門前薬局の不動産評価 | 猫好きのブログ

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 皆さんは門前薬局という言葉を知ってるだろうか。

 

 これは昔からある寺社町の薬局版である。つまり門前薬局とは大規模病院周辺に形成される調剤薬局のことを言う。患者は病院で貰った処方箋を持って調剤薬局に行き、調剤してしもらう。勿論どこの薬局を利用してよいが、一般的には通院先のすぐ傍の薬局を選ぶものだ。

 

 従って調剤薬局の立地は極めて限定されることになる。病院から離れた大手ドラッグストアでも調剤をやっている場合があるが、こちらは処方箋以外の商品がメインだからこそ成立するのであり、調剤専業となると大病院から離れてしまうと売り上げが急減してしまう。このような性格から大病院の傍に売物件が出た場合、他の業種を前提とした買い手の付け値よりも門前薬局を前提とした付け値の方が高くなりやすい。

 

 

 以前、門前薬局の不動産評価依頼を受けたことがある。門前薬局といっても不動産そのものについては、一般の店舗、事務所と変わらない。従って原価法で土地価格+建物価格と出してもよいし、収益還元法で賃貸を想定し、純収益を資本還元した収益価格を出しても構わない。

 

 だが門前薬局に適した不動産の場合、一般的な評価手法を使うと、実態よりも低い評価額になってしまう。ただ調剤薬局という業種分析に基づいた不動産評価も可能である。

 

 ケーススタディとして、A薬局を取り上げる。大病院の付近にはA薬局を含めた5社の調剤薬局が門前薬局を形成している。A薬局は出店1年目で決算が終わっていない。もし決算書類があったとしてもそれは過去の数字に過ぎないので、将来の業績を保証していない。

 

 門前薬局はそれ以外の調剤薬局よりも立地的に有利であるものの、門前薬局構成会社は全国大手がメインであり、内部では激しい競争をしている。ただ患者は処方してもらう調剤薬局を決めているというよりは、帰り道の近くにあるとか、病院の正面向いにあるとか、待ち時間が少ない等といった条件で選択する。

 

 このケースでは大病院で発生する処方箋量を推定し、処方箋一枚当たりの平均単価を掛けて需要の大きさを推定した。内容について詳しく書かないが、病院の一年間の外来者数を時系列的に調べたり、調剤薬局業界の資料を参考にした。また現職の薬剤師からのアドバイスを受けた。

 

 このようにして門前薬局全体の売上を推定した次は、これらが5店舗にどのように配分されるかの検討である。まさか1店舗ずつ回って

聞くわけにもいかない。ここでは通行量や単位時間当たりの入店者数を実際に調査して求めた。あと企業毎の待ち時間、得意不得意分野なども調査してみた。

 

 分かったことは、やはり顧客(患者)導線の太さが最も売上に貢献しているということだ。巨大企業であっても導線からややずれると苦戦することになるのは、スーパー経営と同じである。さすがに内部の経営資源分析は経営コンサルタントには敵わないが、立地条件の分析なら、不動産評価でも何とか通用する。

 

 調剤薬局は医薬品の処方を行うという特殊な業界であるが、門前薬局の場合、立地条件が限定され参入障壁があること、更に門前薬局エリア内でも立地条件の差が付きやすく、一度優位性を確立すると長期間継続しやすいという特徴があるため、分析そのものは決して難しいものではない。