数日前、環境省は、国の責任で除染を行う基準を1ミリシーベルト/年に引き下げるという、とんでもなく非科学的・非現実的な決定を発表しました。
http://www.asahi.com/politics/update/1010/TKY201110100274.html
(引用開始)
東京電力福島第一原発事故に伴い放射性物質に汚染された土地の除染と災害廃棄物の処理について、環境省は10日、来年1月施行の特別措置法の基本方針案を決めた。除染は事故で過剰に被曝(ひばく)する放射線量(追加被曝線量)が年1ミリシーベルト以上の地域、災害廃棄物の処理は1キロ当たり8千ベクレル超を基準に、国の責任で対処する。
同省は当初、特措法に基づいて国の責任で全面的に除染作業をする地域を年5ミリシーベルト以上とし、1~5ミリシーベルトの地域は局所的に線量が高い地点に限るとの方針を示した。しかし、国際防護委員会が勧告する1ミリシーベルト以下を目標に除染をすべきだとの批判が福島県内の自治体から相次ぎ、細野豪志環境相が除染基準の見直しを明言していた。
(引用終わり)
これに対して国際原子力機関(IAEA)が、一段と焦点を絞った現実的な政策を取るよう日本政府に要請した、と報道されています。
http://jp.wsj.com/Japan/node_324914
(引用開始)
国際原子力機関(IAEA)は14日に公表した報告書で、東京電力福島第1原子力発電所周辺地域の放射能汚染への対処について一段と焦点を絞った現実的な政策を取るよう日本政府に要請した。
12人のメンバーからなるIAEA除染専門家チームが作成した同報告書では、「被曝量の削減にそれほど効果的でない可能性のある過度に保守的な方法を避けることが勧められる」と言及した。同チームは政府ならびに地方自治体が行っている様々な除染プロジェクトをここ9日間にわたって視察した。
環境省は先月、年間の被曝量が5ミリシーベルト以上の地域を除染する場合には、2400平方キロメートル超の面積の土地が除染される必要があるとの試算結果を示した。政府試算によると、その費用は1兆円を超える見通し。また、対象地域の大半は人口の少ない森林地帯だ。
環境省は年間の被曝量をさらに1ミリシーベルトまで引き下げるという圧力にさらされている。そうなれば、政府の資金援助が必要な除染作業の量がさらに増大することになる。
しかし、今回のIAEAの報告書では、放射性廃棄物の処理場が不足しているために、「有効な除染活動が過度に制限され、損なわれることになり、国民の健康と安全が危険にさらされることになりかねない」と指摘した。IAEAの専門家チームは日本政府に対し、一段と現実的な目標を設定するとともに、土を全部除去するというよりも表面の土を地下に埋めるなど、実施が比較的容易な除染方法を採用するよう提案した。
IAEA除染専門家チームのホアン・カルロス・レンティッホ団長は記者会見で、「森林など一部地域で(除染の)プロセスを調節する余地があることが分かった」と述べた。
レンティッホ団長は、「慎重になり過ぎることを避けるという観点から戦略を最適に調節することが非常に重要だ。利益と負担のバランスを図ることが重要だ」と語った。
同団長はさらに、金銭的コストだけを考慮するのではなく、かかる時間や発生する廃棄物、作業員の被曝についても検討する必要があると強調した。
同報告書はまた、課題が膨大なにあることを考慮し、地方自治体や地域社会の一段の協力を呼びかけた。
(引用終わり)
IAEAはもっともなことを言っています。
というか、元々の除染の基準を1ミリシーベルト以上とするというのが無茶苦茶なのですが。
被曝量100ミリシーベルト以下では統計的に有意な健康への影響は見られておらず、またヒトは低線量の被曝に対しては防御機構があって強いと考えられるものの、より安全側の説を採用するとして、LNT(しきい値なし直線)モデルが採用されています。
このモデルでは、10,000人に対して、年間100ミリシーベルトでは50人、20ミリシーベルトでは10人、5ミリシーベルトでは2.5人、1ミリシーベルトでは0.5人が被曝が原因でガンになるという計算になります。
現在、ヒトのおよそ2人に1人がガンになるといわれており(男性の自然発がん率=0.54というデータがありました)、10000人のうちざっと5000人が被曝がなくてもガンになるので、この程度の低線量被曝によってガンになる確率の上昇は(もし本当にあったとしても)検出できません。
一方で除染にかかる費用は、上記記事では、5ミリシーベルトを基準としたとき1兆円を超えるとされています。さらに、経済学者の池田信彦氏によると、5ミリシーベルトでも118兆円、1ミリシーベルトにした場合は、689兆円との試算しているとのこと(tomam:精度は不明)。
http://www.j-cast.com/2011/10/04109052.html
復興増税は9.2兆円だ、いや11.2兆円だといって騒いでいますが、そのお金全部の何倍・何十倍ものお金を、単に土を掘り返すだけに使おうという決定です。いやはや。
どうも、今すぐに通常時の年間1ミリシーベルト以下に戻せ!と声高に叫ぶ市民運動家に、地元の土建業者に国からの金を落とそうという思惑のある自治体が悪乗りしているのではないかと想像されます。
もちろん、東電の肩を持つ気はさらさらないし、危険な場所はもちろん除染しなければならないのは当然のことです。
しかし一方で、正しい科学的知識も経済的発想もなくただただ安全を叫ぶ市民活動家と、それをちゃんと批判することもなく「危ない」情報を好んで垂れ流すマスコミ、そんな声をしれっと悪用して国の金をかすめ取ろうとする地方自治体、そして何より、そんな動きにきちんと反論することがないばかりかそれに屈して平然ととんでもない決定をする政府(もしかしたら、環境省は自分の省に予算がつくことを目論んでいるのか?)に、もうあきれるしかありません。
せっかく増税してまでかき集めた国民の大切なお金を使うなら、無意味に土を掘り返すのではなく、お願いですから、もっと未来につながることに使ってください。 →細野大臣、野田首相。