福島第一原発で、先に設置した「シルトフェンス」の外側でも基準を上回る放射性物質が検出されていることから、東京電力は海水をくみあげてゼオライトを使用した浄化装置を導入することになりました。
http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20110531/0530_jokasochi.html
(引用開始)
海水汚染抑制 浄化装置設置へ(5月31日 5:30更新)
東京電力福島第一原子力発電所から高濃度の放射性物質に汚染された水が海に流出した問題で、放射性物質のうち、放射性セシウムに効果がある浄化装置が導入されることになり、31日、放射性物質の濃度が高い原発の取水口付近に設置する作業が始まります。
福島第一原発では、2号機と3号機の取水口付近で高濃度の放射性物質に汚染された水が海に流れ出しているのが相次いで見つかり、東京電力は、汚染水が海に広がるのを抑えるため、「シルトフェンス」と呼ばれるカーテン状のフェンスを取水口付近に設置しています。
しかしシルトフェンスの内側だけでなく、外側でも依然として国の基準を上回る放射性物質が検出されています。
このため東京電力は汚染の広がりを抑える対策の1つとして、海水をくみ上げて浄化する装置を導入することになりました。
この装置は「ゼオライト」という鉱物をフィルターに使っていて、放射性セシウムを吸着して減らす効果があるということです。
放射性セシウムの濃度がより高いシルトフェンスの内側から最大で1時間当たり30トンの海水をくみ上げて浄化し、フェンスの外側に広がる汚染水の濃度を下げるのがねらいです。
この装置は2号機と3号機の取水口付近にそれぞれ1台ずつ設置され、早ければ来月2日から試運転を開始するということです。東京電力は、試運転をしながら浄化の効果を確認するとしています。
(引用終わり)
まずシルトフェンスとは何でしょう?
シルトは、Wikipedia によると、
(引用開始)
シルト(silt)とは、砂より小さく粘土より粗い砕屑物のこと。
地質学では、泥(粒径が1/16mm以下のもの)の中で、粘土(粒径が1/256mm以下)より粒が大きく粗いもの(粒径1/16mm~1/256mm)をシルトと呼ぶ。
(引用終わり)
だそうで、これの拡散を防止するフェンス(カーテン状)がシルトフェンスです。
http://www.asahi-kasei.co.jp/agt/kankyou/jp/siltfence/
(引用開始)
「シルトフェンス」による汚濁防止効果は、フェンス内側でシルトの滞留によって沈降が促進され、また水面附近の流水を防止し、汚濁粒子の沈降時間を短くする等、実地調査でも充分満足出来る結果を出しています。「シルトフェンス」は、土木湾岸工事等による海洋汚染問題を解決する目的で、作業性と経済性の両面から追求し、ユーザーの立場にたち考案した汚濁防止フェンスです。 湾岸・河川・漁場・養殖場・石油コンビナート沿岸・海水浴場など、幅ひろい用途に応じられるよう設計されています。
(引用終わり)このように、シルトフェンスは、粒子を除去するのが目的です。
一方のゼオライトは、このようなものです。
http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/600/78891.html
(引用開始)
ゼオライトはケイ素と酸素とアルミニウムでできた鉱物です。
表面にたくさんの非常に小さい穴があり、その直径は1センチのおよそ2000万分の1以下と水や窒素の分子よりもひと回り大きい程度です。
また構造の中にあるナトリウムなどのプラスイオンを「イオン交換」という作用で放出し、代わりに別のプラスイオンの物質を取り込むという電気的な性質を持っています。
(引用終わり)
すなわち、ゼオライトはイオン状(=溶けている)のセシウムを吸着して除去するものです。
つまり、シルトフェンスは(セシウムを含む)粒子を除去、ゼオライトはイオン状のセシウムを除去、と全く異なる状態のセシウムを除去する訳です。
シルトフェンスで効果が十分でないのでゼオライトを使う・・・って、いまだにセシウムの存在形態が粒子状なのかイオン状なのかわからずに対策を採っているってことでしょうか?
最初にセシウムの存在形態が粒子状なのかイオン状なのか分析して、その状態に適した対応策を取るというのが当たり前の科学的態度と考えます。
もし両方が存在するなら、最初から両方の対策をしておくべきです。
行き当たりばったりの対応で、情けない限りです。
さて、ゼオライトのイオン交換作用ですが、海水中で効果があるかどうかが疑問視されます。
海水中にはナトリウムイオンが大量にあるので、単純に陽イオンをイオン交換する剤であれば、ナトリウムイオンが吸着してしまって、セシウムイオンの除去効果が小さいと考えられます。
そこで、ナトリウムイオンが共存しても、セシウムイオンが選択的に吸着されるような吸着剤を選ぶことがポイントです。
以前のタービン建屋にたまった水への対策についてですが、日本イオン交換学会がこのようなコメントを出されています。
http://www.jaie.gr.jp/genpatsu/comment.html
(引用開始)
・NaCl共存下でもセシウムを選択的に吸着する物質としてテニオライト、フッ素型合成雲母が高い選択性を持っており、しかも「不可逆的に」吸着する(つ まり再溶出しない)。ただし粉末ですので、イオン交換材料が手に入ればフッ化ビニリデンに混ぜてペレットにすれば、応急的に使用可能。 (神崎)
(引用終わり)
海水中のセシウムを選択的に除去できる吸着剤としてはゼオライトよりもテニオライト(私は聞いたことがありませんが・・・)などの方がよいと。
東電は、以前に海水では効果がないグレードの高吸水性樹脂を使って、それを指摘されたら誤魔化したことがありました。
http://ameblo.jp/tomamx/entry-10851998160.html
(東電 海水で使えない吸水性ポリマー使用、さらにミスをごまかす)
今回も、海水では効果がないゼオライトを使うのではないかと注目しなければなりません。
あと、もしゼオライト(やテニオライト)にセシウムがうまく吸着された場合、そのゼオライトはきわめて高い放射線を出します。これをどうやって処分するのかも、大きな問題です。
東電にそのプランがあるのかどうか、疑問です。