☆Last adventure 最後の試練 vol.18◇
《グラシアス バルサ》

間もなく、キックオフを迎えるカンプ・ノウのスタンドは空席が目立っていた。
それでも、凡そ10万人収容のメガスタジアムなので、観客動員数は半数は埋まっているとして、ざっと5~6万人くらいと思われる。
トーマスにとっては、6年ぶりの欧州チャンピオンズリーグ観戦。
それから、最後のローマ退治は、呆気ないほど、あっさりとしたもので、まるで歯ごたえの無いものだった。

どうして、こんな試合になったのか?
それは、バルサは別惑星のチームと言って良いほどで、セリエA4連覇を果たしたユベントスでさえも歯が立たなかった。
そのユベントスよりも格下のローマがバルサに劣るのは解る。
それにしても、これほどまでにローマがバルサに八つ裂きにされたのは、ローマがハナから試合をほかしたからだろう。
ローマにとって、この試合を落としても、それほどの致命傷にはならなかったのだった。
それは、カンプ・ノウの試合が始まる前に、時差の関係でベラルーシで行われていた、バテとレバークーゼンが引き分けた事で、ローマはバルサに負けても2位を維持出来ていたからだった。
最終節でローマはホームでバテに勝てば、グループリーグ突破が決まる。
勝つ事が望み薄である目の前のバルサよりも、次のバテ戦の事を考えていたようにも思える。
バルサ相手にディフェンスラインを高めに設定して、積極的にハイプレスを仕掛けて、ボールを奪いに行く戦術で臨んだが、バテならともかく、別惑星の軍団バルサが相手では、余りにも無謀な戦術だった。
前半7分に、ラインの裏へ走り込んだネイマールからスアレスにボールが渡りゴールが決まるもオフサイドで取り消し。
オフサイドにはなったが、この頃から既にローマの最終ラインは危なかしかった。
前半13分、ローマはコーナーキックからジェコがヘディングシュートを放つも枠外に外れる。
決まっていれば、全く違う展開になってたかもしれない。
前半15分、先制チャンスを逃したローマは高く設定していたディフェンスラインの背後を取られる。
ネイマールからディフェンスラインの裏へ走り込んだアウベスへボールが渡り、アウベスの折り返しをスアレスが無人のゴールへ流し込み、バルセロナが先制。

前半18分の2点目は、この試合の...、いや、この遠征の中で最もベストとも言えるゴールだった。
MSNの芸術的なパス交換から最後はメッシが復帰後初となるゴールを決めた。


この2点でローマは戦意喪失状態となった。
前半、7割を超えるボール支配率を誇るバルセロナは、ローマ陣内でのハーフコートの試合を行っていた。




前半44分、クロスのクリアボールをスアレスがダイレクトボレーで決めて、3-0で前半を折り返した。

後半もバルセロナの勢いは止まらなかった。
後半11分には、スアレスからメッシに出たボールをメッシがシュート。
一度はキーパーにセーブされるが、リバウンドをメッシが再び押し込んで4点目。

後半15分には、コーナーキックからメッシのパスをピケが決めて5点目。

スタンドは、いつの間にかキックオフ時よりも大分埋まっていた。
「Today no bag 」の影響で最初の方は鈍っていただけかもしれない。
まだ、試合時間は残されている。
一体何点取るだろうか?
ズタズタになっているローマは、ジェルビーニョとサラーの両翼不在も影響しているだろう。
いずれも攻撃的なプレーヤーだが、彼らを上手く使った攻撃ができれば、バルセロナの攻撃も軽減されてローマの守備の時間も短くなったと思われる。
攻撃に駒を2枚も欠いているだけに、余計にハイプレスでボールを奪いに行く積極的な戦術が良くなかったと思う。
3500人もローマからカンプ・ノウへティフォージがやって来たというのに自殺行為のような試合でズタボロになったのは、ティフォージに対して謝らなければならないだろう。
後半32分の6失点目は、目も当てられないほど酷いものだった。
ネイマールのPKをシュチェスニーがセーブするが、リバウンドをアドリアーノが押し込んだ。

問題だったのは、シュチェスニーがセーブしたリバウンドに対してマノラスとマイコンが全く競りに行かずに、置物となっていた事だった。
5点も6点も変わらないと言ってしまえば、それまでだが、失点を防ぐ事が仕事のディフェンダーが仕事放棄に等しい。
ジェコがヘディングシュートを決めて、1点返した直後に試合終了のホイッスルが吹かれた。
海外サポーターは、この試合をどのように観ていたのか、幾つか紹介する。
◎2点目のゴールに対して...。
<ユナイテッドサポーター>
どうやって、これを止めろというんだ?
3選手で完全に相手を切り裂いている。
〈バルセロナサポーター〉
MSNが遂に復活だ!
ゲームから、そのまま出てきたようだ。
FIFAで、これをやってみたい。
〈チェルシーサポーター〉
パス、動き、メッシ、ピッチの上で完璧だ。
〈バルセロナサポーター〉
ローマが小さな子供のように見えてくる。
〈リバプールサポーター〉
この3人、公平ではないな。
なんて、ゴールだ。
◎3点目のゴールに対して...。
<ドルトムントサポーター>
これは、キャプテン翼のやつだ。
〈バルセロナサポーター〉
まじかよ。これらのゴールは常軌を逸している。
スアレスをFIFA会長に。
ネイマールのあのボディフェイントがやばいな。
フィニッシュも美しい。
〈アーセナルサポーター〉
なんてこった。ローマの選手にも家族がいるんだぞ。
やめるんだ!バルサ!
◎試合終了後
〈リバプールサポーター〉
今まで見てきた中でも、最高のチームだ。
〈バルセロナサポーター〉
とにかく、試合を通して観ていて美しかった。
〈サントスサポーター〉
ネイマールは、6得点全てに関与したのに、ゴールもアシストも一つも無かった。
どうして、こんな事が可能なんだ。
〈バルセロナサポーター〉
ローマは、レアル・マドリードみたいだった。
<レアル・マドリードサポーター>
4失点は、そんなに悪くないよな、みんな?
〈ローマサポーター〉
ホームで4失点だろ。それを忘れるなよ。
〈スウェーデン〉
少なくても、ローマにとって1-7の敗戦ではなかった。
このスコア、覚えている。
バイエルンが7-1でローマに爆勝。
なぜ、いつもローマなんだ。
〈ローマサポーター〉
みんな覚えておいて。
これは、屈辱ではありません。伝統です。
6-1、7-1、7-1。マイコンに同情せざるを得ない。
7-1、2回は対バイエルンと対ドイツ(ブラジルW杯)
マンチェスター・ユナイテッドにも7-1で負けたな。(マイコンは居ないが...)
etc.
他にも、世界各国サポーターが様々な反応を示している。

初めてのカンプ・ノウ。
初めてバルセロナを観戦したトーマスは、まず第一に、ローマをやっつけてくれてグラシアス。
そして、第二に、世界で最も美しいサッカーを存分に見せてくれてグラシアスと言っておきたい。
ローマ宅でテレビ観戦していたラツィアーレも、この試合を観て狂喜乱舞だっただろう。
試合に関しては、文句の付けようが無いくらいだったが、カンプ・ノウスタジアムに関しては、スタンド全体を全天候型にしてもらいたい。
それから、もう少しコンパクトでも良いのではないかな...、としておく。
これほどの、メガスタジアムの割に試合後の観客の掃けも悪くない。
スタジアム前から地下鉄駅を通るラス・コルツ通りは途中まで歩行者天国となっていた。

歩けるのが歩道だけだったら、かなりの渋滞だっただろう。
歩行者天国のおかげで、流れが良かった。
地下鉄ラス・コルツ駅は入場制限されていたが、それほど待たされなかった。
このバルセロナラウンドは二日間しか無かっただけに、やり残したはあった。
大都市バルセロナだけに、二日間では、それは仕方ない。
でも、バルセロナという街を楽しむ事が出来た。
そして、バルセロナという街が好きにもなった。
翌日は、トリノへ移動するので、夜は早めに休まなければならない。
Last adventureも折り返し地点を迎えたところまで来た。
まだまだ、この先どんな試練が待ち受けているか...!?
Buenas noches おやすみなさい
To be continued.