『週刊金曜日』 では、毎週「メディア一撃」という4ページのコーナーでジャーナリズムに関する4~5つ程度の短い記事が載ります。
今週の842号(4/8)から、まず2つほど紹介します。
「東電の接待受けた相手先公開を拒否した勝俣会長の癒着体質」 フリーランス記者 上出美樹氏
フリーランス記者の田中龍作氏が、3/30の東電本社での記者会見席上で質問。
今回の地震発生最中に、かつて東電担当だった大手メディアのOB記者らを勝俣会長自らが率い、中国に旅行していたかと聞いた。
勝俣会長は、「費用は私どもが多めに出した」と、事実上の接待旅行だったことを認めた。
社名は「プライベートに関わることなので明らかにすることはできない」と。
当然ながら、大新聞は田中氏の質問を一行も書いていない。
→これはひどい。
東電は明らかに情報隠しをしているが、大手メディアはこれを厳しく追及しない。
その裏に、こんな時代遅れのことがいまだにまかり通っているのだとすると、とんでもないことです。
田中龍作氏のサイトを覗きましたが、読み応えのあるものです。
http://tanakaryusaku.seesaa.net/
「福島原発報道でジャーナリズムの真価が問われている」 上智大学教授 田島泰彦氏
大手メディアの報道は政府や東電による会見等の発表をそのまま伝え、解説するというスタイル。
かつての「大本営発表」とどこが違うのか。
メディアが独自に取材、調査し、伝える報道は全体としてきわめて少ないと言わざるを得ない。
事故と原発推進政策をめぐる政府や東電の責任を厳しく追求する姿勢も希薄だ。
新聞報道の中には、事故や放射能の危険性、重大性を伝える記事や識者コメントも散見されるものの、テレビに出演する記者や解説者、コメンテーター、研究者の多くは原発業界やそれを代弁する政府、官僚、政治家などと密接に関わり、原発を疑わない立場から、政府や東電の主張を鵜呑みにし、事故や放射能を過小に評価し、安全性を強調する言説を連日垂れ流してきた。
→これは、私もこのところ訴えてきたこと。
吉井英勝衆議院議員(京大原子核工学科出身)、京都大原子炉実験所の小出裕章助教、あるいは大前健一氏(もともと原子力の技術者)などは、大手メディア、特にテレビには出ませんね。
原子力推進派の意見を一切出すなとは言いませんが、反対派の意見もあわせて聞きたいし、一般市民として望みたいのは、両方を理解した上で中立・公正・冷静な立場での見解だと思います。
私は、これを妨げているのが「記者クラブ」ではないかと、推定して書きました。
http://ameblo.jp/tomamx/entry-10840509395.html
記者クラブの問題に詳しくない方は、Wikipediaに詳しく書かれています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%98%E8%80%85%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%96
一部抜粋します。
記者クラブ(きしゃクラブ)は、公的機関や業界団体などの各組織を継続取材している、おもに大手メディアが構成している任意組織である。フリーランスの記者などに対し排他的であるとして近年、多くの批判を浴びている。
日本新聞協会は、記者クラブの目的を「国民の『知る権利』と密接にかかわる」ものと定義している。しかし加盟社以外に記者会見を開放しないなど独占的活動によって大手以外のメディアが取材活動に支障を来す場合がある。
公的機関はクラブに対し記者室を提供、光熱費なども負担しており、「便宜供与に当たるのでは」といった批判も出ている。また、官房機密費を使っての供与疑惑も持ち上がっている。
取材対象側から情報提供を安定して受ける結果、横並び意識になり、また記者の能力低下も懸念されている。一部の報道によって冤罪などの弊害も出ている。
批判や問題が多いと判断した一部の政治家が1990年代から制度に切り込み、今日では首相官邸・中央省庁も記者会見をクラブ以外にも開放する試みが始まっている。
今週の週刊金曜日では、記者クラブの問題をいくつか書いている記事がありました。
先ほどの上田氏の記事の中ではこのような文章が。
大手メディアと政治家や検察権力、大企業などとの癒着の構造は昔も今も変わらない。それを体現するのが閉鎖的な記者クラブ制度であり、枝野幸男官房長官の会見から、フリー・雑誌・ネットメディアの記者は今も排除されている。 (・・・後述のように、今は違うはずです。)
また、同志社大学教授 浅野健一氏は、米カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校のローリー・アン・フリーマン准教授の著書『記者クラブ』の紹介(訳者の解説を批判)の記事で、このように書いています。
「3.11」以降、首相官邸での総理・官房長官会見などの記者会見は自公政権時代の会見風景に戻った。記者クラブ制度の悪いところが全部出ている。本誌を含む雑誌やネットに登場する記者が最初から会見に出ていれば、正確な情報がもっと伝わったと悔やまれる。
→「最初から出ていれば」ということは、今は出ているということ?
実は、テレビで東電の記者会見を見ていて、「ニコニコ動画の○○ですが」という質問があったのを覚えていて、「あれ?ネットメディアが会見に出てるのか?」と思っていました。
で、調べてみたら、このような経緯があったことがわかりました。
ジャーナリストの上杉隆氏が、3/21発売の『週刊ポスト』の記事で書いていたことのようで、いささか古い話になりますが、私も知らなかったことで同じような方も多いと思い、今さらでまた長いですが転載させてもらいます。
http://uesugitakashi.com/?p=481
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官報複合体が「人災」をもたらした
政府は東京電力からの情報に基づいた過小発表をしていたが、海外メディアは今回の原発報道について、当初から危機的状況と報じてきた。中には行き過ぎたデマがあったことも事実だが、私はだからこそ、海外メディアも官邸の記者会見に出席させるべきだと考えた。
ところが政府は逆に、地震発生直後から、会見を閉ざしたのだ。フリーやネットの記者は、オープンになったはずの首相や官房長官の会見から、再び締め出されてしまった。オープン化された「定例会見」ではない、というのがその理由である。同様に海外メディアも会見に参加できなかった。
私は地震発生から連日、自由報道協会を代表してこうした記者たちの会見参加を要請してきた。なにしろ、テレビでは記者会見の映像を途中で打ち切ってしまうのだ。あるいは、テレビが見られない被災地もある。そうした人々のために、通信やソーシャルメディアが必要だと考えたからだ。
しかし、官邸からは「ダメだ」の一点張り。それなら、せめて海外メディアかインターネットメディアを参加させられないかと交渉したが、これも断られた(現在はともに許可されている)。友人の外国人記者たちは呆れていた。・・・・・<中略> ・・・・そもそも、会見の席は70席以上は余っているのだ。拒む理由などない。
だが、政府は結局、官邸官僚と記者クラブメディアに流され、フリーや海外メディアを遮断した。せめてもの対応として、官邸のツイッターを立ち上げたが、それも自由報道協会からの提案があったからだ。
原口氏が菅首相に直談判
それによって何が起きたか。
菅首相や枝野官房長官は、東京電力や官邸報道室から正しい情報を伝えられず、過小発表に終始した。記者クラブメディアは、事故が取り返しのつkない時点に至るまで、発表通りの報道を垂れ流すだけだった。その象徴が、周辺住民の避難範囲である。3キロ、10キロ、20キロと二転三転し拡大していったことが、住民にパニックをもたらした。・・・・・<中略> ・・・・
その異変に逸早く気が付いたのが、原口一博・前総務相だった。・・・・・<中略> ・・・・
原口氏は官邸に乗り込み、菅首相に「騙されている」と進言した。原発の設計者まで同行させ、説得に当たったというのである。それによって情報を隠蔽されていたことに気付いた菅首相は、東電に「いったいどうなってるんだ。連絡が遅い」と激怒し、政府と東電が一体となった統合対策本部が立ち上がったのである。
東電に配慮した記者クラブ
官邸と東電の対応を、ぎりぎりまで批判しないようにしていたテレビや新聞も同罪だ。現場の記者たちの尽力は認めるが、その報道に東京電力というスポンサーへの配慮がなかったとは言わせない。「東京電力と電事連(電気事業連合会)は、記者クラブメディアの最大のスポンサー。彼らに配慮して、東電を批判してこなかったメディアの責任は大きい」・・・・・<中略> ・・・・
いま被災地で待っているのは、正確な情報と希望にあふれたメッセージである。
(週刊ポスト4月1日号 平成23年3月21日発売)
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今さらですが、そうだったんだー、という感じです。
しかし残念なことに、上杉氏は、福島第一原発の報道をきっかけに活動休止を宣言されています。
http://uesugitakashi.com/?p=658
「これ以上、国際的にフェアな仕事のできない日本のメディアに関わることは、畢竟、自分自身も犯罪に加担していると疑われる可能性もあります。私はジャーナリストとして、国家的犯罪に加担したくないのです。本年12月31日をもって、ジャーナリズム活動を休止することを決めました。」
心あるジャーナリストが、活動休止とは、何ということでしょう。
ところで、今日の統一地方選で、民主党は惨敗のようです。
(石原慎太郎が東京都知事に当選したのには、東京都民に失望しました。
私は恵比寿に住む千葉県民ですが。)
今回の震災、そして原発に関して、菅首相をはじめ民主党政権が頼りないと評価されたのだろうと思います。
個人的には枝野官房長官は(昔から応援しているせいか)、よくがんばっているとは思いますが、周りが原子力村の住民ばかりなのと、それを変えようとしないところが問題です。
しかし、そもそも原発を推進してきたのは自民党ですし、先に書いたように、福島第一原発の津波被害が警告されていたのに何も対応しなかったのは当時の自民党 二階俊博経済産業大臣です。
http://ameblo.jp/tomamx/entry-10850977488.html
もし、自民党政権のままだったら、原発対応はもっともっと東電および原子力推進派の意のままだっただろうことは容易に想像できます。
たまたまこの時期に政権与党であった民主党にとっては、残念な状況です。
しかし、そんなことも言っておられません。
とにかく、原発問題を安全に終息させていただきたいと切に希望します。
そして、それを報道する(マスコミではなく)ジャーナリストの方々の活躍を期待します。