長崎出身で英国の作家カズオ・イシグロのノーベル賞受賞第一作、長編小説「クララとお日さま」(早川書房)を買った。私が新刊の小説を買うのは何時ぶりになろうか、会社勤務時代から長く古書に親しんできているのだが、このイシグロの新刊は、どうにも古書の出回りを待てずに売り切れを恐れて予約。真新しいハードカバーの厚い単行本を手に入れたのだった。
ロボットといえばアイザック・アシモフの「われはロボット」、カレル・チャペック「ロボット」が印象深い。で、改めて先日、記憶をたどるように「ロボット」を読んだ後、続けてこの頃発刊された「ロボット・イン・ザ・ガーデン」と「ロボット・イン・ザ・ハウス」を古書店で手に入れて読んだのだった。こちらの2冊は姉妹編で、イシグロと同じ英国人作家インストールの傑作。面白く、楽しく読ませていただいた。
チャペックの「ロボット」は戯曲。緊迫感に満ちた筋書きが、読み手をぐいぐいと引き込む。働き手としてロボット群団を造った人間が、ロボットに攻撃されるといった筋書き。ロボットものでは、いわば古典といっていい〝初期〟の作品。ロボットと人間の関係の在り方を考えさせる、まさにロボット時代の原点的主題を提示している。
そして「ロボット・イン・ザ・ガーデン」と続編の「ハウス」。狂気の科学者が孤島で制作した旧式の箱型ロボットであるタングが逃亡し、気の弱い優しい男性の庭に逃げ込み、男性の抱える家庭問題に巻き込まれ、てんやわんや。彼の存在がギスギスした家族を癒し、家族の一員と認められる経過が描かれる。ロボット時代のホームドラマといった内容だろうか。続編には球体の浮遊ロボット「ジャスミン」が現れて、いよいよ悪漢の影が濃くなってくる。
「イン・ザ・ガーデン」は劇団四季がミュージカル化しており、先日テレビで紹介されていた。ロボットのタングが黒子で動いており、発想もさすがだが、女性の黒子役がなんとも、うまい! 長崎来演があればぜひとも見たい。
映画「スターウオーズ」のR2とD-Oのようなロボットたちは戦う仲間としての存在価値として描かれるが、タングとジャスミンは人間家族の一員として存在感を増す経過が描かれる。社会的な労働する群団としての存在から個人・家族としての存在価値が問われる。
さてイシグロの最新作の主人公ロボット(アンドロイド)「クララ」は人間社会にどう存在し、どんな影響を与え、未来を展望するのか。
さあ読むぞ、と意気込んだ矢先、仕事が舞い込んできた。たくさんの資料と取材とに手を取られそう。「クララ」とのデートはお預けとなりました。先の楽しみとしましょう。