10/3に日本のエネルギー政策の基本方針を議論する第一回の総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会が開催されたことについては、以前のブログに書きました。
その後、どうなっているのでしょう?
あまり話題になっていないような…(?)外国にいるのでよくわかりませんが。
Googleのニュースで「総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会」と検索しても、引っかかるのは電気新聞などごくわずか。これほど重要な議論の進行状況を、大マスコミはほとんど何も報じていないようですね。
調べてみたら、第二回は10/26、第三回は11/9に開催されています。第四回は11/16に開催予定。
精力的に議論されているようです。
そして、その様子は第一回と同様、ニコニコ動画で公開されています。この方針も素晴らしいことです。従来のように密室で決めてしまうとか、政府の方針に反対する人を委員会に呼び出して意見表明だけさせて、反対意見も聞いたというアリバイ作りだけを行うようなことも難しくなります。
ただ、私のネット環境が遅すぎて、残念ながら動画を見るのはかなり苦痛なので、議事録だけを読んでみました。
毎回、数人の委員がプレゼンを行い、それに対して質疑・応答を行うというスタイルで進められているようです。
以下、議事録から各委員の発言の部分だけを抜き出してみます。
各委員の肩書きを追加し、さらにその原発に対するスタンスを、第一回の際に私自身の勝手な判断で、
★ 原発推進派
△ 現実派=当面は安全を確実に確保しながら原発の稼動もやむを得ないが、中長期的には脱原発。
☆ 反原発・脱原発派
と分類した記号についても参考のためにつけてみました。
第二回
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/2nd/giji2th.pdf
☆阿南久 委員 全国消費者団体連絡会事務局長
・エネルギー政策基本法に「安全の確保」と「国民の参加」の視点を加えるべき。
・多様分散型システムと原子力発電ゼロの社会の実現という基本方向を目指すべき。原発再稼動は、安
全対策の抜本強化が前提。
・電力全面自由化等、消費者が選べるシステムへの転換が必要。
☆飯田哲也 委員 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長
・原発再稼働と電力需給は切り離すべき。需要側の管理や揚水発電の追加等で電力は足りる。
・原子力発電の再稼動は、国民に信頼されうる新体制での新しい安全基準と最低10兆円規模の損害賠償
保険の導入が必須条件。
・原子力発電の廃止時期は、市場(保険を活用し、真のコストを顕在化)と民主主義(国民投票など)
に従って決めるべき。
・人類史の「第四の革命」とも言われる再エネの導入拡大が重要。ドイツ等にならい、今後10年で10~20%の拡大が可能。「蓄電池」の前に「ガスと水力による系統全体での変動吸収」が重要。
△橘川武郎 委員 一橋大学大学院商学研究科教授
・資源小国の日本はエネルギーの選択肢を安易に放棄すべきでない。
・バックエンド問題未解決なら、原子力は2050年頃までの過渡的エネルギー。「リアルでポジティブなたたみ方」を考えるべき。
・再エネ導入の速さ、省エネの度合い、石炭火力のゼロ・エミッション化の進展具合を独立変数とし、
原子力のウェートは引き算で決めるべき。
・再エネは大幅拡大を前提に、稼働率が高いもの(地熱、小水力・バイオマス)と低いもの(風力・太
陽光)を分けて、技術的・制度的ネックを個別に克服すべき。
・石炭火力技術の海外移転によって、温室効果ガス25%(3.2億トン)削減も可能。
・再エネ:省エネ:火力:原子力で30:10:40:20くらいが、蓋然性として高い。
・電力需給に関しては、停電の発生のみならずそのリスクの存在自体が問題。
・原発再稼動には、ストレステストでなく、「最大限基準」と「更新基準」を盛り込んだ新たな安全基準が必要。
△崎田裕子 委員 ジャーナリスト・環境カウンセラー ・NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長
・地球温暖化対策と自給率の向上が重要。
・地域のエネルギーポテンシャルを積み上げ、地域の中での自給を目指す。
・電力が自給できない都市においても、民生と産業を分けて省エネを推進し、不足分は地域から購入す
べき。都市と地域のWin-Win関係を再構築すべき。
・再エネのコストは高いが、原子力のコストも上昇。再エネ導入を地域活性化につなげ、皆でコストを
出し合うことが重要。
・自治体の首長の声を聞く機会が必要。
☆?高橋洋 委員 (株)富士通総研主任研究員
・これまでのエネルギー安全保障は、安定供給を過度に重視。自給率や安全性も勘案し、再エネの導入
拡大を推進すべき。
・計画停電の原因は集中型電源への依存。安全のために分散化を進めるべきで、どこまで分散型電力シ
ステムが導入できるか真剣に議論すべき。
・系統接続の拒否と系統不安定化のリスクが再エネ普及のボトルネックだった。
・国内の系統連系の強化や韓国との連系、発送電分離やスマートグリッドの活用により、再エネの導入
拡大を進めるべき。
・年明けにでも電力制度を集中的に議論する機会を設けて欲しい。
第三回
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/3rd/giji3rd.pdf
★田中知 東京大学大学院工学系研究科教授
・原発事故を受け、技術的・社会的リスクを再評価し、安全対策を見直すべき。
・原子力の安全はボーダレスの課題。日本の経験を海外に展開し、貢献すべき。
・国際情勢、エネルギーの需給制約、原子力のリスク・コスト・意義のバランスを考慮すると、中長期的・大局的視野に立ち、2030年以降も原子力の最適規模を維持すべき。
☆伴英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表
・福島原発事故が強いた苦しみを出発点として考えるべき。
・原発再稼働には、地元自治体のみならず地元住民の合意が必要。
・「速やかに原発を停止し、当面は火力で代替しつつ、順次再生可能エネルギーに移行」という日本学術会議の選択肢の議論を深めるべき。
☆枝廣淳子 委員 ジャパン・フォー・サステナビリティ代表 ・幸せ経済社会研究所所長
・生活者による「創エネ」やエネルギーの絶対量を減らす「少エネ」の役割を評価し、生活者をエネルギー基本計画の主体の一つに位置付けるべき。
・生活者との双方向のやりとりをエネルギー政策の立案に反映すべき。
△河野龍太郎 委員 BNPパリバ証券経済調査本部長・チーフエコノミスト
・原発の新設は難しく、耐用年数の延長も困難。一定期間を経た後で原発が稼働していないことを前提にエネルギー政策を構築すべき。
・エネルギー安全保障のために、分散化と複線化を進めるべき。国内外の電力網の強化やガスパイプラインの接続・広域化も検討するべき。
・事業免許をアンバンドルし、送電事業、原子力事業を他の発電・販売事業と分離すべき。
☆辰巳菊子 委員 公益社団法人日本消費生活アドバイザー ・コンサルタント協会理事
・長期間持続可能なエネルギーの可能性を探り、そのためにどの分野の研究開発にプライオリティを置くか、考えるべき時が来ている。
・消費者が商品の一生を知って選択できるよう、情報開示を進めるべき。
・消費者のリテラシー向上のため、科学的素養を持つインタープリターが必要。
☆八田達夫 大阪大学招聘教授
・エネルギーのベストミックスは、最終的に市場が選択すべき。
・政府の役割は、事業によって発生する費用を、外部費用を含めて、事業者自身に負担させるように制度設計し、事業者が利潤最大化を追求する結果として結果的に社会的にベストな選択を選ばせること。
・地球温暖化対策は、国外での貢献を基本とするべき。
・原発事故賠償保険は民間が提供するべき。国による提供を正当化できるのは国防上必須の場合のみ。
以上です。
こうやって見ると、第二回・第三回でプレゼンテーションを行った委員のうち、あからさまな原発推進派は田中東大教授のみです。そしてその発言に対しては、
・原発推進の中心役として、事故を受けた総括・反省はないか。
・最終処分場の選定や高速増殖炉等、実現性がない事実や技術を前提に議論すべきではない。
といった率直で辛らつな反対意見が表明されています。
個人的な感想としては、全体としてさまざまな視点からの意見が出されている点はなかなかいいと考えます。また、議論が完全に公開されていることは高く評価できると思います。
ただ、前回も書きましたが、今後これをどうやって収束させていくのかは、なかなか困難だろうと考えます。
第三回の議事の最後に、このように書かれています。
・年内の委員からのプレゼンには制限を設けずに関心事項について全部発言いただきたいと考えている。
・来年以降、その中のどれに焦点をしぼり、どの委員から意見をいただくかは大臣に仕切っていただくこととしたい。
枝野大臣は毎回ちゃんと出席していて、委員の意見をまとめるのが困難なこの委員会を今後どう仕切るかは枝野大臣に委ねられているということです。
ますます枝野大臣の見識と手腕に期待したい・するしかないと考えます。