トムの自宅周辺には、
トムが中学生の頃から走ってきた約3㎞の
『トムコース』がある。
上り坂、下り坂、階段ダッシュも盛り込んだ、ハイセンスなコースである。
娘が年長の頃からは、たまに娘と一緒に走ってきた。
コロナの影響で今年の夏からではあったが、
娘は中学の陸上部に入った。
それでもまだ、トムは娘より足が速い自信があった。
トムの逃げ足の速さには定評があり、
高校までずっと、学校で1,2を争う俊足だった。
トムにもプライドがある。
だが、最近気付いてしまったのだ。
『娘はトムより足が速くなった』
(トムは娘より足が遅くなった)
ゼーゼー走るトムのピタリ後ろを、息を乱さず娘が走る。
ペースを上げても、トムが苦しくなるだけだ。
『ハア、ハア 先、行けよ!』
『うん』
と言いながら、娘はトムより先に行かない。
『お前の練習にならないから、ハア、ハア、
行けよ!』
それでも娘は先に行かない。
娘の優しさが、父には余計辛い。
トムをぶち抜いて、後ろ姿も見えなくなるくらい引き離せ!
それが父の望みだ。
わかったか!
