写真付小説 【東京散歩】 21-25
【 東京散歩 】
第21話~第25話
◆出演◆ 高山猛久 / 増田修一朗 / 西沢仁太 / 若林謙 (以上 東京深夜舞台)
◆脚本◆ 一雫ライオン (東京深夜舞台)
【 ・・・9回裏、2アウトランナー満塁。
5対4の1点ビハインド。
2塁ランナーを返せばサヨナラで甲子園出場決定・・・
バッターは秋田第一商業の4番、横須賀二郎!
カウントはツースリー、勝負の1球、・・・ピッチャー・・投げました!! 】
・・・あの時みたいに、あの時みたいに打ち返してやる!!
ただ純粋に野球を愛して・・
最高の仲間がいて・・
共に悔しがったり、喜んだり、
みんなで笑いあって、未来を信じて生きてきたあの時みたいに・・・
俺はもう生きる資格がねぇってゆーのかよ神様!!
『 痛ぇ!!・・・・ 』
【 カラン、カラーン 】
バットは転がり落ちた。
バッティングセンターの、たかが110㌔のボールで。
俺の右ひじは軟式のボールにさえ耐えきれず悲鳴をあげ、
無常にも打ち返したつもりのボールは、
俺の足元に転がっていた。
まるで今の俺を、昔の俺があざ笑う様に・・・。
『 痛ぇ・・・青春ごっこみてぇな真似するもんじゃねぇな・・・
ガラでもねぇ・・。 』
『 ・・・何だよ?・・・ 』
バッティングセンターの、狭い檻の中から見上げた空はやけに青くて、
晴れわたっていて、清潔で、
そんな空に、俺は嫉妬した。
昔見た青空は、なんだか優しく見えたのに、
今見る青空は、なぜだろう?
なんだか意地悪そうに俺を見下ろしている。
『 早く来いよ、・・・浦無・・・一人にすんなよ。 』
着きました。
神宮球場にある
バッティングセンターに。
5分では着けなかったけれど、
そりゃ巣鴨からだから5分で着ける訳ないんだけれども、
何とかあなたのおっしゃる通り横須賀様、
着きました。
『 怖ーーよ、
あの男・・
何であんなヤケッパチみたいにバット振ってんだ?
お兄様見つけられてないからって、
まさか・・・
殴られないよね・・
バットで・・ 』
大丈夫、大丈夫よ マイ・フレンド
ヤクザったって、
ま~さか公衆の面前でバットで殴りかかりゃしないだろう。
メイビー・・・パーハップス・・・・。
『 ・・・あの・・遅くなりました
・・浦無一輝ですぅ・・・ 』
『 ・・・・・おう、座れや。 』
『 ・・・はい。 』
『 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 』
『 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 』
重い。
非常~に重いですね空気が (掛布風)。
このGに耐えきれるほど鋼の精神力は持ち合わせていませんよ、
あっしは・・・
・・・謝るか。
実は心の神様に逃げられて、僕の神通力はもう無いんです。
嘘ついてました・・・。
あなたのお兄様、見つける事は出来ませんって・・・。
言うしかないよな・・・
人として・・・。
よし!・・・よし・・・、
『 あの・・・・・・ 』
『 浦無・・・
どうや兄貴は?見つかりそうか?・・・・ 』
『 そ、それが・・・あの・・・・・ 』
『 ・・・まあ、ええわ。
あと2、3日中に見つけてくれや。
俺もそんなに待てんしの。 』
『 あの・・
実はお話があって・・・
怒らないで聞いて・・ 』
『 浦無・・・ 』
『 ・・・はい。 』
『 ・・・生きるってなんや? 』
『 ・・・生きる? 』
重 ーーーーーーーい!!!
いきなり重ーーーーい!!
昼のバッティングセンターで話す話題にしては重い!!
あってまだ2回目の俺達が話す話題としちゃ重すぎるよ!
横須賀どん!!
それ
長年連れ添った親友と海で沈みゆく夕日を見ながらする会話か、
学生時代の親友が社会に出て、
荒波にもまれて、
上司に理不尽な事言われても
勿論言うこと聞いて、
なんだか最近胃が痛くて、
あんなに可愛かった嫁さんも
最近じゃ太ってきちゃって
目も合わせずに
『 あら早かったのね、今日遅いと思ってたからご飯ないわよ。 』
なんて言われて、
仕方無く風呂に入ったら
これまた水風呂で
『 冷てーー!! 』 って叫んだのに
嫁はノーリアクションで
韓流ドラマ観ながら
『 いいわー、ヨン様いいわ~。 』 って
うっとりしているのを見て、
凍えながら水風呂に浸かったまま呟く
『 ・・・生きるってなんだ? 』
くらい重いよ! 横須賀殿!!
『 なぁ浦無、
生きるってなんや? 』
『 なぁ浦無、
生きるってなんや? 』
『 ・・・生きる? 』
『 そうや、
生きるや。 』
『 ・・・何・・
・・なんでしょうね・・・。 』
『 ・・・ハハハ
・・・そうか、そうか、
カリスマ占い師、浦無一輝にも流石にこの問題は解けんか!
ハハハ・・・ 』
『 あの・・
すみません・・・。
良い答え出せなくて・・・。 』
『 えーねん、えーねん。
・・いや、ちょっとな、お前に聞きたくなっただけや。
俺もまさか組の連中にこない質問したら、
【 とうとう横須賀も頭おかしくなったで~ 】
って言われるのが落ちやからな!
ちょっとな、
お前さんに聞いてみたかっただけや、
うん。 』
『 ・・・・・・・。 』
しばし時が流れた。
とてもゆっくりとした時間が。
そこには不思議と沈黙の息苦しさも無くて、
ただ見ず知らずの少年がボールを必死に打ち返す、
【カキン!】 という乾いた音だけが心地よく、
交わる事のない僕らを優しく包んだ。
『 ・・・どうして、
ヤクザになんかなったんですか? 』
『 ・・・・・・・・。 』
『 あっ、すみません、
つまんない事聞いて・・・
・・・何でだろうな?って、
ちょっと思っちゃったもんで・・・。 』
『 ・・・何やろな、
割と簡単やったで。 』
『 ・・・簡単。 』
『 あぁ。
・・・俺こうみえてもな、
ちょっとは有名な高校球児やったんや。 』
『 こ、高校球児!?野球の!?横須賀さんが!? 』
『 そうや!甲子園にも出たんやで!
ま、2回戦で負けてもうたけどな。 』
『 凄いじゃないですかー!マウンテンゴリラのくせに~! 』
『 な、何やと!?
・・マ、マ・・マウンドで泣きじゃくるヒヒ? 』
助かった・・・
横須賀殿がおバカで助かった!!
思わず気を許して心の声を口に出してしまった!!
ヒヒはどんなに野球が上手くても
甲子園には出れないよ横須賀さん!!
セーフ!
・・カワハギの皮一枚分セーフ・・・。
『 何でもないです、
それで?・・・ 』
彼はゆっくりと語り始めた。
自分の事なのに、
まるで他人の人生を語る様に。
でもそれはけして嫌なのではなく、
懐かしそうに、
時々微笑みながら、
ゆっくりと語り始めた。
『 甲子園出て、割とすぐやったなぁ、
明邦大学から推薦もらってな・・・。
小さい頃から勉強は出けへんけど
野球だけが取り柄やったから、
そらぁ、うちの母ちゃん大喜びしてな・・・ 』
『 ・・・・・。 』
『 二郎が東京の大学にスカウトされた!
スカウトされた!って、
そら、こっちが恥ずかしくなる位
近所のおばちゃん達に自慢してな・・
もう赤飯は届くは鯛のお頭は届くで
ちょっとした祭りみたいになってしもうて!
小さい町やったから、
みーんな自分の子供の事みたいに喜んでくれて・・
嬉しかったわ・・・・ 』
『 小さい頃から、ワシは兄貴と違おてやんちゃでな・・ 』
『 フフッ・・何となくわかりますよ。 』
『 そうか?
俺こんなファニーフェイスしとるのに? 』
『 ・・・・・・。 』
『 ・・冗談やがな・・。
まあそんなガキやったから、
野球してへん時は悪さば~っかりしてな
まぁとは言っても所詮田舎の子供や、
可愛いもんやったけど、
時々喧嘩して
警察のお世話になるやんか、
そうすると
母ちゃんすっ飛んで来てな・・・。 』
『 ・・・・・・。 』
『 ・・・【すんません!すんません!】って
・・・・汚なくて、冷たい警察の廊下に
必死に頭こすりつけて・・・
それでもおまわりに向かって言うんだよ、
【 この子は喧嘩ばっかりするけど、
ほんとは優しい子なんです!
親孝行で、
私の事いつも気遣ってくれて・・
だから今回だけは許してやって下さい!】 って
・・・一生懸命、床におでこ擦りつけて、謝るんだよ・・・。 』
『 ・・・・・・・。 』
『 それで何とか家帰るとなぁ、
【 ええかげんにしぃ!!】 って言って、
俺の頭げんこつでゴツーン!!殴ってな・・
ハハ・・そら痛かったで!
俺も母ちゃんには
【 ごめーん!!】 言うてな!
・・・うちは、
俺の小さい頃から親父がいなかったから、
母ちゃんは母親役も父親役もやらなあかんくて、
そらー大変やったと思うで・・・
苦労かけたわ・・・。 』
『 ・・・それで? 』
『 そんな俺に唯一できる親孝行っていったら
野球しかなかった。
だから必死に練習した、
高校入ってからは
それこそ喧嘩も辞めて
必死に練習した!
おかげで甲子園出て
少しは注目されて、
プロには行かれへんかったけど
東京の大学からは声掛けてもろうて・・・
俺が生きる道はこれしかない!!
って思ってな・・・
母ちゃんに誓ったんや。 』
『 母ちゃん、
俺東京の大学で活躍して、
4年後には絶対プロ行ったる!!
そしたら契約金ガボーっと貰うて、
母ちゃんに、でーーっかい家プレゼントしたる!!
母ちゃんが 【 掃除すんの大変や、二郎!!】 って
困る位のでっかい家建てたる!!
・・だから待っててな、
一人になって今は寂しいかも知れんけど
待っててな、
絶対に楽にしたるから!
・・って、
そう誓って、
俺は東京に出て来たんや・・・。 』
『 それで東京に・・・。 』
『 あぁ。
それで東京に・・
この街に来たんや・・・・ 』
・・・to be continue
■重要なお知らせ■
7/2(水)・3(木)
'渋谷RUIDOK2'にて、
第2回舞台公演決定!
・OPEN 22:00
・START 22:30
(~23:30終了予定)
すべて当日券のみ。
¥2,000(1ドリンク込)
皆さま、是非お越し下さい!
詳細はPCトップページよりご覧頂けます。。