる世界を」
また1つ
光の種が未来へと飛び立ち
TOMAの歌は次元を越えた答えとして
旗のように掲げられ、未来の扉を開いた。
世界樹の種は各次元で芽吹き
新たな地球の神々が降り立つ
準備が始まった。
精霊王も不死鳥のごとく若返り
森の中心に戻る。
イシュタルとエシュタルも
統合を果たし、魂はひとつとなった。
TOMAは仲間たちを見渡し
軽やかに笑う。
「やったね。みんなのおかげで、
新しい地球が始まる。
これから、ますます忙しくなるぞー!
私たちの出番が来たねーっ」
とラクシスの叫びの先で
笑顔で受け取る
アニス・フローラライトの姿があった。
「さぁ!ラクシス、油売ってないで!
次の会議を始めるよ!」
とアニスが返す。
空に広がる光と歌声は、
種を芽吹かせ、栄養を与えていく。
この物語から生まれた楽曲は
10月11日
お楽しみいただけます