福島第一原発で、1号機の格納容器に水を満たして「水棺」にする作業が開始されました。
しかし、圧力が下がったので中断したと。
http://www.asahi.com/national/update/0428/TKY201104280170.html
東京電力は28日午前、福島第1原子力発電所1号機で、原子炉内の核燃料棒を浸す注水量を増やすかどうかの点検を急いだ。原子炉ごと水没させて冷やす「水棺」作業の本格実施に向け、27日夜までに注水量を毎時6トンから同10トンに増やした。ただ格納容器の圧力がわずかに低下し、当初予定の同14トンへの引き上げは見送った。作業は予断を許さない。
1号機は27日午前10時に水量を増やした後、水を満たす格納容器上部の気圧がわずかに下がった。27日午後4時の0.14メガ(メガは100万)パスカルが、午後8時は0.135メガパスカルになった。28日午前5時で0.125メガパスカル。多くの水で炉内が冷えて圧力が下がったとみられる。
格納容器の気圧が0.1メガパスカルを下回ると、周囲から酸素が流れ込んで水素爆発の危険が出る。当初は27日午後10時に注水量を毎時14トンに引き上げる予定だったが、28日午前は同10トンで様子を見ている。
このまま注水量を増やせなければ、格納容器を十分な水で満たせない。原子炉の安定停止までに時間がかかる恐れもある。
そもそも格納容器の圧力はどうやって決まっているのでしょうか?
格納容器には、圧力容器で沸騰した水蒸気が流れてきているはずです。もし格納容器に漏れが全くなければ、その圧力は次第に上がり、最終的には圧力容器と同じ圧力にまで上がるはずです。
1号機での水量増加前の27日6時のデータで、圧力容器の圧力は0.55または1.306MPa(2つの値の違いの原因は不明)、格納容器の圧力は0.155MPaと、ずいぶん離れている状態です。これがずっと続いています。
したがって、格納容器のどこかに漏れがあってガス(=水蒸気)が抜けていっていると考えます。そして、格納容器の圧力は、漏れ箇所の隙間を水蒸気(または注入している窒素)が流れるガスの圧力損失で決まっていると考えます。簡単に言うと、ガスが流れる配管の弁を絞っている感じですね。
ここで注入する水の量を増やしたら、どうなるか?
水が持ち出す熱量が増えるので、発生する水蒸気の量はその分減ります。格納容器に流れる水蒸気が減るので、隙間での圧力損失も小さくなり、結局圧力容器の圧力が下がったということと解釈されます。
東電は、負圧になって空気を吸い込むことを懸念していますが、そんなことが本当に起こり得るのかはなはだ疑問です。
(もしも格納容器自体に冷たい水を急に入れたら、気相部の水蒸気が一気に凝縮して一時的に負圧になるかもしれませんが・・・。)
なお、2号機・3号機の原子炉圧力がずっと負圧を示していることは計器の故障としか思えません。
何度も書いてますが、東電はプロセスエンジニアリングの初歩の初歩である物質収支・熱収支の計算ができない(しない)ようで、こんな大事なことを行き当たりばったりで進めているように見えます。
そもそも水棺にどんな効果があるのでしょうか?
圧力容器は耐圧性を持たせているため、その壁は非常に厚く、したがって伝熱性能は極めて悪いと考えられます。こんな壁を通して冷やすことにどれほど効果があるのか、疑わしいです。
一方で、設計で考慮されていない水を入れることで、その重量に対する強度が十分なのか心配で、新たな強い余震など万一の際には、大量の汚染水がばらまかれることになります。
まさにこのことを、前に紹介した「失敗学」の畑村洋二郎先生の「失敗学会」のサイトで、元東芝で原子炉の設計をされていた吉岡律夫さんという方が、「メリットがないのにリスクが高い「水棺」方式を中止すべき」と訴えておられます。
http://www.shippai.org/images/html/news559/YoshiokaMemo30.pdf
「水棺」方式の中止を!
水棺案の危険性については、既にニューヨークタイムスが4/5 に、米国NRC の情報を紹介
した際に指摘しており、私もメモに書きました(4/8 のNo.21、4/20 のNo.28)。
日経の4/22 夕刊・4/23 朝刊を読んでいて「原子炉の冷却に有効」と書いてあったので、
もし、東電がそれを信じているなら誤りを訂正する必要があると思いました。
京大の小出裕章助教も危険だと指摘されています。
http://nixediary.exblog.jp/12483645/
MC:それから、水棺について伺いたいのです。
水の棺と書く、この水棺、水で原子炉を全部浸してしまおうという話での
処理方法を今度やって行こうという話なのですが、
これは、小出先生は昨日もやらない方がいいのではないか、というふうに
おっしゃいました。
今まで、いろいろな方法について、
小出先生は、やれる事なら何でもやった方がいいかもしれない、
とおっしゃっていたにも関わらず、
水棺についてはかなり否定的なご意見ではないかと、
私は思っているのです。
それで、ラジオネーム(省略)という方は、
福島市からメールで小出先生に質問というふうに下さいました。
「この水棺の作業は、これから本格的に行われるという事ですが、
もし失敗した場合には、どのような事が起こるのでしょうか」、
どうした事を懸念してらっしゃるのでしょうか、先生。
小出氏:格納容器が余計破損するという事です。
MC:格納容器は今一部破損しているのではないか、と
小出先生は見ていらして・・・
小出氏:それはもう私だけではなくて、皆が見ています。
MC:これが余計破損するというのは、どうしてですか。
小出氏:格納容器というのは、もともと水を入れるなんて事を想定していませんし、
そういう設計にもなっていません。
そこに何千トンもの水を入れようとしている訳で、
今まで考えてもいなかった所で、トラブルが起きないか、
と私は心配していますし、
特にもう既に格納容器の一部に損傷がある事は確実ですので、
その損傷が、水を入れた事で拡大する可能性はあると思います。
また、共産党の吉井英勝議員(京大の原子核工学科出身)も国会で、水の重量に耐える強度があるのか質問されています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-28/2011042804_03_1.html
日本共産党の吉井英勝議員は27日の衆院経済産業・内閣連合審査会で、福島第1原発事故で1号機から始まった原子炉の「水棺」作業をめぐり、政府としての責任ある対応を求めました。
吉井氏は、政府が「水棺」の方針を採るなら圧力容器や核燃料プールに大量の水の重量に耐えうる強度や構造があるのかが問題になるが、政府は責任ある機関に諮っているのかと質問。海江田万里経産相は「保安院などとも意見交換し、慎重にやっている」と述べるにとどまりました。
吉井氏が格納容器からの窒素ガス漏出量をただすと、海江田氏は、数値も答えられないのに「東電が出したものを政府がチェックし、アメリカの機関とも意見 交換をしてきた」と答弁。吉井氏は「日本には多くの専門機関があり研究者もいるのに、何かあれば東電やアメリカと相談というだけではおかしい」と批判しま した。
容器はまず地震で大きな揺れの被害を受け、吉岡さんの指摘のように海水で腐食が進行している怖れもあり、さらに、まだ専門家からの指摘は見つけていませんが、私が以前に指摘したように「水素脆化」を起こしている怖れもあって、設計よりも強度が低下している可能性が十分にあります。
さらに吉井議員の指摘のように、コンクリートもアルカリ骨材反応で劣化して強度低下している可能性があります。
冷却の効果がきわめて小さいのにも関わらず、設計時に想定されていない大量の重い水をためる危険がある「水棺」をなぜ実行しようとしているのか?
吉井議員の質問への答弁でも出てくるように、どうもアメリカからの要請があるような匂いがします。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011040802000039.html
水棺は原発事故の処理方法として研究されているが、実際に行われれば世界で初めてとなる。
こんなところで、アメリカの要請で、研究を実際に試してみる現場実験を実行しようとしているのでしょうか?
(アメリカも水の重さに注意すべきと言っていますが。)
とにかく、効果が小さいのに危険は大きい、とんでもない方法です。
ぜひとも中止すべきと考えます。