迷わないための星野道夫 | 東京夜時

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宇都宮秀男によるコラム。月木更新。

自分探しの旅、という言葉がある。

青春の真っただ中にいる青年が好む言葉だ。

「自分探しに海外に放浪してくる」
というのが定番の決まり文句だが、
「海外にいっても、そんな所に答えはない」
というのが定番の返し文句になっている。

けれど写真家の故・星野道夫は言っている。

「自分がいた場所を少し移動してみると、
今まで見えなかったことが見えてくるものだ」

優しい語り口調で、確信めいたことを
さらりと言うのが彼のやり口である。

       *

先日「星野道夫の100枚展」に行ってきた。



巨大なライトテーブルの上に並べられた
100枚の35mmフィルムに向き合い、
ルーペを使ってみる変わった写真展だ。

ファインダーを覗いてピントを合わせて
はじめて浮かび上がるアラスカの光景に
思わず息を飲む。

ゴーギャンよろしく
星野道夫の作品に通底するものは
人はどこからきて、どこへいくのか、である。

普遍的な問いから切り取られる
北の大地の日常は、
自分の生活が映し出す日常とは
また別の現実があることを教えてくれる。

ルーペを覗いているわずかの間、
日本という場所と今という時間を忘れることができて、
少しだけ「移動」したような気持ちになった。

       *

話は変わるが、先日、
ナチュパラの特別顧問に就任したスタック電子の創業者、
田島さんが事務所に来られた。
(経緯は拙ブログ『立川パレスホテルで出会った宝物』をご覧ください)

天皇陛下も会社を視察されたことのある、
素晴らしい会社を一代で築き上げた人だ。

田島さんは迷わないために、
計画を立てることの重要性を説く。

「ものごとには手筋というものがある」

目標や計画が明確であればあるほど
1つ1つの手筋が見えて
迷いのない行動を生み出し、
目標到達地点は高く、かつ早く実現する、と。

       

星野道夫さんは「計画を立てよ」とは言わなかったが、
代わりに、静かに自分と向き合うことを、教えてくれる。

自分の計画が立てにくい時や
その計画に自信がもてなくなったときは、
移動して考えてみるのも良いかもしれない。