工場の事業用収益還元法は可能か? | 猫好きのブログ

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資格試験とその応用

 工場の場合、貸工場の多い一部の地域、例えば東京都大田区や墨田区、大阪府東大阪市のような例外を除くと賃貸相場を見出し難く、賃貸収益還元法を適用することが難しいのが現状である。

 

 その代用として事業用収益還元法があるが、これまた難しい。工場の場合、店舗と違って収益の生成単位が一施設とは限らない。一施設で完結していたとしても、工場別損益計算書を多くの中小企業では作成していないことだろう。

 

 また工場間分業が盛んであるため、対象工場がどれだけの付加価値を加えたか貨幣単位で計測することは困難である。更に設計機能、研究開発機能のように直接収益を生まない製造以外の活動も工場で行っている。

 

 単純化のため、スケールダウンして小工場を考えてみよう。製造業といっても色々な態様がある。一般的に思われている完成品製造は意外と少なく、部品製造や加工業務のような中間財製造が多い。

 

 このような業務では自社が材料を仕入れ、加工して中間品を納品する業者と、材料の提供を受け、賃加工を行う業者とは売上の水準が全く異なる。それだけ材料原価のウエイトが高いからだ。財務体力が弱かったり、調達能力の低い業者は受注先に依存しやすくなるのは仕方ない。そういう事情を知らずに事業用収益還元法を適用するととんでもない間違いをおかしやすい。

 

 

 また機械設備の知識もある程度必要だ。生産物を生み出すのは工場という囲いではなく、機械設備と人である。機械1台の価格は非常に高く、どんな性能の機械を入れているかで生産性は大きく異なる。

 

 資産評価士という国際資格の取得講座では機械設備評価の基礎知識を教えているようだが、どれだけ対応できるだろうか?

 

 工場では自社の生産に合うように既存品を改良したり、特注品を購入したり、機械そのものを自社生産していたりするので、機械そのものの評価も難関だ。事業用賃貸還元法を適用する場合に不動産と機械とに貢献度を分離する必要があるので、機械の知識もそれなりに要るだろう。

 

 他に品種・品目の組み換え、操業度も重要だ。多品種少量生産が主流の時代においては、現在の生産ラインが同じままとは限らない。顧客の要望、ニーズの変化に応じて生産体制は変わっていくだろうから、今の不動産、機械設備を前提にどのように変化していくかを予想しなければならない(ま、精々、数年程度であろうが)。

 

 小さな工場ですらこれだけ検討の余地がある。ましては中規模以上の工場となると、敷地内に複数の工場棟があり、更に親工場・子工場、協力工場、資材・完成品倉庫など、複雑化していく。

 

 不動産評価者にはどこまで対応できるか心もとない。大雑把に日本の製造業は機械工業と食品工業が多いので、代表的産業に絞り、少しずつ業界を理解していけば、横展開が出来るようになるかもしれない。

 

 結構面倒なことだが、不動産鑑定評価は業務横断的な知識が必要な仕事である。そういう意味ではスペシャリストというよりもゼネラリストに近いだろう。

 

 すべて自分1人で行うのは無理なので、部分的な作業を外注するか、ネットワークを作ってその都度、得意な人が集まって作業した方がいいかもしれない。中小企業診断士はそのように活動しているようなので参考になる。専門領域を一つ持ち、後は共通知識・接続知識があれば、対応できるのではないか。

 

 不動産鑑定士は評価に関しては自己完結しようとしているように思える。そういう総合型はそれなりの専門性が問われる仕事に対応できなくなってしまう。