お昼過ぎ、長崎に精霊流し見物に出かけた。会社勤務時代にお世話になった方の初盆ということで、出発から流し場まで同行しようと思ったのだが、自宅で静かに送り火を焚いて故人を送られたとのこと。で、精霊船の行程をテクテク歩いて見物することにした。

 長崎市の中央公園には大小さまざま4艘の船が姿を見せていた。それぞれ法被姿の人々の手で飾り付けされるなど、近辺の人々が船作りに余念がない様子だった。ここは船溜まりのようだ。

 午後4時ごろ、蛍茶屋線電車通りを長崎駅に向かっていると、まだ流すには早いのだが、立派な2艘連結の船が爆竹の音とドーイドーイの掛け声とともに引かれて行く。電車通りを、おそらく溜まり場に向かっていたのだろう。

 さらに続いて、なんと船橋にキリスト教会堂を模した大船が多くの人々に引かれて行く。すぐ裏通りに立つカトリック中町教会が出航場所か。皆そろいの黒装束で、何人かで車を誘導しながらの流し風景である。船橋の教会堂は白一色で本物のお堂と見まがうほどの大きさ。対向車線側の歩道を歩いていた私は思わず車道に降り、茫然と眺めていてバスにクラクションで注意された。見とれるほどの立派な船だった。

 長崎には、各宗教者が宗教宗派を超えて「平和」のために参集した長崎県宗教者懇話会が活動している。仏事である精霊流しにキリスト教が参加して船を流す姿は世界で、ここ長崎だけの出来事だろう。注目の美しい船だった。

 JR長崎駅から、5時半には長与駅に戻ったのだが、ここでも爆竹の音が遠くから響く。大通りに出ると、やはり船が長与湾に向かって流れている。

 住まいのある嬉里谷では、集会所前の広場に「もやい船」と個人の船の2艘を据えて、先祖を送る法事の真っ最中。初盆の遺族ら地域の方々約60人が参列。遺族の皆さんは船のそばに腰を落として合掌、お坊さんに合わせてお経を上げ、仏の霊を慰めた。そして爆竹の音と花火の光の中をドーイ、ドーイの掛け声とともに谷を下って行った。

 精霊船は歌手さだまさしさん作詞作曲のヒット曲「精霊流し」で一躍有名になり、観光行事となった。しかし、ここ長与で地元に伝わるお盆の行事として船を送る人々の姿を見ていると、昔から暮らしに根付いた大切な仏事だと認識させられる。遠く山口の山中に眠る父母が思われ、皆さんと一緒に船を送ることが出来てよかったと、しみじみ思った。