彼は、夜11時の駐車場で彼らしくもないことを考えていた。
この駐車場に初めて来てから、どれぐらいの時がたっただろう?
この駐車場でどれぐらいの時間を仲間と過ごしただろう?
この駐車場で何回、馬鹿なことをやっただろう?
この駐車場で・・・・・・・
いつから自分はこんなことを考えている?いや、そもそも自分はいつからここにいるのか。
そしてこんな肌寒い季節に部屋着で駐車場にいるのはなぜだろう?
ああそうだ。ここにはもう来れなくなるんだっけ。
そうだそうだ。だから急いでやってきたんだ。
今日で駐車場はなくなっちゃうんだった。
明日、11月9日は和田ビルの建設開始日。
その和田ビルの建設場所はここ。今、俺がいる場所。
小さな駐車場だ。
都市開発はあらゆる空き地を消し去ってきた。
学校の運動場でさえ縮小されて、空いたスペースにビルが建てられる時代だ。
ましてや利用客のいない駐車場など、どうして残す必要があるだろう。
さっさとビルでも建てた方がよほど世のためだ。
その理屈はわからなくもない。
でも、この駐車場は。
でも、そんな事は気にする必要はないんだ!
駐車場がなくなったって、思い出までがきえるわけじゃない!
みんなと過ごした日々を消すことは出来ない!
駐車場は!俺たちの中で永遠に存在し続けるんだ!
さあ!いこう!この世界すべてが!
僕らの駐車場なんだ!
と、山根は思うのだった。
小さな駐車場の物語
完