Aさんは私立の名門W大学商学部の学生で就活に苦戦していた。
本当は文学系志望者で他大学の文学部に合格していたのだが、偶々W大の商学部にも受かってしまい、名門W大学の名前を選んでしまったのだ。別にそれは彼だけではなく、世間ではよくあることだ。
入学してからも彼は商学なんかに全く興味が出なく、単位不足で留年となった。将来、小説で身を立てたいというので自室で作品を書いていた。
とはいえ賞を取ったわけでも、出版社に作品を持ち込んだわけでもない。彼もまた食べるために就活をすることになったのだが、全然内定が出なかった。
勿論、第一志望は出版社だ。業界紙記者や編集者から作家になる人は非常に多い。出版元とのコネクションがあり、作品の企画・編集をしていくうちに力が付くのであろう。漫画家のアシスタントをしながら、漫画家を目指すのと似ている。
だが出版社に入るのは非常に難しい。大手だけでなく、薄汚れたビルの一室でやっているような零細出版社ですら同様だ。この業界に詳しい人の話によるとエロ雑誌の会社ですらも中々入れないという。
自分の主観だが、文学部系の人達は文系他学部の学生よりも文章表現力があると思う。自分の行っていた大学では学力面では法学部よりも上であった(但し、就職率は悪かったが)。
文学部を捨て、興味の出ない商学部を選んだツケがAさんに回ってきた。文学部に行かなかったから、文芸評論、語学などのスキルが身に付いておらず、かといって授業にまともに出ていなかったため、商学系の専門知識もあるわけでもない。
とは言え、新卒は実務経験不要だけに大学のブランド効果があるはずなのに何故、彼は苦戦したのか?
一つは1浪1留だったことだ。+2年なので企業は敬遠する。とは言え、人物的な評価が高ければ皆敬遠されるわけではない。面接にはスキルが必要であるから、金太郎飴と言われようが、学生は就職部で訓練を受け、企業研究をして準備するものだ。Aさんはそのようなことをしているように見えなかった。
W大なら何とかなるのかと思ったのであろうか。結局は中小企業ですら全滅。W大と言えば、有名企業への就職が非常に強いのが有名で、有名400社への就職率は35%を越えている。旧東証一部上場企業3400社まで広げると少なくても半分以上の人が就職しているだろう。
だが当然だが皆が入れるわけではない。何故なら大手企業は特定の大学に偏らないようにして採用するため、大学ごとに大まかな枠があり、同じ大学内で椅子取りゲームが発生するからである。
優秀な人から椅子は埋まり、平凡な人は就活スキルを駆使して何とか残りの椅子に座ることになるが、ろくな準備もしない生徒はW大と言えども見捨てられる。
Aさんの置かれていた状況は正にそれだったわけだ。ペットショップでも血統書が付いた犬猫でも大きくなると値下げが進み、それでも売れないとどこかに消えてしまうではないか。それと同じことだ。
Aさんは再び留年することになった。家が富裕なせいか、我儘も効いたのであろう。その後、引越ていったのでどうなったのかは不明だ。1浪2留になったことから、更に状況が悪化しただろう。