私は、この本を読むまでは、目の見えない人について少し誤解をしておりました。おそらく、身近に視覚障害の人がいなかったからかも知れません。
私が目の見えない人と同じ体験をするには、単に目をつぶったり、アイマスクをつけて視覚を遮ればいいと思ってたからです。ところが、著者は「見えないことと、目をつぶることは全く違うことだ」と、次のように述べています。
「視覚を遮れば見えない人の体を体験できるというのは大きな誤解です。それは単なる引き算ではありません。見える人が眼をつぶることと、そもそも見えないことはどう違うのか。見える人が眼をつぶるのは、単なる視覚情報の遮断です。つまり引き算。そこで感じられるのは欠如です。
しかし私がとらえたいのは『見えている状態を基準として、そこから視覚情報を引いた状態』ではありません。視覚抜きで成立している体そのものに“変身”したいのです。そのような条件が生み出す体の特徴、見えてくる世界のあり方、その意味を実感したいのです」
この本は、視覚障害者らと長い期間にわたって交流し、日々のさりげないおしゃべりやワークショップを通じて、著者なりに推測した視覚に寄らない「世界の別の顔」の姿をまとめたものです。
人間が外界から得る情報の8~9割は視覚に由来するといわれています。私たちは、ともすると目でとらえた世界がすべてだと思い込んでしまい、「世界の別の顔」を見逃しているようです。そこで彼は、目の見える人では捉えることが困難な「世界の別の顔」を捉えようとしたのです。
「見えない世界しか知らない人にとっては、逆に目で見た世界が『別の顔』になります。そして世界の別の顔を知ることは、同時に自分の体の別の姿を知ることでもあります。手で『読ん』だり、耳で『眺め』たりと、通常は眼で行なっている仕事を、目以外の器官を使って行なってみるわけです」
目の見えない人の世界を知ることによって、私たちは彼らから多くのことを学ぶことができます。それについて、著者は次のように述べています。
「私たちは体が持っている可能性のほんの一部しか使っていません。見えない人の体のあり方を知ると、そのことを強く感じます。障害者とは、健常者が使っているものを使わず、健常者が使っていないものを使っている人です。障害者の体を知ることで、これまでの身体論よりもむしろ広い、体の潜在的な可能性まで捉えることができるのではないかと考えています」
【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)