慎 泰俊という男 | 東京夜時

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宇都宮秀男によるコラム。月木更新。

AERAの『現代の肖像』コーナーに
慎 泰俊(シンテジュン)という友人が出ていた。

慎くんは僕と同年代である。
彼の主催する英語の勉強会に参加したことがある。
エコノミストを英語で読むための勉強会。

場違いを承知のうえで参加したときに
知り合ったのがキルギス人の親友イバラットである。

良いエネルギーを持った人の周囲には
良いエネルギーを持った人が集まる。

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マイクロファイナンスの力で開発途上国の
貧困の課題解決に挑みながら、
日本における「子どもの貧困」問題にも取り組んでいる。

なぜその両方に挑むのか。

「人が機会の平等から疎外されて絶望せざるを得ない社会は、
 決して平和な社会になりえないと思います。
 歴史上の悲劇の多くは、
 絶望をせざるを得ない人々がいるときに生じてきました。
 僕の目には、開発途上国の貧困層と、
 日本の児童養護施設の子どもたちのどちらも、
 同じくらいに深刻なものに見えます」
(エコノミスト勉強会のメーリングリストより)

日本には約5万人の子どもたちが親と暮らせずに
施設や里親家庭で生活しているらしい。

さらに、この児童養護施設等の子どもの53%が虐待を受け、
その数は年々増加しているという。

また虐待を受けた子供たちの高校中退率は高く、
大学進学率は低く、ホームレスになってしまうケースもあるという。
(NPO法人『Living in Peace』のホームページの情報より)

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『現代の肖像』を読んで衝撃を受けた。

朝鮮籍を自ら選び、幾多の困難を乗り越えて、
志のために生きてきた半生。

「逃れようもない苦しみを意図的につくりだし
 その苦しみのなかで自分を見つめ直す。
 自意識やコンプレックスに囚われている人は
 ビジネスの現場でもその力を発揮できない」
(AERAの挿絵に添えられたコメントより)

彼の強さはどこから来るのか。
彼のブログでリーダーシップ論が語られていらた。

「リーダーとは、
 皆が共感できるビジョンをつくりだし
 その実現のためにチームを巻き込み
 行動し続ける人。
 
 リーダーになるような人は
 自分のビジョン実現に対する情熱を持っていて、
 自分がそれを達成できるような
 立派な人間になろうと決意をしている。」
(noteより)

「その通り」だなと思うと同時に、
今の自分は「まだ全然足りない」って思った。
だが彼を天才という言葉で片付けられないのは、
相当な努力をしているからだ。

彼はブログでこう続けている。

「人間は忘れっぽいので、
 決意をしてもその通りに生きていけるわけではない。
 だからこそ必要なのは省察の時間を持つことだ。
 自分の行動振り返りリストを作って、
 毎日、毎週と自分がその通りに生きているかチェックする。
(note)

そのために彼は膨大なチェックリストを
用意して省察しているらしい。

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最近、司馬遼太郎の『峠』を読み始めたのだが、
その主人公・河井継之助と慎くんが大切にしているもので
共通するものがあった。

それは「陽明学」。

吉田松陰、西郷隆盛、三島由紀夫も影響を受けたという学問。

理想が叶わなければ破滅するという危険な匂いもあるが、
それでも、きっと、そこにしかない美学もある。

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いきなり自意識の放棄は難しい。

でも、だからといって志を放棄したくはない。
志をもつことと、利益を追いかけることは両立できるだろうか。

少なくとも志のない利益はダメだろうな。

先義後利という考えがある。

まずはそこから外れないようにするのが大前提だろう。