If You Knew | In The Groove

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a beautiful tomorrow yea


もう何年も前になるが、私が落ち込むたびに作家のジェイムズ・ボールドウィンがこんな言葉で励ましてくれた。「君が作り上げた人生はすべて君自身に責任があるんだよ、ニーナ。だから逃げ出さずに頑張るしかないんだ」。ジミーはいつも物事をありのままに受け入れる人だった。受け入れた現実がどんなに辛いものでも、彼はその姿勢を決して崩すことはなかったのである。



世界中を旅してきた私にとって、各国の主だった都市は思い出の宝石箱のようなものだ。さまざまな国の男性と恋に落ちた。そして、どの国の人々にも深い愛情を覚えた。特にアフリカの場合はあの大陸のすべてを愛さずにはいられなかった。友達を見ればその人の本性がわかるというが、自分の友達を思い浮かべると、私という人間はつくづく恵まれていたと痛感せずにはいられない。私はジミーに言われた通り、自分で作り出した人生を頑張って生き続けてきた。そうしてきて本当によかったと思うのは、長い年月が過ぎた今でも、生きることの喜びが続いているからである。

ニーナ・シモン with ステファン・クリアリー著『ニーナ・シモン自伝』より



ニーナ・シモンの記憶



アメリカを代表する黒人女性シンガーソングライター<ニーナ・シモン>(19332003/享年70歳)の歌声を、俺が初めて聴いたのは1983年まで遡るが、デヴィッド・ボウイ繋がりで、ボウイが歌った曲“Wild in The Wind”を、彼女がかつて歌っていたことを知ったのがきっかけだ。長い間、彼女が俺のお気に入りジャズ・シンガーのひとりであるのは確かであり、彼女をトリビュートしたアルバム『Nina Revisited...A Tribute To Nina Simone』が昨夏にリリースされたのは記憶に新しい。彼女を題材にした映画然り、ね。



トリビュート・アルバムのプロデュースを務めたのは、他でもないローリン・ヒルロバート・グラスパーの2人であり、全収録曲(16曲)中、ローリン・ヒルが5曲、そしてニーナ・シモンの娘<リサ・シモン>(1962年生まれ/現53歳)が2曲を歌いあげているのだ。



ニーナ・シモンに関して、以前のブログでも何度か取り上げたが、例えば、2013年9月19日()付ブログ“Fly Me To The Moon ”(テーマ: 音楽)では、リミックス・アルバム『VERVE REMIXED: THE FIRST LADIES』をオススメしたのを覚えているだろうか。当時のブログから、以下一部抜粋して紹介したい。



今回オススメするアルバム『VERVE REMIXED: THE FIRST LADIES』の特徴は、21世紀の最先端を走るEDMを代表するDJたちが、ヴァーヴ・レコードの音源から、偉大なる女性ジャズ・ヴォーカリストたちの名曲を選び出し、リミックスさせ、モダンに蘇らせた点だろうか。正に、ジャズとEDMの融合とも言えるが、リミックスする側、そしてリミックスされる側(ジャズ・ヴォーカル界のファースト・レディたち)のいずれも、とても興味深い面々ばかりなのだ。



3曲目に収録された、(1933年アメリカ生まれの)<ニーナ・シモン>の“Feeling Good”(1965年)。同曲は、1975年生まれのカナダ人<マイケル・ブーブレ>がカヴァーし、以前のブログでもオススメしたように、日本国内においては、ホンダ「アコード」のハイブリット車のCMで使用されているため、ご存じの方も少なくないはずだ。ニーナの原曲を、今回リミックスしたのが1978年生まれのアメリカ人DJ<ベースネクター>だ。

もう1曲選ぶならば、同じくニーナ・シモンで、6曲目に収録された“Dont Let Me Be Misunderstood”(1964年)だ。シャーリーズ・セロンが起用された、ディオールの香水<ジャドール>のCMで、同曲が使用され、以前のブログでも取り上げたため、このブログ読者は聞き覚えがあるかもしれない。同曲を今回、リミックスしたのが、2人組カナダ人DJの<ゼッズ・デッド>だ。



そして、2015年7月13日()付ブログ“Absolutely fantastic ”(テーマ: 音楽)では、ニーナ・シモンのトリビュート・アルバム『Nina Revisited...A Tribute To Nina Simone』について触れたので、興味がある方はどうぞ。



ニーナの娘<リサ・シモン>初来日公演@コットンクラブ



前置きが長くなってしまったが、リサ・シモンの初来日公演を体験するため、丸の内の商業施設ビル<TOKIA2Fに位置するライヴ・レストラン<コットンクラブ>に先日足を運んだ。当日のファッションは、ジョルジオ・アルマーニ(『TOKYO』ライン)のスーツに、バルバ(イタリア・ナポリのシャツブランド)の白シャツ(麻素材)、ブランパンの腕時計、足元はエルメスのシューズだ。



2ndステージ(21:00~)が始まるまで時間に余裕があったため、久々に、フォーシーズンズホテル丸の内東京でのディナーを選択した。スノッブな雰囲気が漂う同ホテル7Fに位置するレストラン『Motif』で、シャンパン【その日のグラスシャンパンは、ボランジェ(3400円)アヤラ(2500円)の2種類/税8%・サーヴィス料15%は別)】をいただきながら、ディナーを愉しんだが、夕暮れ時から日没までの間、眼下には東京駅に入ってくる新幹線の光景が、大きなガラス窓越しには、銀座界隈のパノラマヴューな夜景が、そして遠くには東京タワーが眩しく輝いていた。



そして徒歩で、コットンクラブへ。早速、シャンパンをいただこうと、メニューをチェックしたが、グラスシャンパンの銘柄は、マム1種類のみで、価格は1400円(税8%・サーヴィス料10%は別)と、外資系超高級ホテル<フォーシーズンズホテル>のそれに比べると、とっても良心的だった。席に着くなり、15分ほどでシャンパンをひとりで3杯おかわりし、リサ・シモンが登場するまでの数分間、先日劇場鑑賞したドキュメンタリー映画『ノーマ、世界を変える料理』について談笑した。同作品に関しては、気が向けば、後日ブログで感想を綴るかもしれない。



シャンパン片手に談笑していると、リサ・シモンが姿を現し、コットンクラブの夜は静かに幕を開けたのだ。

ライヴの感想を綴る前に、リサ・シモンのアルバムは、2008年に母ニーナの楽曲をカヴァーしたアルバム『
Simone on Simone』をはじめ、


オリジナルアルバムでは、2014年に『
All Is Well』を、


2015年に『
My World』をそれぞれリリースしている。先述した母ニーナのトリビュート・アルバム『Nina Revisited...A Tribute To Nina Simone』への参加を含めると、彼女の歌声を聴けるのはこの4枚だと思われ、俺自身、すべて所有しているが、オリジナルアルバムに関しては、とりわけオススメはしない。



現在53歳のリサ・シモンは、ブロードウェイ・ミュージカルに出演する女優であり、彼女の本格的な音楽活動はごくごく最近のことであり、2008年のカヴァーアルバムを除けば、一昨年リリースしたファースト・アルバムと昨年リリースしたセカンド・アルバムが始まりなのだ。したがって、彼女が2000年代以前に何をやっていたのかは知らないが、2003年まで母ニーナが健在だったというのは事実だ。



ところで、ブログ冒頭で引用したニーナ・シモンの自伝本は、アメリカで1991年に刊行され、邦訳本が1995年に刊行された。同書のはじめには、「ノース・カロライナ州のトライオンで生を受けたニーナ・シモンは、幼少の頃から20年間にわたってクラシック音楽の教育を受け、やがてアトランティック・シティのクラブに出演中、歌手としての人気を得るようになった。1959年の最初のヒット曲<I Loves You, Porgy>以降、これまで50枚以上ものレコードを出している。数々のヒット曲の中でも<I Put a Spell on You>、<Don't Let Me Be Misunderstood>、<Mississippi Goddam>などは最もよく知られている」と紹介されている。



50枚以上ものアルバムをリリースし、伝説となった黒人女性ジャズ・シンガー<ニーナ・シモン>の生の歌声を俺の生涯で聴く機会はなかったが、今回ニーナの娘<リサ・シモン>の歌声を初めて耳にしたわけだが、母ニーナとは明らかに異なるそれであり、ジャズというよりも寧ろ、ポピュラー・ミュージックの領域に近い楽曲のオンパレードで、誰もが知っているようなヒット曲がないためか、一部の観客は異様に盛り上がっていたと前置きしておくが、観客を圧倒させるまでには達せず、会場内はあまり盛り上がっていないようにも思われた。

とはいえ、彼女がブロードウェイ・ミュージカル出身の女優だからだろうか、彼女はライヴ途中、観客席を回り、観客ひとりひとりに握手(俺も握手をした)を求め、その底抜けに明るいキャラクターが、母ニーナとはとても対照的に、俺の眼には映ったのだ。
フォーシーズンズホテルでの素敵なシャンパンディナー後、コットンクラブでもシャンパンをいただき、その夜もまた、俺の気分は高揚し、ハイだった。そんな至福な時間が流れていった。



リサがライヴ途中、「私の母親を誰だか知ってる?」と自虐的に、我々日本人の観客に問いかけ、その後、母ニーナの楽曲を1曲披露してくれたが、或る意味、その歌声はニーナ・シモンを彷彿させるようなそれであり、夢か現実か、それは偉大な母ニーナと娘リサの過去と現実が交錯した瞬間でもあった。俺はそんな素敵な瞬間に居合わせ、それを体験できただけで、今回足を運んだ価値が十分あったように思う。



最後になるが、リサ・シモンの初来日公演は、コットンクラブで3日間(6月8・9・10日)行われ、そして本日より、ブルーノート東京公演が2日間(6月11日・12日)行われるので、興味がある方はぜひどうぞ。そう、今の時代、人々の興味や個人消費は、「モノ」から「体験」へと移行しているのかもしれない。



Have a nice weekend!