【社会保険審査会裁決】傷病手当金 懲戒処分の「出勤停止」期間中はもらえるの?  

 みなさま、こんにちは。社会保険労務士法人東京おむろ人事サービスです。今日は、社会保険審査会で裁決されたものについて整理します。

 従業員が不祥事を起こして懲戒処分(出勤停止や解雇)を受けた場合、会社としては「働かなくてよい(働かせてはいけない)」状態になります。では、その不祥事の原因が病気(アルコール依存症など)であり、出勤停止期間中に病院に入院していた場合、傷病手当金は支給されるのでしょうか。

 今回取り上げるのは、会社から出勤停止処分を受けて労働の義務がない期間について、「療養のため労務に服することができない」要件を満たすかが争われ、不支給処分が取り消された事例です(令和2年(健)第1131号、令和3年8月31日裁決)。

1 事件の概要 

(1) 何が起きたか

  請求人は、ある会社の従業員でしたが、出勤途中に追突事故を起こし、基準値以上のアルコールが検出されたため逮捕され、翌日に釈放されました。会社は請求人に対し、出勤停止を命じ、その後、懲戒解雇しました。

 一方で請求人は、釈放後に病院を受診してアルコール依存症等と診断され、そのまま入院治療を受けました。 請求人は、この出勤停止期間と解雇後の期間について、傷病手当金を請求しました。

 

(2) 保険者が問題にした点 

 保険者(健康保険組合)が問題にしたのは、会社から出勤停止を命じられている以上、そもそも「労働の義務(労務)」が発生していないという点です。  出勤する義務がないのだから「病気のために働けない」状態には当てはまらないとして、出勤停止期間の傷病手当金を不支給としました。さらに、その期間が不支給となる結果、退職日(資格喪失日)に傷病手当金を受給していないことになり、解雇後の期間についても継続給付の要件を満たさないとして不支給処分を下しました。

2 裁決 

 社会保険審査会は、保険者の原処分を取り消し、傷病手当金の支給を認めました。

(1) 争点 

 裁決が整理した争点は、療養のため労務不能であれば、出勤停止処分などで労働の義務が発生しない日(賃金請求権を有しない日)についても傷病手当金を支給すべきか否かです。

 

(2) 医師の回答と事実認定

  裁決は、請求人が当該期間においてアルコール依存症等により入院治療を受けていたという客観的事実から、療養のため労務不能であったと認定しました。

 

(3) 判断の核心

 裁決は、健康保険法第99条1項が傷病手当金の要件として「療養のための労務不能であること」のみを定めており、その日が「労働の義務がある日」であることを要件としていないと指摘しました。公休日であっても労務不能であれば支給されるのと同じように、出勤停止という懲戒処分によって雇用契約上の賃金請求権が発生しない日であっても、医学的に労務不能であって賃金を受けていないなら、傷病手当金は支給されると解釈すべきであるという判断いたしました。

 

 これは、 最高裁(昭和58年10月13日判決)は、休業補償給付は「病気けがで治療中のため働けず、賃金も受けられない」ことを満たせば支給され得る、と整理しています。休日や出勤停止など、雇用契約上の賃金請求権がない日でも、上の条件を満たす限り対象になり得る、という考え方です。

 

(4) 結論

  出勤停止期間中は療養のため労務不能であったとして傷病手当金が支給されるため、資格喪失時にも受給権を満たしており、解雇後の期間についても継続給付が認められるという結論になりました。

 

3 私の考察 

(1) 労働義務の有無と「労務不能」は切り離して考える

 本件は、懲戒処分という会社側のペナルティと、健康保険という公的な生活保障の制度をどう切り分けるかが問われた事例で、極めて妥当な裁決と私は考えます。

 保険者からすると、出勤停止を命じたのだから働く義務がない、だから傷病手当金も支給しないと考える気持ちもわからないではありません。

 ただ、もう少し考えて欲しい。退職後の傷病手当金は、ある条件の下、退職して会社から給与を支給されていないのに、支給される制度です。

 会社から給与を支給していなくても傷病手当金が支給される制度も存在する以上、支給するのは妥当と考えます。

 もっとも、健康保険法が求めているのは、医学的に本来の仕事ができる状態か否かという事実です。出勤義務が免除されていても、病気で入院している事実があれば、制度上は手当金の対象になるという法解釈は、実務において非常に重要な視点です。

 

(2) 懲戒解雇と継続給付の要件 

 また、本件で保険者が不支給とした背景には、退職日の要件があります。退職後も手当金をもらい続けるには、退職日に労務不能であり、かつ受給要件を満たしている必要があります。

  もし出勤停止期間が不支給になれば、解雇された日(退職日)の受給権が消滅し、その後の継続給付がすべて絶たれてしまいます。裁決が出勤停止期間の支給を認めたことで、継続給付の鎖がつながり、請求人の生活保障が守られた点に大きな意義があります。

 

 

【参考文献】 ・厚生労働省 社会保険審査会裁決 令和2年(健)第1131号(令和3年8月31日裁決)

 

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