Like Water For Chocolate (前編) | In The Groove

In The Groove

a beautiful tomorrow yea

2018年のヒップホップは、音楽シーンにおいて最も先鋭的である理由が揃っている。アメリカ社会が手に負えないほど複雑な理不尽さを極めていることを糾弾する時、言葉にメロディを乗せる必要がなくフロウで表現できるという自由奔放さは、ロックやポップにはないものだ。ミニマルな言葉やサウンドで示唆的に表現する「気分としての言葉や音」だけでは本質的なメッセージを伝えることが難しくなっている。ラナ・デル・レイが、アメリカの若者の気分を見事に活写した傑作『ラスト・フォー・ライフ』を出したにも拘らず名実ともにあまり評価を獲得できなかったのも、そうした世相の表れかもしれない。

―羽鳥麻美『rockin’on(20183月号/150)編集後記より

 

 

ひとひらの雪

 

ひとひらの雪が舞うことはあっても、雪が積もることはめったにないここ東京都心において、先月22日(月)に積雪を記録し、今月1日(木)夜にも雪が舞い、東京で雪化粧というロマンティックな夜を演出した。

付け加えるならば、先週5日(月)の23時過ぎ、WOWOWシネマでは渡辺淳一原作の映画『ひとひらの雪』(1985)が放映されていた。

 

米国ミュージック・シーンの最先端を走る

黒人ジャズ・ピアニスト<ロバート・グラスパー>と、

アメリカ社会の今を皮肉る真面目な黒人ラッパー<ケンドリック・ラマー

 

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018年初めのブログでは、ロバート・グラスパー(1978年生まれ)のブルーノート東京公演について感想を綴ったが、米国のミュージック・シーンに注目すると、(白人の)「ロック」は近年死んだように感じられる一方、(黒人の)「ヒップホップ」が鬱陶しいくらいに元気で活気に溢れている(笑)。そして、俺の人生のBGMに「ヒップホップ」は必要不可欠なのかどうか、それは大した問題でないにせよ、貧困層から成り上がったラッパー達の声(主張)に今こそ、我々が改めて耳を傾けるのも悪くないかもしれない。広義に解釈すれば、ヒップホップは「新しいジャズ」なのだろうか。

 

先月末に開催された60回グラミー賞において、「アメリカの今」を強烈に皮肉ったケンドリック・ラマーのパフォーマンスを憶えているだろうか。それは彼流の冷え込んだ多民族社会の底流とその再活性化の試みでもあったのだろうか。そんな政治色の強いラマーとその音楽仲間たちが一同に会した、黒人色の強い音楽の祭典において、彼と一緒にパフォーマンスを行った唯一の白人がU2のボノだった。

 

 

付け加えるならば、ラマーが2017年にリリースした新作『DAMN.』(直訳すれば「ちきしょう」)にフィーチャーされているのが、(デビュー当時から、政治色が強いイメージが払拭できない)英国を代表するグラミー賞受賞常連のロックバンド<U2>なのだ。参考までに、U2は最新作が全米1位を獲得したことで、80年代、90年代、2000年代、2010年代の作品がすべて全米1位を獲得しているモンスターバンドだ。

 

ところで、2014年の夏、アメリカのミズーリ州で、18歳の黒人男性マイケル・ブラウン>が白人警官ダレン・ウィルソンの銃弾で帰らぬ人になった事件は記憶に新しいが、その事件以前にも同様の事件が度々起こり、今回の事件をきかっけにいっそう米国では「ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter: 黒人の命は大切だ)」というスローガンの基、そのムーヴメントがアメリカ全土に広がっていった。貧困地区で生活する、抑圧された黒人の若者達が日常的に、白人警官に対し、“Me against the world(世界対オレ)”と孤立している姿が目に浮かぶ。

 

映画『クラッシュ』

 

Moving at the speed of life,

We are bound to collide with each other.

(人生は高速で流れ、僕達はお互いに衝突し合う。)

 

そう、以前、ブログでも取り上げたポール・ハギス監督の傑作『クラッシュ』(2004年)は、白人警官と黒人社会をリアルに描いているため、ケンドリック・ラマーの主張をより理解したい方にはオススメだ。

 

過去のブログで数回取り上げた際、俺は同作品について次のように言及していた。

 

それをうまくやったのが、第78回アカデミー賞作品賞を獲得したポール・ハギス監督作『クラッシュ』(日本公開2006年)であり、人種差別主義者の警官役を演じたのがマット・ディロンだった。クリスマス間近のロサンゼルスを舞台に、雪が降らない同市に、雪を降らせたその演出は見事であり、エンディングでは、ステレオフォニックスの“Maybe Tomorrow”が流れ、洗練を加味したのだ。

 

また、日本公開時に劇場鑑賞し感想を綴った・・・今から12年前となる2006213()付ブログ“Live your life at the point of impact”(テーマ: 映画)に興味がある方はどうぞ。

 

話を戻すが、先月足を運んだロバート・グラスパー日本公演は、2015年にリリースされたアルバム『Covered』中心のセットリストだったと、前回のブログで書いたばかりだが、

 

同アルバムに収録された1曲が、(カリフォルニア州の貧困地区コンプトン出身のケンドリック・ラマーのカヴァー曲“I'm Dying of Thirst”だ。

同曲のオリジナルは、ラマーが2012年にリリースしたアルバム『Good Kid, M.A.A.D. City(直訳すれば、狂った町に育った良い子=ケンドリック・ラマー』収録の“Sing About Me, I'm Dying of Thirst”だ。

 

そう、グラスパーは同曲をカヴァーし、再構築し直し、そこにお得意の洗練を加えてみせたが、同曲の冒頭では彼の息子とその友人が、先述した銃弾に倒れた黒人達の名前を次から次へと読み上げている。以前、ビルボードライヴ東京で行われたグラスパーのライヴが「」ならば、今回のブルーノート公演は「」だったとも言えよう。

 

真面目は素敵だ」と前置きしておくが、カリフォルニア州の貧困地区コンプトンで生まれ育ち、蛹から蝶々に変身した良い子版ラッパーケンドリック・ラマー>の音楽は、俺の趣味ではないのであしからず。とはいえ、オバマ前米大統領がお気に入りだったラマーの前作『To Pimp a Butterfly』(2015年)に限れば、歌詞はさておき、そのジャジーな楽曲群は俺好みのサウンドでとても興味深かったことを付け加えておきたい。デヴィッド・ボウイ2015年に同アルバムを聴いていたのは有名な話だが、1947年生まれのボウイが、2016110日に★になる2日前にリリースした傑作アルバム『Blackstar』もまた、ジャズに再接近したアルバムだった。

 

黒人たちが元気だ!

映画『ブラックパンサー』公開

映画『バッドボーイズ3』制作決定

 

自宅のCD

昨春から、レコード以外に、4000枚近く所有しているCDを、ソニーの…PCをはじめ、高級ネットワークオーディオや超高級ハイレゾ・ウォークマンに、夜の空いた時間を利用し、お気に入りCDを取り込み続けている。超高級ヘッドフォンを使用し、最新の音楽だけではなく、昔の音楽を視聴するのもまた楽しい時間だ。音楽を介した「記憶」の確認作業だね。

 

自分のうちに十分な熱狂がなくなれば、

いったい外へ飛び出たところで、

どこへ行くあてがあるのか。

ルイ=フェルディナン・セリーヌ著『夜の果てへの旅』より

 

音楽やワイン(シャンパン)、グルメ、海外旅行、ファッション(ハイブランド)」を趣味にすると、色んな意味でお金がかかるゆえ、「読書や映画」のほうが好奇心旺盛で知識欲のある学生にはオススメだね。先述した趣味をすべて若い頃から続けて、それを極めると、世の中が見えすぎて面白いよ、とっても。とりわけ、音楽鑑賞にはチョコレートのように、中毒性があるのも事実だ。

 

所有CDのジャンルは、圧倒的にハウスミュージック(ジャンル的にはElectronica)関連のアルバムがその半分以上を占めているが、その次に多いのがAcid Jazzであり、それに続くのがJazzClassicだろうか。その他は、 Rock, Pop, Soul and R&B, Reggae, World, Soundtrack等々に加え、Rap & Hip-Hopのそれも数百枚を数えるが、一度聴いただけで、もうかれこれ20年以上もの間、再視聴したことがないアルバムがほとんどだ。それゆえ、今年は趣味の一環として<ヒップホップ>のアルバムを聴き返し、再考察し始めた。点と点が結びつき、1本の線になり、ここ1か月程で、ヒップホップの歴史とその流れが明確になってきたよ。

 

バッドボーイズ

そう、1995に大ヒットした、マイアミを舞台にした黒人警官2人組が活躍するハリウッド映画『バッドボーイズ』を憶えているだろうか。

その2人組のひとりとは、10代からラッパー名をフレッシュ・プリンスとして音楽活動を行い、自身をおちゃらけた三枚目俳優だと自認していた<ウィル・スミス>(写真上: デビューアルバムリリースの1987年当時・19)その人であり、同作品への出演(当時27歳)がきっかけとなり、彼は二枚目俳優へとキャラを変え、ラッパーから超売れっ子俳優へ成り上がり、米国で最も成功した黒人俳優の座に現在君臨している。彼をスターにした映画の続編『バッドボーイズ2バッド』(2003)も大ヒットし、いよいよ今年、その3の撮影に入るのが決定した。

 

ブラックパンサー

付け加えるならば、黒人がスーパーヒーローを演じる映画ブラックパンサー』が今月16日に全米公開(日本公開は31日)されるが、そのサントラを担当しているのが、現代の米国ミュージック・シーンを牽引するアーティスト達であり、ケンドリック・ラマーがエグゼクティヴ・プロデューサーを務めている。全部は書かないが、(ロバート・グラスパーが参加した2016年のアルバム『Malibu』が最高な!)<アンダーソン・パーク>をはじめ、ラマー期待の新人<SZA(シザ)>、(ラナ・デル・レイとの共演も記憶に新しい)<The Weeknd(ウィークエンド)>、(カルヴィン・ハリスが昨年リリースしたアルバムにもフィーチャーされた)<Schoolboy Q(スクールボーイ・Q>、そして英国音楽界の最先端とも形容できる<ジェイムス・ブレイク>も参加するなど、まるでハリウッドの魔法にかかったかのように豪華なオールスターメンバーだ。

 

最後になるが、デビスカップ勝利のフォニーニ、そしてケンドリック・ラマーのフジロック出演決定、それぞれおめでとう!

 

後編に続く。

 

Have a nice weekend!