東京夜時

東京夜時

natural Paradoxの宇都宮秀男によるコラム。


テーマ:
2017年、大晦日の朝。

東京の空には雪が一時、舞った。

やがて外を歩くと、その痕跡は一かけらも見当たらず、
まるで何事もなかったかのように
誰一人傘を持たず歩いていた。

マジシャンが大振りのネタをした後に
さりげなく小ネタで締めるような、
ささやかな粋を見た気持ちだった。

きっと年が明けてしまえば
ほとんどの人が思い出すことはない程度のものだった。

✳︎

やがて北品川を歩いていると
1軒の蕎麦屋を見つけた。

『砂場』

地元の人しか入らないような空気を纏った軒先で
一人の老婦人が順番を待って立っていた。

僕と一緒にいた人がおもむろに中を覗くと
「はい、2名様どうぞ」と店の人が言った。
老婦人が先に並んでいたのだから
彼女を見やると、思いがけず
「お先にどうぞ」と言ってくれた。

初雪を観測した日の昼過ぎだ。
当然のごとく外は寒かった。

そして僕は少し風邪気味だったこともあり、
外で待つくらいであればやめようという気持ちだったから
恥ずかしくも、見知らぬ老婦人の優しさに甘えて
ありがたく店に入った。

そして、鴨南蛮そばを注文した。



その味はどこまでも優しくて温かくて
その味が心にしみるほど
先に席を譲ってくれた老婦人のことが思いやられた。

玄関のすりガラスの向こう側に
老婦人の遠慮がちな佇まいが見てとれた。

しばらくして老婦人は僕の隣のテーブルの4名席に通された。
さらに後から来た1人のカメラ小僧みたいなおじさんが
老婦人と相席になってしまい、気の毒に思われた。

僕は何か恩返しをしたい気持ちにかられ、
柄にもなく、人生で初めて、
「隣の席の、見知らぬ人の会計を済ませる」
という行為を思いついた。

過去、どんな美しい女性がBARにいたとしても
そんな行為に及んだことはなかったのに
(そもそも酒が飲めないので行かないのだが)
まさか今日やることになるとは。

✳︎

実際、緊張した。

老婦人は隣の席で距離も近いので、
一緒にいた人に相談をするわけにもいかない。
(すぐに怪しまれて気づかれてしまう)

僕は2回くらいトイレに行ったフリをしながら、
どうすれば蕎麦屋で隣のテーブル会計を済ませるという
突飛な行為が成功するだろうかと考えた。

自分の中でイメージトレーニングをしながら
手洗い場にあったティッシュで何度も鼻をかんだ。
完全に不審者みたいな感じになっていた。

そしてふと席に戻ろうとしたら、
まだ、こちらが二人とも食べ終わっていないのに、
老婦人、まさかの早食いで
すでに箸を箸袋に戻していた。

それが合図となり、僕は緊張を最大限に押し隠して
財布をとり出し、店主にこっそり耳打ちした。
店主はすぐに意図を汲んでくれて
人生初の隣の席のテーブル会計に成功した。

だが、問題はこの後だ。
ここからは筋書きのないドラマが始まる。

老婦人が会計をしようとしたとき、
「あ、お代は隣のお客さんからもう頂いてますので。
席を先に譲ってくれたお礼ということで」
と店主がいい
「先ほどは寒い中、本当にありがとうございました」
と僕らがお礼をすると
「いやいや、私は近所だからいいのよ。困るわ」と老婦人。
「こういうのは気持ちだから甘えていいんですよ」と老婦人をなだめる店主。

そこから店内は一気に和やかな空気になり
なぜか相席していたカメラ小僧のおじさんも会話に参加してきて
「ここの店、夜くるといいよ。
そば味噌とかつまみも美味しいから」
とプチ情報を教えてもらったり、
一緒にいた人がそのそば味噌に食いついて話を聞いたりしていたら、
最終的に老婦人がそば味噌を2つお土産で僕らにくれた。

✳︎

その光景は、たぶん、その日の初雪のように
年が明ければ誰も思い出すことのないような
他愛もない出来事だったんだけど
年の瀬の東京で粋な光景を見せてもらえて嬉しかった。

そば味噌が美味しかったのは言うまでもない。
2018年もいい年にしたいなって思った。

テーマ:
住宅街にある夜のマクドナルド。

カウンターテーブルで
僕の2つ隣に座っているOLらしき女性は、
飲みかけのホットコーヒー1つをそばに置いて
机に突っ伏している。

仕事の帰りで疲れてるのだろうか。

僕はミスチルの「365日」のライブ映像を
YouTubeで観ながら涙ぐみそうになっていて、
かなりヤバい人に見られながらこの文章を書いている。

そのライブは以前、後輩に誘われて観に行ったんだけど、

地球は毎秒465m回ってるとか
1秒間に2.4人の赤ちゃんが生まれるという話や
この世界の6人に1人は毎日1ドル以下で生活しているとか
いろいろな数字のデータが会場スクリーンに登場する。

そして、最後にイントロが流れ始め

「人々が1年間で愛し合える日数」

と出て、

「365日」

と出る。
相変わらずのにくい演出だ。



マクドナルド自体も久しぶりに入ったし、
夜20時以降に入るということもない。

そこには学生らしき人、フリーターらしき人、
サラリーマンらしき人、仕事している人、
音楽を聴きながら本を読んでる人、いろんな人がいる。

まるでNHKのドキュメンタリー「72時間」のような空気感だが、
よく考えたら、マクドナルドだろうが、公園だろうが、家だろうが、
それぞれの場所には72時間どころか、
365日のドキュメンタリーが存在しているんだよな。

僕は今週末からアフリカのスタディツアーのようなものに参加する。
初めてのアフリカだ。どんな国なのだろう。

「現地NGO訪問の際、子供に小さなお土産があると喜ばれます」
というかなりザックリした補足事項が旅のしおりに書いてあった。

悩んだ末、ドラッグストアに立ち寄った際、
きな粉チョコの特売やっていたので、10袋買った。



喜ばれるだろうか。

てか、これをマクドナルドのカウンターで撮ってる時点で、
相当ヤバい人に見られているのでは・・・とドキドキしたが、
みんな自分の目の前のことにしか興味なさそうだった。

気がついたら2つ隣にいた
OLらしきお姉さんはもう帰っていた。

あの人の帰りを待つ人はいるのだろうか。

僕が陣内孝則さんだったら、
「365日、愛し合ってるか〜い?」と言いたいところだけど、
そんな質問は胸にしまっておこう。
アフリカに行く前に通報されてしまう。

テーマ:
蒸し暑い日が続きますね。
皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

今日は渋谷にある「TECH PLAY」というスペースで開催された、
あるカンファレンスに参加してきた。

『急成長する動画市場』と題されたカンファレンス。

前職の後輩がプロデュースしているということもあり
以前から気になっていたスペースだったので
今日、初めて行ってきた。

✳︎

「作品づくり」に主眼を置いてきたナチュパラにとって
動画ビジネスの潮流とか、市場という話は、
少しばかり遠い存在になっていた。

しかし気がつけば、動画マーケットはいつの間にか加熱していた。

クラシルやデリッシュキッチンなどの俯瞰構図のレシピ動画が勢いを増し、
C Channelなどの女性向け動画市場、Abema TVなど急速に成長している。

次の5年で動画の市場は今の3倍となり
およそ2000億円を超える市場になるといわれているらしい。

10年前に「これからは動画の時代がくる」と前職の会社で一人吠えて、
細々と動画サービスを立ち上げ、
「何コイツ、痛いことやってんだ」
みたいな空気を肌で感じたあの日々が懐かしい。

✳︎

ちなみに昨年、世界で1番再生された動画はこれらしい。



再生回数33億回。。。なんという数字だ。。

さらに昨年、日本で1番再生された動画は
やっぱり、PPAP!!!

・・・ではなくて、星野源のMV「恋」らしい。



企業広告としてはネスレの動画が一番再生されたらしい。



だがオーガニック経由(検索するなどして自然にその動画にたどり着いた場合)と
有料広告経由というものがあり、調べれば誰でもわかるらしいが、
ネスレの場合、かなりの割合が有料広告経由らしい。

確かにナチュパラも仕事でTrueViewの仕事をやるが、
あっという間に100万PVとかいく。
(YouTubeの最初に流れるスキップされがちな有料動画広告)

やはりオーガニック経由で
たくさんの人に見てもらえる動画をつくりたいものだ。

そのオーガニック経由の
いい例としてはトヨタの動画が紹介された。



これな。知ってるよ。良いよ。
確かに評判が良くて、自分で検索して見たわ。

600万回を超える再生回数のうち、
20パーセントがオーガニック経由らしく、
ここまでくると相当な成功例とのこと。

✳︎

いつも動画制作の仕事をしているわりに
俯瞰して自分の立ち位置を見る機会なんてないので、
とても良いイベントだった。

後輩とも久しぶりに会えて話せて嬉しかったし、
最近、独立しばかりのフリーランスのディレクター入谷くんと
一緒に参加して、二人でとても感激していた。

どんどん新しいことを学んでいきたい。
野球に例えるなら、どんどん新しい球種を覚えて試したい。

ナチュパラは日本一速い球を投げられるわけではないし、
誰も打てないようなカーブを投げられるわけではない。
(何か1つのことに突出しているわけではないし、
職人的に何か1つを極めるタイプではない)

いろんな球種を覚えて、
(いろんな人とタッグを組んだり、新しいことに挑戦したりして)
いろいろ組み合わせながら、勝負していきたい。
(多様性を尊重しながら、この動画市場を盛り上げていきたい)

「ナチュパラといえば、ストレートとカーブでしょ?」
と思われているところに、キレキレのシンカーを放り投げたい。
(あ、こんな仕事もできるの?と思われたい)

✳︎

執拗なまでに野球の比喩をつかってすみません。

しかも、いちいち補足しなければならない比喩なら
最初から使わないほうがいいなと反省しています。

しかし、地元別府の明豊高校がベスト8まで活躍した2017年の夏、
一時的に高校野球熱が高まってしまっているため、どうぞ、お許しください。
(↑すぐに影響をうけるタイプ)

テーマ:
ミスチルが25周年を迎え、
東京ドームで行われた記念ライブに行ってきた。



思えば僕が小学生の頃に「CROSS ROAD」を聴いたとき、
ダウンタウンの漫才を初めてビデオで観た時のような衝撃を受けて
以来、20数年間、彼らの音楽を聴いてきた。

CROSS ROADを歌った後、MCで
「あの頃、売れたい一心でこの曲を書いた。
好きな音楽を続けていくために売れたかった」と言っていた。

その言葉が裏付けるように、
名実ともに「売れた」うえで歌うそれは
あの頃受けたニュアンスとは違っていた。
それは聴き手である僕も十分な大人になっていたということもあるだろう。

過去のヒット曲を披露しながら
ファンに対する感謝の気持ちを伝えるのが
とても印象的なライブだったが、
良かったのは「1999 夏 沖縄」だった。

それはファンのためにというのもあるだろうが、
本当に歌いたくて、それを歌っているような気がした。

「いつまで自分たちがバンドを続けられるか
ということを前よりも考えるようになった。
自分の同世代のミュージシャンが辞めたり、亡くなったりするなかで
今ここにいることに感謝しながら
今まで以上に1つ1つのフレーズを大事にしながら歌っていきたい」
という旨のことを曲の間奏で語っていた。

頑張って盛り上げようと高い声を出して煽る桜井さんより、
ゆっくりと語るその言葉の方が僕にはずっと自然体で、
そして一番思っていることを話していたような気がした。



CASHという質屋アプリなるものが登場したということで、
僕のSNS上では賛否両論賑わっていた。

友人がその件に触れて
「今の日本は大人であれ若者であれ、目の前の現金が足りていない」
と書いていたのが印象的だった。

だから日雇いバイトも、フリマアプリも
質屋アプリも人気なのだろう。

同じタイムライン上でまた別の友人が
「筑紫哲也の最後の多事争論」をシェアしていた。

質屋アプリに多くの人が飛びつく時代の空気を
筑紫さんはずっと前に読んでいたような気がした。



この国の分岐点は分からないし、
ましてや自分やナチュパラの分岐点でさえ
分からない時もある。

ただ気がついたら、
もうこっちの道しか残ってなかったと思う時もある。

小さな日々の選択や判断が
良くも悪くも道をつくっていく。
だから注意深くなければいけないし、
一時の感情で道をつくってはいけないなと思う。

ただ、今日、ミスチルが歌った
『Any』という歌を聴いて妙に納得するものがあった。

「今 僕のいる場所が 探してたのと違っても
間違いじゃない きっと答えは一つじゃない」

テーマ:
浅田真央さんの引退記念特別番組を
静養のために訪れた箱根の旅館で観ていた。

フィギュアスケート選手の多くは
20代半ばで現役生活を終えていく。

思えば真央ちゃんフィーバーが起きたのは、
彼女が15歳の頃なのだ。

あまりに早熟のスポーツである。



ずっと彼女を追いかけていた
東海テレビのディレクターは、
浅田真央さんとのLINEで「かっちゃん」と呼ばれていて、
撮る側と撮られる側の信頼関係のありようを
教えられるようでもあり、
一個人として羨ましいような気持ちもあった。

ナチュパラは今年の9月で6期目を迎える。
フリーランスの期間を含めれば、
29歳で独立してもう8年目に入るのだ。
僕は35歳になっていた。

先週末、「春だね!ナチュパラ飲み会」と題して、
下北沢のととしぐれで飲み会を開催し、
25名強のクリエイターや仲間が集まった。

結局、20時にスタートして、朝の3時くらいまで飲んでいた。
ほとんどが20代で活気があった。
みんなが勝手にどんどんつながっていくし、
ナチュパラ内外で、どんどん新しい創造が生まれていた。
それはとても嬉しいことだった。

良くも悪くもクリエイターという仕事は
フィギュアスケート選手ほど
ピークも引き際もわかりやすくはない。

僕は不器用なマラソンランナーになったつもりで、
走ったり、歩いたり、立ち止まったりしている。



「学問のすすめ」と「論語」を現代語訳版で出したことに
個人的に好感を持っていた齋藤孝さんの著書を最近読んだ。

「35歳のチェックリスト」という本だ。

『35歳はもう現実を生きなければならない年齢です』
『モラトリアムはもうおしまい』
『自分のために生きるより、「誰かのために」ということを
考えているときのほうが本質的な生き方ができる』
『「自分が今いる場所で、今やれることをやる」ことでしか、
突き抜けることができないとわかってくるのが35歳』

突き放したような厳しさと一抹の優しさを感じさせる言葉を
本の序盤から連打のように浴びせてくる。

もしアンジェラ・アキの歌のように、
15の僕に手紙がかけるとしたら、こう書きたい。
「35歳という年齢はあらゆるガードを外されて、
無遠慮なほどにボディーブローを喰らう危険性があるので
十分に注意してください」

人生を何のスポーツにたとえようが、
結局は比喩の1つにすぎないわけで、
飽きられようと、褒められようと、
ただ、今は、誰かのために、
つくりたいという気持ちである。

そんな具合に人知れず現役続行を誓えば、
いろいろな壁が待っているに違いない。

浅田真央さんのバンクーバー五輪時代の
タチアナ・タラソワコーチの口癖は
「乗り越えろ」だったという。

そして、彼女が引退記念特別番組の最後の方で
未来ついて訊かれて、フリップに書いたのが
「スマイル」という言葉だった。

「いろいろなことを乗り越えていくパワーの源がスマイルなので」

と言っていた。名言だと思った。