3月10日の東京大空襲と3月11日の東日本大震災は、人々の心に深く刻まれているだろう。


しかし、トーマスにとって今日3月13日は、思い出に残るご利用者様の最初の命日である。


1年前の今日(2020年3月13日)を忘れる事はないだろう。


毎月第2木曜日から翌週の土曜日までの10日間のショートステイと通所でも施設にお見えになるご利用者様で、18年もの間施設をご利用して下さった。


施設ではご意見番と呼ばれていた方で個性やこだわりは人一倍強かったが、我々職員に対するお気遣いもあり、人情のあるご利用者様だった。


リハビリに対する意識も人一倍強いところもあったのか、そのご利用者様が頼む事以外は手出し無用だった。


入浴やお食事、おやつの時もそのご利用者様だけは職員が案内しなくても、ご自身で向かわれていた。


そして、1年前の今日、居室のトイレで倒れているところをトーマスが見つけた。


昼食時で、居室のトイレ前に車椅子が1時間以上も止まっていた事を不審に思い、トイレを覗いたが既にお亡くなりになっていた。


日常の動作(食事、入浴、排泄など)は一通り自立で、食事もいつもご自身で向かわれているので発見が遅くなったのだろう。


前日(2020年3月12日)には、いつもとお変わりない様子でショートステイでご入所されたので、翌日にそのような事になるなど誰も夢にも思わなかった。


トーマスが最初の発見者となった事がどのようにして広まったか分からないが、本館でも別館でも1週間くらい色々な職員からその話を向けられた。


それだけ、そのご利用者様が施設で大きな存在でもあった。


トーマスが施設に入職した初日に、そのご利用者様に下の名前を訊ねられた。


そのご利用者様は、我々職員を呼ぶ時には「○○ちゃん」と下の名前で呼んでいた。


ある時間になってトーマス職員が、そのご利用者様の居室前に行くと、そのご利用者様はトーマス職員の姿が見えなくても物音だけでトーマス職員が来た事を察して居室から「オーイ」と呼ぶ。


トーマス職員も「ハーイ」と返事しながら居室へ向かうが、「オーイ」と呼ばれた時点でご用件は分かっている。


ベッド柵にかけてあるフェイスタオルを洗濯ばさみで止めるというご用件だった。


止め方にもこだわりがあってベッド柵の上部に沿うようにして洗濯ばさみを止める。


冷蔵庫の前で「オーイ」と言っていれば、アクエリアスを要求している事もお決まりだった。


「オーイ」と「ハーイ」だけで伝わる事が多かった。


施設で共に過ごした5年間で思い出は絶えない。


ある先輩職員が、最初の発見者となったトーマスのメンタル的な落ち込みを案じて下さったようで「大丈夫?」と訊ねられた。


それはショックはあったが、いつまでもクヨクヨしてたら、そのご利用者様にも申し訳が立たない思いもあった。


その先輩職員によれば、そのご利用者様はトーマス職員の事も良くやっていると評して下さっていたようで、それを聞いて胸が熱くなった。


その時に、そのご利用者様の声が聞こえたような気がした。


「俺の事、見つけてくれてありがとう」

「これからも、しっかりやっていくんだぞ」


トーマス職員を激励するような温かい言葉が届いたような気がした。


早いもので、その時から1年が経過。


施設でのコロナ騒動が一段落して、1ヶ月ぶりの週6日勤務のウィークエンドを迎えて、少しばかり身体に疲れが見え隠れしているのか?知らないうちに寝落ちしている事が目立つ。


しかし、これからも週6日勤務は続いていくので、しっかりやらなければならない。


ご利用者の命日に、その言葉がまた聞こえてきたような気がした。