御用学者と呼ばれた北大教授 & NHK 『食の安心をどう取り戻すか?』 | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

ニコニコニュースで、こんな記事がありました。

http://news.nicovideo.jp/watch/nw132052

(引用開始)
『"御用学者"と呼ばれた北大教授 「第二次大戦とまったく同じ」』

 この特別講義は北海道大学とニコニコ生放送、そして朝日新聞が運営する言論サイト「WEBRONZA」が連携して行うもので、第1回の10月14日では東芝の元社員で現在は北海道大学大学院工学研究院教授の奈良林教授が「福島第1原発事故の分析と教訓」をテーマに講演した。

 奈良林氏はまず、1986年にソビエト連邦で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故の教訓として、「健康被害も環境被害も当初恐れられていたよりはるかに少なく」、一方で、「事故により失業したり、住み慣れたところから離れなければならなくなったことで無気力になった」といった精神的被害が大きかったと語った。加えて、放射線の影響で奇形児が生まれる可能性が高まると当時のマスコミが報道したことによって、「お腹の中の赤ちゃんが心配になって、堕ろしてしまったお母さんがヨーロッパ全体で6000人」いたという。奈良林氏は続けて、

「こういう悲劇があった。私はこれを知っていましたから、テレビに出るときはそういうセンセーショナルな言い方や事実を過大に説明して恐怖を煽るような言い方は避けなきゃいけないと思って、冷静な説明や解説をした。ところが、街中にあふれている週刊誌などはものすごい恐怖を煽るような、お母さんたちにとってはいたたまれないような記事になっています」
と言い、マスコミ報道が「原子力の風評被害を煽る方向にシフトしていて危険な状態だ」と指摘した。

 奈良林氏はまた、マスコミ報道の影響で、「(原子力行政については)10年間かけて議論しなければ結論が出ない問題にもかかわらず、いま"脱原発"をしても日本は立ち行くのだ、大丈夫だとみんな思い込んでいる」とも指摘。日本が第二次大戦に突き進んだ理由として、大本営発表に依拠したマスコミ報道により、国民が「神風が吹けば日本が勝つ」と思い込まされたことと、現在の状況を重ねた。奈良林氏は、

「(当時、)『戦争は危ない』と言っていた人を"非国民"と呼び非難した。それが日本の社会だった。いま、『原子力は大事です。安全性を高めなければならないです』と言うと、"御用学者"だと非難される。私はいま、第二次世界大戦のときとまったく同じ状況ができてしまっていると思います」
と強い調子で述べた。
(引用終わり)


「危ない」というセンセーショナルな報道(→週刊誌などはこの方が売れるので、金儲けのためそういう記事が増える)の情報だけを信じ、被曝量とその危険性について科学的に最も正当とされる学説を説明すると簡単に「御用学者」のレッテルを貼ろうとする動きは、原発推進派と同じくらい危険です。実際に、不必要な心配による精神疾患や人工妊娠中絶(=殺人)も引き起こしているようです。
 
 私は、福島第一原子力発電所の事故が事の発端であり、東京電力がこの問題を引き起こしたことを免責するつもりはありませんし、個人的には経済・社会に影響のない範囲でもう原発は停止に向かうべきだと考えていますが、一方で、幸いにも原発のごく近傍を除いて放射能汚染のレベルは明らかな健康影響があるレベルではないという、正しい知識・情報はどうやったら伝わるのだろうかと、心を痛めています。

 危険情報だけを盲目的に真実だと思い込む人は、何を聞いても「御用学者だ」「安全厨だ」とレッテルを貼って終わりです。そして自分たちはその地域の人たちの健康を思って善意で警告しているのだと思い込んでいるので、別の悲劇を引き起こしていることの自覚もありません。間違った善意の人ほど怖いものです。


 そんな中、昨日(日本で10/22)に、NHKで『食の"安心”をどう取り戻すか』という番組が放映されました。

http://www.nhk.or.jp/shinsei/
(引用開始)
米、魚、畜産物・・・ 私たちの食卓を支えてきた産地が、大震災と原発事故によって壊滅的な被害を受け、これまでの生産、流通、消費のあり方が改めて問い直されている。
どうすれば、今なお苦しみ続ける産地を甦らせることができるのか?
そして、どんな仕組みを作っておけば、将来にわたって「食の安全・安心」を確保していくことができるのか? 
被災地の生産者たちが始めた挑戦をヒントに、スタジオで徹底討論。「わたしたちの食」の新たなあり方を探る。
(引用終わり)

 私がテレビをつけたとき、残念ながら既に第二部の途中でしたので、どんな番組だったのかよくわからない部分があります。ちょっと調べて、この番組に対する掲示板を見つけましたが、第一部はNHKが福島の産地としての再生に向けた方向性を探る内容だったようで、

 貧乏人はセシュウム米食え
 安心と「思わせる」番組
 ますます信用できなくなった

などなど、それに反発する意見ばかりで、暗澹たる気持ちになります。

 第二部は討論形式でしたが、何だかいまひとつ争点のはっきりしない内容でした。
 
 そんな中で、岩本裕解説委員が被曝量と発がん率との関係を説明していました。その際、意図的かそうでないのか、とんでもない説明が繰り返されました。

 ご存知のように、100ミリシーベルトより高い被曝量では、被曝量と発がん率とが比例することについては意見の相違はありません。問題は100ミリシーベルト以下の場合。

 岩本氏は、「直線よりも低いとする説、むしろ高くなるという説がある」と説明していました。これは「国際的に最も権威があるとされるICRPでは安全側としてLNTモデルを採用している」との説明がなかったことは不本意ですが、それでも低線量では100ミリシーベルトの場合よりもむしろ高くなるというトンデモ説を紹介しなかっただけ、まだよしとしましょう。

 問題は、「100ミリシーベルト以下ではデータがない」と繰返したこと。これは大きな間違いです。
 正しくは「100ミリシーベルト以下では、発がん率が高くなるということを示すデータがない」です。

 発がん率の上昇が(あるとしても)わずかすぎるので、色々な調査はされたがそれでも統計的に有意なデータが得られたことがない、というのが正しい事実なのに、これを「データがない」と全く別の情報として「解説」するとは。全く異なる意味になってしまっており、誤解を生んでたいへん危険です。
 この番組の趣旨(らしいもの)からして、意図的とは思いがたいですが。

  
 もうひとつ、この解説ではせっかく被曝量と発がん率のグラフまで見せながら、具体的な数字に触れなかったことも不満です。

 「100ミリシーベルトの被曝量で、被曝しない場合よりも1000人のうち5人発がんする人が多くなる。(なお、もともと日本人でガンになる人は1000人のうちおよそ500人。)」
 
 という、学者の間で意見が一致している数字をしっかり伝えるべきです。この数字を見て、「やっぱりリスクが高くなるではないか!」という人もいるかもしれませんが、「なんだ、ほとんどわからないではないか」というのが大部分の常識的な感覚だろうと思います。

 トンデモ説を採用しない限り、20ミリシーベルト、1ミリシーベルトではこれよりも発がん率はさらにずっと低くなります。

 いやECRRによると内部被曝が危険なのだと言われそうですが、「イギリスの内部被曝調査委員会とクリス・バスビー氏」の記事で紹介したように、きわめてしっかりした中立的な研究が行われた結果、危険をあおっているECRRのクリス・バスビー議長の考えが否定されている(これは原発反対の立場の「原子力資料情報室」のサイトに載っています)ことを、しっかりと説明して欲しいものです。


 こういう地道な事実の積み上げを行って基本認識を一致させた上でないと、今後の方策をいくら話し合っても、思い込みだけで考えがかみ合わない全く不毛な議論になるばかりです。

 誰もが「正しく怖れる」ようにすることは本当に難しいと感じるばかりです。