卸売り業営業所の鑑定評価 | 猫好きのブログ

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 某大手アパレルメーカーの子会社。不動産は本社のみ。

 

 本社には事務所、ショールーム、倉庫がある。親会社から仕入れた商品を倉庫に大量にストックしている。県全域の小売業者に販売している。

 

 従業員は正社員換算で30人(大部分は正社員)。年商は15億円。一人当たりの年商は5000万円あり、アパレル卸売りの中小企業の平均値に近い水準。

 

 この種の不動産は小売業と違うので商圏が広く、小売業不動産評価で使う、商圏の市場規模とシェアから売上高を推定する方法を使いにくい。本事例は未だ年商が分かっているのでよいが、大半の企業は年商を公開していないので、ある程度の精度で年商を推定出来ないと意味がないからだ。

 

 卸売業でも確かに高いシェアを持っている会社は存在するのでこれらの会社の地域売上を求めることは可能である。例えば雑貨のあらたや医薬品のパルタック等だ。でも高シェア企業は拠点が多い為、拠点ごとの売上を外部の者が把握することは難しい。不動産評価に必要なのは拠点売上なのだ。

 

 では負担可能家賃設定に必要な売上をどのように求めたらよいだろうか?

 

 現在考えられる有力な方法は一人当たりの売上高×人数だ。一人当たりの売上高は業界平均値から分かる。人数は事務所の床面積から推定する。

 

  一人当たりのオフィス床は11平米ぐらいだから、1000㎡の事務室だと91人ということになる。この事例では30人なのでかなり乖離がある。

 

 でもオフィス床平均値は都心ビルを想定しているため、郊外型はこの倍ぐらいになるし、商談のためのショールームスペースを考えると、ずれるのは当然だ。

 

 一人当たりのスペースを2倍の22平米、ショールームスペースを300平米として計算してみると、(1000-300)/22=32人となり、実態に近づくことが分かる。

 

 別の方法だが、営業マン一人当たりの売上高に営業マン数を掛けるという方法もある。休業日に停車している車の台数を数えると営業マン数はある程度分かる。実際は内勤中心の管理職もいるだろうから、多少の修正は必要だ。業界の人にノルマを確認する。年1億円なら、営業マンが12人いれば年商12億円となる。

 

 非上場企業であるならば、東証スタンダード上場企業(旧ジャスダック市場の内、グロースを除いたもの)で同業種の一人当たりの売上を調べると参考になるだろう。これだと拠点の従業員数さえ分かれば推計できる。

 

 ただこの方法は不動産評価上、問題がある。例えば市内に2つの拠点があり、従業員が同じであれば、標準売上は同じかという問題だ。

 

 個々の従業員の能力を一定としても、場所が違うと売上は相違するものである。また売上は過去からの取引先との関係が反映されるため、立地だけでも説明が付かない。例えば古くて場所が悪い社屋でも営業歴が古いと取引先が多く、売上が多いかもしれない。

 

 負担可能賃料は様々な要因から起こった売上に対してどれだけ家賃に支出できるかという考えなので、不動産の物理的な価値に比べて非常に高い家賃になる可能性があり、不動産評価としては適切ではないかもしれない(特定事業用不動産のDCF法は想定要素が多すぎて適用が難しい)。

 

 だが下限値として考えれば役に立つ。不動産が売れないのは、単なる景気の問題ではなく、買い手の事業者から見て高くて採算が取れないこともある訳で、物理的価値では把握できない収益性から検討するためには必要なやり方だと思われる。

 

 積算価格で3億円、賃貸収益価格で2.9億円と近似値が出たとしても、自用の事業用物件であれば、事業採算性がこれよりも低ければ、3億円前後では全く売れないかもしれない。

 

 不動産の買い手が1.5億円と指し値を入れて来ることがある。これは交渉の下限値なので、そのまま成約価格にならないものの、幾らが妥当な価格か分からなければ売主は必要以上に安く売ったり、逆に3億円にこだわり売買のチャンスを逃してしまうかもしれない。

 

 もし事業用収益価格が2.5億円と出ていれば、売主は2.5億円まで下げる余地があり、買主の上限値内に収まっていれば、2.5億円に近い水準で成約するかもしれない。