単なる物忘れの部類か、このごろ人の名前が出なくて困っている。

 職場を退いて付き合いが絶えて以後、時折お会いする懐かしい方々に、お名前が出ずに失礼を重ねている。大丈夫だろうか。

 時に家族、親族の名さえ曖昧になる。生きる気力さえ萎えていく…。

 こうして人は社会的存在を卒業し、個の世界に帰るのだろうか。

 コロナ禍の御時世が一層、私の関心事を身の周りのみに絞らせている。

 人の名が出ない状況は、社会的存在としての人間の殻を脱いでいく姿かもしれない。

病でないことを祈るばかりだ。

  ここで川柳「氏名出ず」を5句

 氏名出ず ボケ戦線一進一退

 氏名出ず 頭慣らしに家族の名

 氏名出ず 名抜きの会話に磨きかけ

 氏名出ず 年賀状で重度診る

 氏名出ず 最後の砦 わたし誰?朝焼け