長崎県美術館の展覧会「ピカソーひらめきの原点」を見てきました。九州初上陸のコレクションとうたい文句にあり、これまで何度か彼の多彩な作品展を見た経験から、どんな展観になっているのか、興味津々でした。結論から言えば「面白い、こういう見せ方もあったか」と大いに楽しんだ展覧会でした。

 平面から立体まで、ドローイングはもちろん陶芸やレリーフなど多彩というより雑多な作品を生み出す精悍なピカソ像が崩れるような、繊細さが際立つ版画作品のオンパレード。また新しいピカソ像を持ちました。何でも作るピカソは一方で、ではいったい何を作りたいのか? との疑問が湧きますが、その応えがこの展観でしょう。

 とはいえ、具象を崩した大雑把な構図や、写し取ることはせず、湧き出るものへの拘りに終始した画面。これぞピカソという感性は変わりません。対象を凝視しています。見えないものまで見通す力を繊細な版画の線に表現しているのです。

 解説によると、彼は版画には常に高い関心を払っていたとか。会場にはエッチング、ドライポイント、エングレーヴィング、アクアチント、さらに珍しいシュガー・リフト技法などによる版画が▽青の時代のサルタンバンク・シリーズ▽30年代の新古典主義・シュルレアリズムのヴォラール連作▽1937ー53年戦時期=政治的メッセージ〈フランコの夢と嘘〉など▽86歳にして爆発的創作意欲を示す「347シリーズ」など4シリーズにまとめられ、多様な表現の数々を紹介しています。

 展観の作品を見ているうちに、あたかもスペイン・バルセロナの街を歩いているような感覚に陥りました。低いトーンでスペイン楽曲が通奏低音のように流れているーこれは幻聴でしたが、さすがにピカソ、美術に飢えた感性を大いに刺激してくれました。

 出品リストによると全130点。同展は新年1月9日まで。

 休館日12月26、29日~1月1日。