先ごろのブログで、スチール缶とアルミ缶の資源物について発信しましたが、先日、なじみの「ギャラリー エム」(長崎市常葉町)さんから鉄と陶をコラボさせたオブジェ展の誘いがあり、訪ねてみました。
案内状に鉄の「彫刻家」とあったので、腕っぷしのある強面を想像していたのですが、田邊朗さんは確かに風貌はそうでしたが、気の置けない親切な作家でした。
作品は、陶芸家・國松万琴さん制作の陶の家屋や舟形などのオブジェに、鉄で作った葉付きの枝をレリーフ状にコラボさせた作品。田邊さんの鉄の葉は錆びを巧みに利用した枯葉をイメージさせ、どこか異国の建物を連想させるオブジェとマッチ。メルヘンな雰囲気を醸し出しています。
石灰石採掘の田舎の町で生まれ育った私には、白い釉の建物をはじめとした作品群が当時の建屋や工場内の有様を彷彿させ、懐かしい思いに駆られました。
コラボというように二人の作家打ち合わせの上での制作。全面的に自身の思いを作品に込めることはなく、話し合いの末の落としどころの作品といえましょう。田邊さんは陶芸家・國松さんを盛んに「詩人」と評していましたが、私は田邊さんを昭和のロマンチストと感じ入りました。
鉄の葉は5センチ前後の大きさで、厚さは2ミリ前後。葉脈まで写実的に表現され、本物に着色したように思えます。
さすが鉄の彫刻家です。知識は尋常ではなく、人類と鉄の関係、たたらの時代、現代社会の鉄の使われようについて語ってくれました。人類と鉄の歴史は南アフリカのスワジランドで発見されたホモサピエンスの鉱山跡にさかのぼるとか。
「錆が錆びを防ぐ」という性質を利用して錆の肌合いを生かした作品は、「枯葉が枯淡を呼ぶ」和の精神を思わせ、鉄との長い営為を思わせます。「身近にいっぱいある鉄を見直してほしい。皆さん、今も鉄器時代ですよ」と鉄への愛を語る作家でした。
田邊さんの鉄の葉が、ギャラリーから大通を挟んで20メートルほどの支道に立つ11階建てマンション「Kuriyaの木 出島」の玄関に表札として貼り付けてあります。ぜひ一見を。
展示は鉄と陶とのコラボでしたが、私のテーマは缶詰のスチールとアルミのスマートな合体。この両者のコラボも美術としてありうるのか伺っておけばよかったと、帰宅して思った次第です。「田邊朗×國松万琴 立体の輝き」展は5月29日まで。