工場の形と鑑定評価額 | 猫好きのブログ

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 工業団地の向かい合った土地にA,B2つの工場があったとしよう。建物の形状以外の条件は全て同じである。建築単価も同じ。

 

 

 工場Aは品物が一直線上に流れる縦型ラインなので、長方形の建物、工場Bは機能グループ間を品物が行き来するために正方形の建物にした。

 

 建築後10年が経過して両工場共、奇しくも閉鎖されることになり、会社は工場を売りに出した。この時、どちらの工場が高く売れるであろうか?

 

 一般的に言うと、工場Bの方である。何故なら正方形に近い方が使い勝手が良く、求める業種が増えるからだ。参考までに店舗の世界でも同じことが言える。

 

 もし原価法で工場A、Bの鑑定評価を行えば、どういう結論になっただろうか?

 

 劣化状況が同じであれば、積算価格は同一金額になったかもしれない。ただ市場に精通した不動産鑑定士ならば、市場性の調整を行って工場Aの方の評価額を下げるはずだ。

 

 原価法はコスト面に着目したものであるが、単純な建築コストや物理的減価だけでは実態を誤る可能性がある。そのため、収益還元法や取引事例比較法を併用して相互チエックを行う訳だが、現実問題として、類似の賃貸事例や取引事例(この場合は複合不動産としての取引を指す)に乏しければ、原価法1手法のみになりやすく、コスト面の評価手法でも市場判断を取り入れており、これが原価法の根拠を曖昧にしている。

 

 話を戻そう。もし工場Aが1業種にしか利用できなければ、この物件は特定事業用不動産になり、事業用収益還元法、つまり工場の売上(生産高、出荷高)から負担可能家賃を求めた収益還元法を適用できることになる。

 

だが実際は一業種限定ということはないであろう。業種が違っていても共通していることが多いし、縦長だと入庫・保管・仕分け・出庫という流れに沿った倉庫としても利用できる。つまり正方形の工場に比べると業種は限定されるかもしれないが、一定の汎用性はあるのだ。この中途半端さがあるから適用事業を特定できず、事業用収益還元法の適用は難しい。

 

 汎用性が高いと他物件と代替・競合関係も強いので、深い根拠がなくても、相場的に値段を付けやすい。ネット販売、スーパーの食品、中古車など、身の回りで見られることだ。

 

 では代替・競合性が強くなければどうだろうか?市場に比較の対象が少ないので、相場通り取引される保証はない。

 

 需要も供給も少ないのであれば、投げ売りしない限り、値崩れが起きにくく、意外と高い金額で売れやすいのだが(但し、売却時間はかなり掛かる)、工場Aのように中途半端だと、ある一時点の需給の力関係で大きく価格は変わると考えられる。この力関係を数値化できればよいが、中々難しいのではないだろうか。