「坂の上の雲」 司馬遼太郎の遺志に反して映像化された背景 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」の第三部がもうすぐ放映されます。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2011112302000051.html

(引用開始)
 NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」の「第3部」が来月四日から放送される(全4回=総合、日曜午後7時半)。ドラマ化の発表は二〇〇三年一月。〇九年にようやく第1部が始まり、やっと完結編にたどり着いた。準備期間を入れると十年超の異例の長期プロジェクトを、最初から関わってきた西村与志木エグゼクティブプロデューサーに振り返ってもらった。 (宮崎美紀子)

 司馬遼太郎さんの長編小説「坂の上の雲」は、司馬さんが生前、映像化を許可しなかったことで知られていたが、NHKがドラマ化を実現させ、秋山真之(さねゆき)に本木雅弘、秋山好古(よしふる)に阿部寛、俳人・正岡子規に香川照之というキャストで、〇九年に放送が始まった。

 来月四日から放送の第3部では、日露戦争の旅順総攻撃、二〇三高地、日本海海戦などが描かれる。
(引用終わり)

NHKが大河ドラマよりもさらにずっとお金をかけて制作しているドラマです。
最近、第三部が始まる前で盛り上げようとしているのでしょう、海外放送JSTVでも過去の放送分が連続して再放送されていました。放送時間が帰宅時間とあわないため、毎日後半しか見れなかったけど。

俳優陣は大物揃い。安心して見られます。ナレーションが渡辺謙って、どれだけお金かけるの?って感じです。海外ロケもCGもたっぷりで、さすがに素晴らしい出来だと思います。


私は、ドラマ化されると聞いたときに原作を読み始めましたが、結構最初の方の途中で止まったままになってしまいました。

同じ司馬遼太郎の「竜馬がゆく」の方は(多分)大学生の頃に読みましたが、読み始めたら止まらなくて文庫本全8巻を一気に読んでしまいました。これは今まで読んだ小説の中で最も面白かった小説のひとつと言えます。

それに対して「坂の上の雲」を読むのが止まってしまったのは…、と思ってたら、こんな記事に遭遇しました。納得です。

http://kakaue.web.fc2.com/1/uragiri.html

(引用開始)
第2回の「青春」篇は、小説では最も面白くない部分で、文庫本を読みながら飽きて次の展開を急ぐところである。ドラマではどんな 具合に仕上がるだろうと思って見ていたが、やはり、子規と真之が江ノ島に徒歩旅行する一幕などは面白くなかった。真之が大学予備門を辞めて海軍兵学校に入 る事情も、小説でもよくわからなかったが、同じようにドラマでも伝わって来なかった。
(引用終わり)

ちゃんと面白くないと書かれていた。ここで私もつまづいたんですね(笑)。


さて、ここからが本題。

最初の東京新聞の
記事にも触れられていますが、原作者の司馬遼太郎は生前、この小説の映像化を拒否していました。

この点について、先ほどの記事に厳しい批判が書かれています。

(※このブログ、元記事は http://critic6.blog63.fc2.com/blog-entry-191.html のようです。そのタイトルは「世に倦む日日」で、長年にわたる人気ブログでありながら、その筆者が誰なのか(私が調べた限り)はっきりしていないようです。「テサロニケ先生」とか。)

長いので一部だけ引用します。

(引用開始)
 私 は『坂の上の雲』のテレビドラマ化に反対の立場である。こうして放送が始まった以上、番組を見て楽しんで批評するしかないが、この作品は映像化するべきで はなかったし、絶対にして欲しくなかった。それは何より、原作者の司馬遼太郎自身が、生前、『坂の上の雲』の映像化を頑なに拒否していたからである。この ことは、司馬遼太郎の読者で あれば誰でも知っている。その理由は「軍国主義に利用される恐れがあるから」だった。この遺言は、司馬遼太郎が残した言葉の中でも重いもので、読者は重く 受け止めるし、関係者もまた重く受け止めて当然だろう。私は、『坂の上の雲』がこんなに早く映像化されるとは思わなかった。誰が司馬遼太郎の遺命に背いて 作品の映像化をアプルーブしたのか。NHK出版から出ているガイド本『スペシャルドラマ・坂の上の雲・第1部』を読むと、司馬遼太郎記念館館長の上村洋行 が登場して、「なぜ、今、映像化に踏み切ったのか」について説明している(P.149)。上村洋行が、司馬遼太郎の著作権を管理する遺族側代表として、ド ラマ化決定の責任者の立場で公式見解を述べている。だが、本当に許可を与えたのはこの男ではない。最終的に諾否の権限を握っているのは、夫人の福田みどり である。私は福田みどりに失望させられた。なぜ、司馬遼太郎の遺言に叛き、故人の意思に反して『坂の上の雲』の映像化を許可したのか。 

(中略)

NHK が『坂の上の雲』の映像権を取得したのは2001年で、この年、例の慰安婦問題を扱ったETV特集が、安倍晋三と中川昭一に圧力を受けて番組の中身を改変 させられる政治事件が起きている。この頃、時代は右傾化一直線で、書店では右翼マンガと右翼雑誌が平積みされ、ネットでは右翼掲示板が幅を効かせて、日本 の言論世界を右翼色に染め上げていた。安倍晋三がテレビ世界に支配を広げていた時期である。『坂の上の雲』のNHKによる映像化決定には、間違いなく安倍 晋三とその仲間が絡んでいるはずだ。
(引用終わり)



こんなところで、安倍晋三が出てくるとは思いませんでした。

うーん、きな臭いですね。なぜ安倍晋三が「坂の上の雲」の映像化をNHKに進めさせたのか(それが本当なら)。
来月から始まる第三部では、日露戦争の旅順総攻撃、二〇三高地、日本海海戦と、日本の軍隊が強敵ロシアを破るという内容になります。日本軍が戦争でロシア軍を打ち負かす映像で、スカッとするようなものになるのでしょう。

英雄だけが戦争を行っているのではないのだ、勝っても負けても戦争では双方の国の尊い命が多数失われるのだという戦争の現実について、NHKがどこまで描くかですが、まずそのような作りにはしないでしょうね。

自民党・安倍晋三は、「坂の上の雲」の映像により国民の間に軍隊賛美の世論を盛り上げ、外国と戦争ができる正式な軍隊を持てるよう、憲法を改正につなげることを狙っているということでしょうか。


ご存知のことと思いますが、自民党は憲法改正を党是としており、自民党が発表している憲法改正案はこのようです。

http://www.dan.co.jp/~dankogai/blog/constitution-jimin.html

(引用開始)
日本国憲法 第9条の2

<現行憲法>
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

<自民党改正案>
 (自衛軍)
 第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。

 2 自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

 3 自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

 4 前二項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。
(引用終わり)



安倍晋三が動いたというのが本当かどうかに関わらず、現在が自民党政権でないのがせめてもの救いでしょうか。性急に憲法改正を進めるつもりがないだけでも。

野田佳彦首相は9月15日の参院本会議でこのように答弁しています。

http://www.asahi.com/politics/update/0915/TKY201109150201.html

(引用開始)
また、中曽根氏は、首相が2009年の著書で「新憲法制定論者」と自称していたことを指摘し、「改憲を本気で目指すならともに議論を尽くしたい」と呼びかけた。これに対し、首相は「政治家個人としての持論はあるが、首相の立場として憲法を順守し、現行憲法下で最善を尽くす。震災復興など喫緊の課題が山積し、憲法改正が優先課題とは考えていない」と、改憲を否定した。
(引用終わり)


このような背景から、戦争反対の立場の人たちが危機感を持ち、「『坂の上の雲』放送を考える全国ネットワーク」というグループを結成してNHKに対して質問状を送るなど、映像化に反対する運動も起きているようです。

サイトはこちら↓
http://kgcoms.cocolog-nifty.com/jp/



私自身、日露戦争で秋山兄弟をはじめとする当時の日本人たちがどのように考え、どのように動いて、大国ロシアを破ることができたのか、映像で見られたら興味深いだろうな、と思いワクワクします。

しかし、それによって他でもない著者の司馬遼太郎自身が危惧していた通り、軍国主義礼賛、あるいはそこまではいかないにしても戦争への嫌悪感を弱め、肯定する方向に世論を誘導する効果がきっとあるとしたら、純粋にドラマとして手放しで楽しんでいいものか、考えてしまいます。