菅首相の延命策との印象は確かにぬぐえず、その観点からの批判も大きいです。
ここでは、そのような政治的駆け引きは横に置いて、この法案が本当に我々にとって望ましいものなのかどうか、ちょっと立ち止まって考えてみました。
私は、東電福島第一原発の事故を経験した日本は、この災いを転じて逆にこれを稀有の機会ととらえ、国のエネルギー政策の抜本的転換、すなわち原子力発電依存政策から再生可能エネルギー推進へのシフトを図るべきと考えています。
で、今までなんとなく、この法案がその方向に一歩踏み出すものだと漠然と考えていました。
しかし。
再生エネルギー法案の骨子とはなんでしょうか?
このサイトに分かりやすくまとめられています。
http://mikari1216.iza.ne.jp/blog/entry/2334044/
(引用開始)
この法案は正式には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」で、震災当日の3月11日午前に閣議決定した。
1.法案の背景・目的
エネルギー安定供給の確保、地球温暖化問題への対応、経済成長の柱である環境関連産業の育成のためには再生可能エネルギーの利用拡大が急務であり、昨年6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」、「新成長戦略」に盛り込まれている再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入する。
2.法律案の概要
再生可能エネルギー源を用いて発電された電気について、国が定める一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付ける。
また、買取に要した費用に充てるため各電気事業者がそれぞれの需要家に対して使用電力量に比例した賦課金(サーチャージ)の支払を請求することを認めるとともに、地域間でサーチャージの負担に不均衡が生じないよう必要な措置を講じる。
* 現行の余剰電力買取制度で既に電気代のうちに「太陽光発電促進付加金」が含まれている。
(中略)
1. 買取対象
太陽光、風力、水力(3万kW未満の中小水力)、地熱、バイオマスを用いて発電された電気。
2.買取義務の内容
一般電気事業者等が、買取義務(買取に必要な接続・契約の締結に応じる義務)を負う。
3.買取期間・価格
(略)
4.買取費用の負担方法
買取に要した費用に充てるため、使用電力量に比例したサーチャージの支払を請求することを認める。
地域間でサーチャージ単価が同額となるよう、サーチャージ単価は国が定める。
電気事業者の買取費用の負担の不均衡を解消するため、国が指定する費用負担調整機関を通じて調整する。
(引用終わり)
この法案は3月11日震災当日の午前中に閣議決定されています。
すなわち、福島第一原発の問題が起きる前であり、東京電力の存続をこれっぽっちも疑うこともなくこの法案は作成されています。
そして、太陽光、風力、地熱等で発電された電気を東京電力等の電力会社が全量買い取り、その経費を電力料金に上乗せする、という法律(案)です。
あれ、こんな法案、通していいのでしょうか?
・まず、この法案では、東京電力がそのまま存続して電気を買い取ることになっている。
東京電力の解体(案)や、発電・送電分離の話との整合性はどうなっているのか?
・昨年6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」は、見直すことが決まっており、その「基本」が確定しなままで、買取制度のような具体策を先に進めることが正しいのか?
・自然エネルギー政策を推進するためには、誰かがそのより高コストを負担しなければならない。
国が負担を調整するとしているものの、結局は利用者が否応なく負担させられることになる。
自然エネルギー発電事業者側でのコスト削減競争、技術革新を生む仕掛けも見えない。
こんなことをつらつら考えてググってみたら、私と同じような考えをたいへんうまくまとめられた意見を見つけました。
http://yokotakanko.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-70ce.html
(引用開始)
ほんとうに持続性がある新エネルギー産業の育成ということを考えるのなら、電力価格の高止まりの元になっている特定民間企業の電力独占をなくし、送電配電の公共財化(各地方自治体の上下水道のイメージ)をすすめ、発電事業者の選択の本当の自由化につなげるインフラを組みなおす必要があります。そうでない限り、公益ぶら下がりの新たな利権を生むだけにしかならないと思います。
以前テレビで、ヨーロッパの電力自由化の事業モデルを紹介していましたが、単純コスト比較だけでなく環境価値というような付加価値も含めた選択の自由が消費者に与えられ、電力事業者がトータルな市場競争力で切磋琢磨させらるあり方は、おおいに参考になるのではないでしょうか?
価格差をユーザー負担にするだけでなく、環境価値という付加価値を市場化できるような、電力の自由化とセットになった再生エネルギーのてこ入れ政策であることが必要です。
ちょうど原発事故でまともに賠償責任を負わせたら破産する東京電力の現状は、送電・配電設備などを、各地方自治体所有に組み替え、電力自由化につなげるいいチャンスではないでしょうか。送電・配電の利用料を地方の独自財源にできるわけですし、同時に発電事業者のフェアな競争を推進し、電力の自由化を進めることになると思います。
(引用終わり)ここまでの意見、全く同感です。
(ただし、これを書いておられるのは、太陽光発電を取り扱っている事業者の方であり、孫さんの動きにも強い拒否反応を示されています。
私はその点については、孫さんも含めて、発電事業者が競争する仕組みを作ればよいと考えます。
孫さんは、再生エネ法によって東京電力に電気を高く買い取ってもらえることを期待しているのではなく、「単純コスト比較だけでなく環境価値というような付加価値も含めた選択の自由が消費者に与えられ、電力事業者がトータルな市場競争力で切磋琢磨させらる」中で勝ち残って儲けを出していくことを目指しているものと信じます。)
で、再生エネルギー法案ですが・・・、
菅首相がやめるやめないの議論を別にして、この法案、このまま通すべきではなく、3.11以降の情勢を考慮して必要な見直しを加えるべきではないか、と考えるようになってきました。
とは言え、菅首相が退陣すると、次に東電擁護・原子力政策維持の守旧派勢力が盛り返してきそうで。。。
うーん、難しいものです・・・。
安心して政治を任せられる政治家がちゃんといてくれるといいのに、ねぇ。