先の大戦時と平和憲法下の違いがくっきり分かる戦時資料。当時の情報局編輯の「週報」昭和十七年四月八日號が手元にある。
表紙に印刷された目次を見ると、最初に「戦時下の輸送問題」とある。
太平洋戦争に突入してまだ約4カ月。戦時体制確立が急務の政権が国民に訓令している。
東南アジア進出でエネルギーの原材料を確保しても、加工してこその資源ーなどと日本本土への安全輸送の必要性を説いている。
現在に目を転じて、中東・ホルムズ海峡を航行する石油輸送船などの安全確保策を米国が主張、日本など同盟国にイランや海賊を睨んだ「有志連合構想」への仲間入りを勧めている。
トランプ大統領は、安倍政権には日米安保で片務的に「守ってやっている」と恩を着せながらの勧誘である。対イランで対立を深める米国だが、日本はイランとは友好関係にあり、安倍首相は慎重に対処しているようだ。安全保障関連法や自衛隊法での出動にも無理があるとの判断らしい。憲法の存在から見ても、政府には慎重姿勢を貫いてもらいたい。
ところで「週報」の記事。「皇軍が戦果を拡大してゐる南方諸地域は、赤道の下、熱と光に恵まれ、豊富な資源を包蔵しています」と書き出し、続けてー、
フィリピンは優秀な鉄鋼(鉱?)と麻、石炭、クローム、マンガン、銅。
蘭印は、石油、ゴム、錫、石炭、鐵、ボーキサイト、銅、マンガン、アンチモニー。
マレーは世界第一の生産を誇るゴム、錫、鐵、マンガン、タングステン、ボーキサイト等を多量に産出と訴えている。
そして、「つまり輸送力といふことは、戦争経済をやってゆく上の根本問題であります。そこで政府では四月一日から、六月三十日までを第一次戦時輸送強化期間と定め、海陸輸送の全能力を動員し、一定の期間、区間を劃して特に指定された重要物資の輸送力を増強することにしました。(略)一定の期間、区間では、一般物資や旅客の輸送が制限される場合もありませう。しかし、これも戦時下の国防生産力の拡充と、生活必需物資確保のためですから、多少の不便は忍んでぜひ協力していただきたいのです」などと、この部分だけゴチックで強調。以下、「船舶」の場合、「鉄道」の場合に分けて政府の考え方を主張している。
船舶の場合では、「『海行かば水漬く屍』の詞に現はされた海洋民族の血を沸かしながら、弾丸の下、機雷原の中を突破して第一線の将兵に協力し…」などと綴る。
国民への強制ではあるが、大方は説得調の文章で分かりやすさに少々驚いた。この時期、まだ政府にも余裕があったのか。以後、大本営発令が新聞に載り、文章が命令口調になり「贅沢は敵」「欲しがりません勝つまでは」の檄が飛ぶ。そして国体護持にまい進し、破滅に突き進む。
天皇制に基づく軍国主義体制下での戦時物資の輸送確立策と、戦後民主主義下の安全輸送策の大きな違いは〝民意の反映〟だろう。背景には憲法がある。
私たちは、国策を政権に委ねることなく、大いに声を上げなければならないようだ。
ところで、この「週報」。目次を見るとほかに、「法王庁へ公使特派」「新しくできた婦人標準服」「満州開拓農場法」などがある。
現代史という過去の一コマではあるが、今は亡き父母らが生きた時代のこと。大切な人々の若き日を想像しながら振り返ると、その時代が身近に懐かしく感じられてくる。