銀行員から図書館司書へ転職 | 猫好きのブログ

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資格試験とその応用

 Aさんは大学卒業後、超優良と言われる銀行に勤めていたが、数年で退職し、ある地方の中堅企業の経理部に転職した。

 

 銀行員の20代の転職は珍しくない。競争が激しい、やりたい仕事でなかった、人間関係の問題、適性がない、もっと良い仕事が見つかった等、様々な事情があることだろう。

 

 転職先の会社は無名であるものの、町一番の会社であったので、一般の人は簡単には入れない。にもかかわらずAさんが転職できたのは元銀行員という肩書のお陰かもしれない。

 

 だが彼はまたしても退職してしまった。何が理由かは分からない。思うに事業会社は銀行員を財務のプロと考えるが、銀行員は伝票を切ったり、請求書を送るなど経理の仕事をしてきた訳でないので、両者の間にミスマッチがあったかと推定される。

 

 何を思ったのか、Aさんは失業期間に図書館司書の資格を通信教育で取り、地方自治体に司書職で採用された。

 

 司書は身近な職業ながら、求人数は極めて少ない。図書館のスタッフの多くは司書の資格を持った臨時職員か事務職の異動で配置されるケースが中心だからだ。資格を取っても正規職員採用のタイミングが合わないと宝の持ち腐れになりやすい。Aさんは運が良かった。

 

 ところが仕事が慣れてくると彼は不満を言うようになった。職種転換して一般行政職として働きたいというのだ。

 

 恐らく専門職だと出世が出来ず、後輩にどんどん抜かれていくことが分かったからであろう。地方自治体の専門職は決して恵まれていない。どこかの市だったか忘れたが、消費生活専門相談員が20数年勤務してようやく主査(部下無し係長相当職)に昇格して話題になったぐらいだ。

 

 確か図書館館長は司書が就くはずだが、一般行政職が夏休みのスクーリングを利用して司書の資格を取り、司書として館長に任命されたという話を聞いたことがある。恐らくこの人は数年で再び一般行政職に戻り、司書の資格を使うことはないだろう。専門職といっても所詮その程度なのだ。

 

 施設長が一般行政職、実務を担当する係長を専門職にして、専門職は定年まで係長どまりということだってある。施設長は1、2年で異動してしまう。

 

 Aさんは元エリート銀行員だったから、小さな自治体の木っ端役人で終わることに耐えられなかったのかもしれない。

 

 でも銀行や転職先の企業を辞めるときは、何等かの苦痛からの解放を願っていたのではないか?

 

 図書館司書は好きな本に触れられ、ノルマもなく、給料も保証されると思ったから、その職を選んだのではないのか?

 

 出世をし、かつ楽もできる。そういう職場は滅多にないはずだ。普通はどちらかを選べばなければならない。Aさんは司書に理想を求めたが、現実を知った。

 

 公務員において職種転換は簡単ではない。専門職と一般行政職(総合職)とはキャリアパスが異なるからだ。一般行政職は専門性はないかもしれないが、横断的に異動することで全体の仕組みを知り、組織を動かすマネジメント力を身に付けるものだ。偉く成れるかどうかは別として、一応、将来幹部になるための教育がなされる建前である。

 

 例外として専門職が総合職になることはある。例えば彼がマネジメント力に優れ、上級幹部の候補に入れたいと上が認めた場合などだ。

 

 Aさんはその後、どうなったのかは敢えて書かない。想像に任せよう。