レジに並ぶと前列の女子が支払いに手間取っていた。
列の後ろの方から囁く女性の嗄れた声。
「はよしーなー」
「はよしよしー」
指揮者がタクトを上下させると次から次に騒めきのオーケストラが始まる。
あー。嫌だ
こーゆのホント嫌い。
かわいそーじゃないか。
たっぷり誇りを含んだ汚い雨に傘をさすかのように、つい出しゃばってしまった。
「貸してみな」
「こーして翳すんだよ」
げ。こりゃあ、あかんわ
この店では使えないカードだ。
高校生くらいの女の子が何度もタッチトライしていたカードは、泥が付着したナナコカードだった。
少女の買い物カゴの中身は大型のペットボトルに入った水、一本だ。
俺は、とっさに、手に持っていたVISAをナナコカードの下に重ねて、再度チェッカーに翳した...
「支払い完了」
パネルに文字が表示された。
「凄いスゴーイ!」
喜ぶ少女に、ナナコカードの下にそっとしのばせたVISAを手品師のように抜いて、泥で汚れたナナコカードを少女に手渡した。
「まほーだ。」
自分の分を清算して、袋詰めをして外へ出ると、三角巾で左腕を吊ったナナコカード娘が小雨を見上げていた。
世話のやける子だ。
リュックから折り畳み傘を出して、ナナコの右手に吊されたペットボトルとバトンタッチするように傘を持たせて「大人男子」を演じてみせた。
「持ったげるよ。」
振り向き様にナナコのポニーテールが頬をかすめると、フローラル系の芳しい香りがした。
「キモ!!」
げ。ピンクの口紅つけた、おませな高校生....!