2023年1月3日   

さわやかな感傷を抱かせる大人の放課後を演じる「リビング」     

                    ジョン・パワーズ                

 それではこれらすべてを考えると、なぜ私はこの映画に失望してしまったのだろうか。ただ単にそれがリメイクであって私がオリジナリティにこだわっているからではない。とんでもない、「生きる」でさえもトルストイの偉大な1886年の小説「イワン・イリッチの死」にヒントを得て作られているのだ。

 しかし黒沢がこの映画を制作したとき、トルストイと全く同じストーリーを語ったわけではないし、1880年のペテルスブルクから同年の東京に簡単に移動させたわけでもない。彼は話の筋を再度作り直し、彼が生きた時代の庶民の生きる様を再現した。それは1950年、まだ第二次世界大戦の破壊の爪痕の残る東京でのできごとである。映画は人が死に直面して生の意味を見つけることについての普遍的な物語を語るが、黒沢の映画は歴史的なその時代の切迫感を描いて精彩を放っている。日本の復興の時代には、全く普通の事務職に携わる人でさえ高貴なヒーローになりうる可能性があると信じなければならない必死の思いがあったのだ。

悲しいかな、イシグロの改作は黒澤と同じような創作の才と切迫感がない。それは私が期待した芸術的な練り直しというより、器用に編集された転調した作品のように見える。ノーベル賞作家として私は彼の小説を賞賛しているのだが。現在のために物語を再編成するというよりも、この映画は英国の過去についての限りなく固定的な考えの中に沈み込んでいる。時代の細部にこだわると、「リビング」は今日の続けざまに打つ、ゆっくりした時の動きの文章構成からは遠く感じる。2022年の多文化社会のロンドンでウイリアムズ氏は、東アジアあるいはカリブ海に活動してもよいだろう。

「ライフ」の失敗は決して破産させない。あまりに多い英国ドラマと同様に。役者の演技の場は英国の安全な場所に設定。生死が同等に選択された博物館のジオラマを私たちは触ることはできない。低い音階と無音。ハーマンの方向性は黒沢のオリジナル映画の捨て身と死に物狂いを掴むことができなかった。それは感動を呼び起こす力、特に卓越した終局の雪の場面。最も美しい場面で、物語の最高潮なのだ。どちらかと言えば、私たちの心を揺さぶる「生きる」より、「リビング」はむしろ、私たちに人生の歩み方を教示する。私たち皆が同感するように。それは、あたかも大人のための特別な〝放課後〟。それはとても良い人で、静かにあなたを気に掛けている。(阿部訳)