さて、前回からずい分日にちがたってしまいましたが、第二回です。前回は→こちら
まじめな内容のときは、いい加減には書けないもので時間がかかる(言い訳)
動脈硬化などとの関係が指摘されているトランス脂肪酸って、何なの?
マーガリン、ショートニングって何? どうして常温で固体なの?
ということを、遠回りでも基本から解説して理解してもらおうという野心的な試みです。ターゲットは小学5年生以上くらい(?)
読み物として興味をつないでもらうために、話がすぐに脱線しますので、いつになったら本題の答えにたどり着くのか、全く未定です(笑)。
前回、最初にWikipediaで、「油脂(あぶら)」は、 「脂肪酸とグリセリンとがエステル結合したもの」、その「脂肪酸」は、「長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である」と書いてある、(これじゃわからん!)と紹介しました。
そして、原子・分子から話をして、炭化水素のお話に入ったところで、第一回目は終わりにしました。
今日は炭化水素の話です。
「炭化水素」とは、炭素原子と水素原子とだけでできた分子(からなる物質)です。
原子は他の原子と「手」をつなぐことによって分子になります。原子によって、何本の手を出して結合できるかが決まっています。
水素原子の結合の手は1本、酸素原子は2本です。
炭素原子(C)は、他の原子と結合できる「手」を4本持っています。
手が4本もあることから、炭素原子と炭素原子およびその他の原子が手をつなぐことによって、バラエティに富んださまざまな分子ができます。
炭素原子を分子の中に含む化合物を「有機化合物”Organic Compounds”」とよびそれを研究する化学の分野を、「有機化学”Organic Chemistry”」と呼びます。その反対語は「無機物」「無機化学」です。
ただし、歴史的に、二酸化炭素(CO2)や青酸(HCN)などは、炭素を含んでいますが無機物に分類されています。
「有機」「オーガニック」という言葉は、有機農業”Organic Farming”などにも使われますね。化学肥料や合成農薬を使わない農法という意味です。しかし、合成農薬の多くは「有機化合物」なんですよ。混乱しますねー!。
“Organ”という言葉は、もともとギリシャ語の道具・器官を表す言葉だそうで、現在の英語では動植物の「器官・臓器」を表します。(他に、楽器のオルガンも「演奏するための組織的道具」という意味でこの言葉が使われます。)
もともと炭素骨格を持った化合物は、生物にしか生産できないと考えられていました。それで炭素骨格をもつ物質に、「生物由来」という意味で「有機化合物」という言葉が(18世紀頃?)使われるようになりました。
しかし、その後、このような炭素化合物も人工的に製造できることがわかり、有機化合物が生物由来という、本来の意味とは、ずれてしまっています。
昨年、ノーベル化学賞を受賞した鈴木カップリングは、パラジウム触媒を用いて(生物を用いずに!)、新しい炭素-炭素結合の有機化合物を得る方法でした。
一方の有機農法は、本来、化学的に合成された無機肥料(リン、窒素、カリウムなど)を使わず、油粕や動物の糞のような、生物由来の肥料を使う農法という意味だったのに違いないのですが、現在ではその定義に肥料だけでなく農薬も加わって、「化学的に合成された肥料及び農薬の使用」を避けた農法という定義になっているようです。
しかし、殺虫剤のDDTや除草剤のラウンドアップなど、合成農薬の大部分は炭素骨格を持つ有機化合物ですので、これを使わない農業が有機農業となって、もともとの「有機」か「無機」かという分類とは、関係がちょっと変になってしまっています。
ああややこしい。
・・・長々と脱線でした(笑)。
さて、本題の炭化水素に話を戻します。
最も小さい、炭素数1の炭化水素はメタンです。
メタンでは、炭素原子の4つの手は全て水素とつないでいます。
(Cは炭素原子、Hは水素原子ですよ、念のため。)
メタンの炭素原子と水素原子の位置関係は、簡単のため、平面上では左図のように描き表しますが、実際には、右図のように、正四面体(正三角形の面が4つの立体)の中央に炭素原子が、4つの頂点の位置に水素原子が位置する構造をしています。炭素原子と水素原子とのなす角度(結合角)は、109.5°です。
メタンは天然ガスの主成分であり、LNG(Liquefied Natural Gas、液化天然ガス)として日本にタンカーで輸入されて、多くの皆さんの家庭の都市ガスや火力発電の燃料として使われます。
炭素原子が2つ、3つの化合物は、それぞれ、エタン、プロパンと呼ばれます。
構造式では、それぞれ下図のようになります。
これらも実際にはそれぞれの原子は、メタンの場合と同様、ほぼ109.5°の角度で結合しています。
想像できるでしょうか?
エタンは正四面体が頭をつき合わせているような形になります。
プロパンでは、C-C-Cの結合は、直線ではなく、折れ曲がっています。
そして、結合の手を軸として、各原子の位置関係を保ちながら、くるくる回転することができます。
エタンは一般には馴染みは少ないかもしれませんが、エチレン(次項)の原料として使われます。
プロパンは、プロパンガスまたはLPガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas、液化石油ガス)として、都市ガスの配管が行き渡っていない地域の家庭用燃料として主にボンベで取り引きされています。また、タクシーにはLPG車が多いです。なお、「プロパンガス」として使われているのは、純粋なプロピレンではなく、一部ブタンなどが混ざっています。
さて、原子をひとつずつ描いていると、分子が複雑になるにつれ、混み入って描きづらくなります。
それで、次のように簡略に描きます。
上上図では、炭素原子Cを中心に描いて、その炭素原子に結合している水素原子は、Hの文字と右下付の数字とで表現しています。
上下図では、さらに原子の文字すら省略し、両端と折れ曲がっている頂点とで炭素原子を表し(この場合3つあることになる)、炭素の手が足りない分は水素が結合している約束として、水素は完全に省略されます。
この先、リノール酸やオレイン酸くらいの複雑な分子になると、こういう描き方でないと面倒になりますので、覚えておいてください。
さて、炭素原子が4つの炭化水素はブタンです。
ブタンには、4つの炭素原子が並んだノルマルブタンと、真ん中の炭素分子に3つの炭素原子がつながったイソブタンとがあります。炭素数が4つになってはじめて、「構造異性体」が存在するようになりました。
炭素数5つ(ペンタン)、6つ(ヘキサン)、7つ(ヘプタン)、8つ(オクタン=ガソリンのオクタン価の!)・・・と炭素原子が増えるにつれ、分岐のバリエーションはどんどん増えていきます。
これらの分子も、原子どうしは実際にはほぼ109.5°の角度で立体的に結合しています。だから本当は直線状ではなく、ジグザグですね。また、のちのち重要になってくるので憶えておいていただきたいのですが、それぞれの「手」を軸にして、その周りで自由に回転することが可能です。
・・・かなり長くなりました。
ここまで(飽和炭化水素だけ)で、今日は終わりにします。
次回は、いよいよ、「トランス」が出現します。
乞うご期待!・・・いつになるのか?
(ちょっと、お勉強モード過ぎるかなぁ?)