映画「生きる LIVING」観ましたか? 

今日観たのですが、素晴らしい出来栄えの映画でした。

映画評論など前評判は今ひとつでした。リメイクした黒澤明の映画(1952年公開)のイメージが強すぎて、そこはかとなく人生の機微を表現したイシグロ版には国内外を問わずドラマチックな筋立てやクライマックスの描き不足など辛口批評が多くあったように思います。

黒沢版は明快な筋書きです。正義が前面に表現されています。「七人の侍」の大将・志村喬のイメージが、この死を前にした役人の最期の正義の行いを突出させてしまったようです。

死を覚悟した役人の心の機微、行いの在りようは複雑多岐に亘り、細部は広く深くイシグロ版では描き込まれます。だが黒沢版では、これらの発見が行き届かずに、なんだかザワついたまま終幕させてしまった印象ですが、イシグロ版は、これでもか、これでもか―といったように何度もエピソードを振り返ります。涙を誘う彼の晩年の行いです。

これらイシグロ版のディテールの描き込みは図らずも黒沢版の瑕疵を浮き彫りにしたようで、黒沢版の心理描写の表現不足が思われました。

 海外の辛口批評の1編を長崎外語大の客員研究員・松田雅子先生に提供いただきました。私の拙い和訳ですが、読んでみてください。つづきます。