近未来の日本妄想 | 猫好きのブログ

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資格試験とその応用

 西暦203X年、日本の中小企業では倒産が激増していた。募集しても人が集まらない。

 

 アルバイトの時給相場は地方でも1500円を突破していたが、それでもだめなのだ。モノ・サービス不足が深刻なのに生産・販売が追い付かず、国内の景気は最悪であった。

 

 とうとう国会は政府発案の労働力活用法を議決した。その内容は年金受給者以外で無職の者は原則として働くことを義務とするというものであり、もし無職のままであることが発覚すると、政府の予備労働者名簿に登録され、人手不足の企業に労働力を提供するという内容である。

 

 無職の者は慌てて大学に通ったり、就職活動したり、親の介護と偽ったりして徴用を逃れようとしたが、次々と政府から通知書が届いた。通称、赤紙である。

 

 これが届くと逃れることは出来ないで戦地(企業)に送られるのだ。一応、適性検査を受け、適材適所ということになっているが、多くは人手不足の飲食店、小売店、介護施設に送られた。それでも地元企業だと未だよい。大都市圏の人は過疎地に次々と送られた。

 

 数年後、労働者数は法律施行前の20%も増え、GDPも600兆円を突破した。ブラック企業からは逃亡が相次いだが、国が新規労働力を補充してくれるため、企業は稼ぎまくり、企業の利益は史上空前の数値となった。

 

 逃亡者は発見されると、政府の施設で「教育」を受け、再び労働者不足の企業に送られる。こうして失業問題、税収不足問題、社会福祉問題はほぼ解決されたのであった。

 

 政府の追求から逃れた者もいない訳ではないが、彼らは一切の社会保障給付が絶たれた。この頃にはマイナンバーカードの所持が義務になり、全ての公的情報が一元化されているため、逃亡者の利用停止がなされると、どこの町に逃げてもだめであった。

 

 この制度は戦前・戦中の徴兵制度に似ているが、国会の議決で決まったため、民意が反映されている。

 

 勿論、制定までには紛糾があった。ただ眠っている労働力の活用で恩恵を受ける人達は多かったし、勝ち組と言われる人は別に関係がない。

 

 無職者や失業のリスクの高い人にとっては悪法だが、格差の拡大により国民の分断が進んだこの時代においては、彼らの声は意見の一つに過ぎないのだ。

 

 きちんと就職すれば登録簿から削除され自由の身になるが、過疎地に飛ばされた人は、ブラック企業の労働が終わると布団に入るのが精一杯で就活どころではない。こうして事実上の終身刑化が進んでいくという訳だ。

 

 失業直後の人も規定の日までに就職しないと赤紙が届くことになるので、自分のキャリアを生かせない企業であっても就職せざるを得ない。

 

 ついに日本の失業率は史上初の0%を達した訳である。

 

 おわり