最近「民事信託」という四文字を見かけるとつい雑誌を立ち読みしてしまう、民事信託推進センター会員の弁護士小池です。

 

「ニュースを読んで考えた」なのに、テーマが「ニュース以外」となってしまうあたり我ながら適当だな、と思いますが、気になったので書いておきます。

 

かなり長い文章ですので、適宜略して引用します(それでも、少し長いとは思いますが…)。

 

●疑似父娘?

 

肉体関係はナシだが「体の洗いっこ」はアリ!?若い女性と中年男の疑似“父娘”交際のリアル

http://diamond.jp/articles/-/94089

 

「彼女の美しい時期を一緒に過ごせる。それだけで僕は満足なんです。心と心、魂と魂が触れ合う素敵な時間を共にできる。これ以上の贅沢はありませんよ」――。

 

今、男性が毎月一定額を女性に支払い、食事やプレゼントはもちろん、日常の些細なことから人生相談まで乗るという約束で交際するカップルがにわかに増えつつあるという。

 

こうした存在の男性を女性が探すことを「パパ活」というのだそうだ。そしてこの関係で交際する男性は「パパ」、女性は「パパ子」と呼ぶのだとか。

 

 「パパ活交際」の特徴は、なんといっても性的関係を持たないこと。バブル期にも大流行した、中高年男性が若い女性に貢ぐ“パトロン”は、性的関係も込みであることが暗黙の了解だったが、昨今のパパ活交際はそうではない。パパはパトロンではなく、「あくまでもパパ(父親)」(パパ活交際中の23歳・女子大学院生)。だから、体の関係を持つつもりは全くないというわけだ。

 

(中略)

 

JR山手線「五反田」駅から歩いて5分ほどの距離にあるレンタルルーム。ここで現在23歳の女子大学院生との「父娘(おやこ)対面」の時間を終えたばかりだというマサヤさん(44歳)に話を聞いた。

 

 「若い彼女との関係は、決してやましいものではありません。彼女が言うようにあくまでもパパ(父)とパパ子(娘)。自分で選んだ親と子です。だから父娘水入らずでくつろいでいただけですよ。そこに邪な考えを持つのはちょっとどうかと思いますね」

 

(中略)

 

「体だけが男女を繋ぐものではありません。お互いがお互いを必要とし、心癒せることが大事なのです。彼女は僕の青春時代を思い起こさせてくれる、かけがえのない存在。これからも生涯、“娘”として大事にして僕の人生を賭けたいです」

 

大学院修士課程まで出たが博士課程への進学は認められず、以来、ずっと塾や家庭教師、運送店の仕分けバイトで生計を立ててきたというマサヤさんがこう語るのを聞き、パパ子である女子大学院生が隣で頷く。たしかにその様子はさながら実の父娘のようだ。

 

(中略)

 

「僕も地方ではね、高校まで結構デキたほうだったんですよ。きちんとした会社勤めをして…という人生を歩むには、あまりにも今の社会は汚なすぎる。だから僕が彼女を守ってあげたくて。それで父娘の関係なんです」

 

2年前、運送店の仕分けバイトで出会ったというマサヤさんと女子大学院生。「娘の人生を守りたい」と意気込むマサヤさんではあるが、実際には、世間で想像されているような大きなお金が動いている訳ではない。

 

 「毎月2万円の『仕送り』と食事やカラオケ、レンタルルーム代の実費が僕の負担です。最近は週に1度、レンタルルームのサービスタイムの時間に『父娘の時間』を設けています。仕送りの2万円には彼女に作ってもらうお弁当の食費代も含んでいます」

 

(中略)

 

週に1度、レンタルルームのシャワーで「父娘として体を洗いっこする」(マサヤさん)。通常の父娘なら言うまでもなくレッドカードだが、マサヤさんと女子大学院生は「それほどに深い関係なのだ」と説明をする。だからこそ肉体関係こそなくてもマサヤさん、女子大学院生共に満足できるという。

 

 「40歳を超えて、僕も性的にも衰えが出てきました。だから彼女と体の関係なんて露ほども考えていません。体を洗ってもらい、洗ってあげて、彼女の研究をみてあげて…。これで大満足です」

 

こう語るマサヤさんの横で、女子大学院生は恥ずかしそうに俯く。今時珍しいくらいの純朴ぶりがそこはかとなく伝わってくる。取材を終えて帰り支度をという時、女子大学院生が明るく声を張り上げた。

 

 「パパ!そういえば今月の仕送り、まだもらっていないんだけど――」

 

渋々といった面持ちで財布から1万円札を2枚取り出すマサヤさんの表情が心なしか曇ったようにみえた。その様子は、まるで風俗店で支払いを済ませる客のようだった。

 

(中略)

 

「定年まで典型的な『やる気のない教員』でした。朝は始業時間ぎりぎりに出勤、残業は絶対にしない。部活動も持たない。同じ教員の嫁と結婚しましたが夫婦関係はずっとギクシャクしたままでした。酒や博打はしません。その代わりが女性という訳です…」

 

こう語るトモナリさんは30歳の頃、先輩教員からの勧めもあって見合い結婚をした。だが、結婚当初から5歳年下の妻とは不仲だった。パパ活交際をする前は、風俗店やテレクラに通い詰めたというトモナリさん。しかし、そうした場所では決して満足を得られなかったようだ。

 

(中略)

 

 「今の彼女、前の彼女、どちらとも体の関係は一切ありません。ただ食事をして、毎日メールや電話で相談に乗ったり愚痴を聞いて…というだけです。プレゼント?一切していません」

 

約2年の交際の末、自然消滅した前の彼女はトモナリさんよりも20歳年下だった。彼女には時折、服やバッグをプレゼントしたが、やがて彼女のほうから「現金のほうがいい」という申し出があった。その経験から、今の彼女には毎月渡している5万円のほか、洋服代として3万円渡している。毎月計8万円の出費だ。

 

 「年金生活の身には、正直きついです。でも、女性と関わることで毎日が楽しい。その対価と思えばどうということはありません」。使い古したガラケーの時計を見ながらこう話すトモナリさん。聞けば、「彼女のクルマを洗車する約束」があるのだという。

幸いにしてというべきか、私は上に出てきた男性たちのような「活動」はしていませんが(笑)、読んでみて、釈然としないというか、複雑な気持ちになりました。

 

上の引用部分にも出てくる、「パトロン」という関係なら、非常にわかりやすいと思うのです。たとえはよくありませんが、売春と同じです。女性の性的側面をカネを出して買っているからです。

 

しかし、

 

お互いがお互いを必要とし、心癒せることが大事

 

な関係というのは、そもそもカネを出して買うものなのか、という気がしませんか。

 

そうは言いましたが、昨今の急激な社会の変化を考えると、こういう事態が起きるのはある意味必然のような気がします。

 

その社会の変化というのは、端的に言えば、「社会のあらゆる側面で自由競争が行われるようになった」ということです。

 

●人は常に価値を計られて生きている?

 

昔であれば、与えられた環境や人的関係を「あたりまえ」と考える人が多かったと思います。親子であれば同居するのは当然だし、結婚は見合いでするもので、人間関係は選ぶというよりは受け入れるものだったのではないでしょうか。

 

しかし、高度成長期を境に、生まれ育った場所(主に地方)から別の場所(主に都会)へ移転し、そこで新たな人生をスタートするということが一般的になりました。それに伴い、結婚相手は自由意志に基づき選ぶものだという風潮が強まりました。

 

それでも、昔はその「自由化」は緩やかなものでした。地方というムラ社会の代わりに、職場というムラ社会が人をつないでいたし、そもそも「より良い他人」という選択肢を知る手段がなかったからです。

 

それが激変したのが、バブル崩壊後の経済環境の激変インターネットの普及です。前者により、日本社会は不安定な非正規雇用が増大しました。それに比例して、安定した収入を得られることや、大きな財産を持っていることの価値がより高く計られるようになっています。

 

また、ネットの普及は、情報の流通を低コスト化し、今まで比較しづらかったものや、日常生活で接しにくいメッセージに接する機会を広げました。

 

こうして我々が今立っている社会は、「人的関係は選び取られるもの」ということを前提にしており、人として生きている以上、常に「選ばれる」ことを意識せざるを得なくなっています

 

皆さんはよくネットで、「何があっても付き合ってはダメな男の特徴5つ」とか、「もしかしてあなたも?毒親にならないためにチェックすべき10のポイント」みたいな記事を見ませんか。あれは、人間を取捨選択するための情報や、他人に選択してもらうための方法論なのです。

 

そういう記事が当たり前になるくらい、我々の社会では、「人間としての価値の自由競争」が激しく行われているのです。

 

もちろん、だから昔のほうがよかったという価値判断はここではしません。事実としてそういう風になっているというだけです。

 

●パッとしないおじさんの生きる意味は?

 

冒頭の引用記事で「パパ」となっているのは、全て中年男性です。

 

この中年男性というのは、今の日本社会では、ある条件が欠けていると、かなり厳しい立場に立たされる人たちといえます。その条件とは、「金を稼ぐ能力があること」です。

 

なぜそうなってしまうのかというと、日本人の多くが、中年男性の社会的役割を固定化し続けてしまっているからです。その役割とは、「一家の大黒柱」というものです。

 

江戸時代までは決してそんなことはなかったのですが、明治時代に旧民法が導入され、戸主となることができるのは男性に限るなど、政府が性的な役割分担を固定化しました。その雰囲気が抜けないまま高度成長期を迎え、正規雇用の大半を占めていた男性の役割は、事実上の戸主、すなわち、一家を養うだけの賃金を稼ぐ役割にすり替えられてしまったのです。

 

しかし、今や(正社員だけでいえば)男女の賃金格差はいっときよりかなり縮まり、お父さんが一家の大黒柱という状況はあやしくなってきました。女性が労働市場に加われば、男性の正規雇用としての価値が落ちるのは当然です。

 

そこに加えて、人の価値が自由競争にさらされると、たまったものではありません。稼げない中年男性は当然排除されます(男女ともにだが、男性の方が見方は厳しい)が、カネを稼げてもコミュニケーション能力がない場合は不適格者としての烙印を押されてしまいます(こちらは女性の方が見る目が厳しい)。

 

日本人というのは、世界的に見ても、積極的に人間関係を作っていくタイプの人が多い民族ではありません。そもそも、天候に合わせて黙々と働く農耕民族を長年やってきたのに、まるで港町の商人のように外交的になれといっても、適性が欠けている人がほとんどでしょう。

 

そうやって、今の社会では人間関係から排除された中年男性がどんどん増えてしまっているのです。異性との性行為を経験していないまま中年になってしまう男性(中年童貞)が増えているという話も、似たような現象でしょう。

 

●それでも人とつながりたい

 

上の引用記事で、示唆に富んでいる部分があります。それは、二人目の男性が

 

同じ教員の嫁と結婚しましたが夫婦関係はずっとギクシャクしたまま

 

だったと言っている部分です。形の上では夫婦になっているが、実質がそうなっていない。これも、一つの排除のかたちです。昔であれば、違和感を感じてもそういうものだと諦めていたわけですが、今は「夫婦仲がうまくいかないときの男性側の7つの原因」みたいな記事をネットですぐに検索でき、妻の方が「あーこれあるある!やっぱりうちの人がまずいんだわ」となったりしますから、目の前の相手のダメなところを受け入れるのは難しいでしょう。

 

相手との兼ね合いもあると思うのですが、この男性も、夫婦間の関係調整がうまくできない人なのだと思います。

 

しかし、そうはいっても、人間はひとりでいられない生き物なのでしょう。引用記事の中年男性たちは、身を持ち崩さない程度の出費と引き換えに、異性との関係性を買い、それを生きるヨスガにしているというわけです。

 

二人目の男性が言っているセリフの

 

女性と関わることで毎日が楽しい。

 

という部分が、それをよく表しています。

 

もちろん、こういう状況が健全であるとは思いませんし、私の同級生に「パパ」をやっている既婚者がいたら、「奥さんいるのに何やってんのおまえ」などと言いたくなってしまいます。

 

上の引用記事でも、一人目の男性が、「娘」に「仕送り」をせびられたときに、

 

渋々といった面持ちで財布から1万円札を2枚取り出すマサヤさんの表情が心なしか曇ったようにみえた。

 

というのですから、「パパ」の方でも、結局こんなのは売春みたいなものだという後ろめたさ、もっといえば、カネで買うべきではないものをカネで買っている居心地の悪さというものを感じているのではないでしょうか。

 

●一人ひとりが見直したいこと

 

しかし、そういう中年男性を断罪したところで、異性との関係性をカネで買わざるを得ない社会の価値観が変わらない限り、似たようなことはどんどん起き続けると思います。

 

だから、解決策というのではないのですが、私も、皆さんも、もっと「お父さん(中年男性)は一家の大黒柱であるべきだ」という、もっといえば、「男とは」「女とは」「家族とは」とかいう、固定化した価値観について、本当にそれでよいのか、他にもいろいろ考えがあっていいんじゃないのかと思い直すべきなんじゃないでしょうか。

 

そうすれば、少しは変な競争も沈静化してくるような気がします。

 

私は離婚事件も扱っていますが、私が生まれた1975年に比べ、離婚件数は2倍近くなっていますが、婚姻件数は逆に3割低下しています。こういう時代には、その時代に合わせた価値観のリラックスも必要なんじゃないかなと思います。

 

伝統的な家族観を今さら蒸し返しているどこぞの大政党の改憲案などを見ると、時代の逆ネジを巻こうとしている気がして不安になりますが…。

 

価値観はともかくとして、離婚事件に限らず、めんどうごとの法律相談は当事務所におまかせ下さい。

 

 

東京けやき法律事務所

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